第7話
とある朝。
ピンポンパンポーン
『森野 柚葉さん。至急、校長室まで来てください』
「…」
は?
校長室にて。
「これを娘に届けてやってほしい」
そんな事で呼ぶなよ。
「これ、弁当ですか?」
「あぁ、どうやら家に忘れたらしくてな。仕方なく。だが、取ったのはいいのだが私は会議に行かなければならないからな」
「…他にも適任がいましたよね?心花とか」
「心花君も今忙しい。それに、もう来たのだから、持って行ってくれ」
「…」
おかしい。何か計算されいるよな…。
そこで俺は気になる事を質問してみた。
「そういえば、体育の先生は元気ですか?」
「あぁ。彼は今も授業に真摯に取り組んでいるよ」
「…盗撮をしたのに?」
「柚葉君。言い方を考えてくれたまえ。だが、確かにそのような事実も存在する」
「…おかしいと思うんですよね」
「何がだ?」
「まず、学年全体に情報が行ってないこと 」
「ふむ。伝えるべきなのに、伝わっていないと?」
「はい」
「それは本校の信用を落とさないためと、今回が初めてだったからな」
「それにクラスメイト全員、どこか演技じみていたんです」
「それは、そう聞こえただけではないか?」
「そして、あのカメラはライブ映像でしたが、先生は一度もスマホを弄っていないんですよね」
「つまり?」
「ライブ映像を見ている間は撮るか見るかしているのに、充電が減っていないし、スマホも触っていない」
「触っていなくても、撮れはする」
「そして、撮っている中には、愛羅がいました。それが何よりよりの証拠。あなたは愛羅の裸を撮られたとしたら、すぐに処罰するはずだ」
「…確かにな」
「それに、僕ならそうします」
「…。やられたよ。全て愛羅の差し金だ」
「何故止めなかったのですか?」
「あの子は、人と関わるのが苦手なんだ。そんな子が人に興味を示した。それも、異性の相手に」
「…それが僕ですか」
「そうだ」
「でも、僕は相応しくありません」
「それは自己分析を誤っていると私は思う。君は、とても優しい。それも、他人の事をちゃんと、考えている優しさだ」
「…」
「その人のためにならない優しさをちゃんと分かっていてそれでいて、そんな時は優しくしない。真の優しさを君は持っている」
「そうですかね」
「あぁ。私が保証しよう」
「それは、僕があなたと似ているからですか?」
「いいや。こんな優しさは、わたしでも持っていないよ」
そんな言葉を聞いた瞬間、
ズレが生じた気がした。
「…そろそろ会議だから行こうかね」
「…それでは、失礼しました」
「待て」
校長室のドアに手をかける前に呼び止められた。
「信じられないのなら、君の友達に聞くといい。きっと、いい答えが待っているよ」
「という訳で、心花。俺のいい所ってなんだ?」
「どうしたんだ藪から棒に…」
「俺は校長の言っている事が信じれない」
「…まぁ、優しい所じゃないか?」
「えぇ…?」
「なんだその反応は」
「他のやつでお願いします」
「…ないな」
「は?」
「お前は、悪い所が多すぎる。少しイジワルで、自分嫌いで、他人を信用しようとしない。頼ろうとしない」
「…」
「だが、それを全て塗り返すのはお前の優しさだ。お前は、塩梅の効いた優しさを振る舞える人間だ」
「俺はそうとは、思えない」
「無意識にその優しさを振る舞えるのなら、それは凄いことだろう。ちゃんと教育と環境が良くなきゃそうはならない」
「…そうか?」
「そうだな、愛羅にも聞いてみたらどうだ?」
「お前、呼び方…」
この前までは愛羅の事は様呼びだったのに、呼び捨てになっている。
「…愛羅にそう呼べと、泊まりに行った時に言われたんだ」
「泊まりに行った…?」
「あっ!いや、そ、その…」
「…愛羅に届ける物があるんだ。お前が届けてやってくれ」
「いや、同性ならお泊まり会はするだろ!」
「同棲…!?」
「漢字がちがーう!」
「…それで2人揃って私に会いに来たと」
「あぁ、そうだ」
「…酷い誤解が生まれてしまった」
「そんな事よりも、聞かせてくれるか?俺のいい所」
「優しい所」
「お前もか…」
「しょうがない。多分、柚葉君の事を知っている人全員に聞いたら全員優しい所と言う」
「そんなか?」
「うん。優しい。でも、それ以外には無い」
「そうだな」
「2人揃って同じ意見かよ…」
「柚葉君はもうちょっと自分に自信を付けた方がいい」
「確かにな。なんでそんなに自分に自信が無いんだ?」
「…余計な事を聞くな」
「いや、すまない。何か重い理由を抱えていたのは分かった。これからは聞かないようにする」
「…俺も、ごめん。そんなに迫るつもりは無かったんだ」
「…今の柚葉君ちよっと良かった」
「えっ?」
「ねぇ、またやってくれない?今度は私に向けて」
「い、いや流石に…」
「ほんのちょっと怒るだけだから」
「た、助けてくれ!」
「…すまない。今回は助けられそうになれない」
「何でだよー!」
その後何とかやらないで済んだ。
帰り。
「うわーん!」
「あれ?あの子、もしかして迷子か?」
「本当だ」
俺はその子の元へ行くとその子に目線を合わせるために屈んだ。
「どうしたんだ?」
「うぐっ、お母さんとはぐれたぁ…」
「そうかよしよし。今、警察に届けてやるからな」
「うん…」
「ほら、手繋いで」
そして、子供の手を繋いで歩き出した。
「心花。ここら辺の近くの交番ってどこ?」
「ここから東南に650m先だ」
「ありがとう。さて、行くか」
「うん!」
そして歩き出した。
すると、愛羅が子供の反対隣の手を繋いだ。
「これで転ぶ事も無い」
「そうだけどな…」
「こうしてると、まるで親子のように見えるぞ」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんとっても仲良しだね!」
「ありがとう」
「はぁ…」
狙ったのだろうか
相変わらず計算高い奴だな。
そして、どうこうしているうちに交番にたどり着いた。
「花田!」
「あっ!お母さん!」
「もう…どこ行ってたの!?」
「…ごめんなさい」
「ありがとうございます…。息子を送ってくれて。なんとお礼すれば…」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
「ほら、花田もお礼しなさい」
「ありがとう!優しいお兄ちゃん!」
「…どういたしまして」
「おや?自分は優しくないとか言わないのか?」
「こんなに言われてるんだ。信じる他無いだろ。それに…」
「それに?」
「こんなちっちゃい子供にそんな無慈悲な事言いたくないんだよ」
「…優しさが溢れ出してるぞ」
「ふふ…本当だ」
「今のどこに優しさを感じる所があったんだ…」
優しいってなんだろう?
今度辞書で調べてみるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます