第6話

まずは木を組み立てる為に、負けてもらう。


この組団には、スポーツ部が少ない上、速い人もいない。


なんなら、走れない人達だけで構成されていると言っても過言ではない。


ならば、それを利用する



『第1回目は100m走です。皆さん、準備をしてください』


「…」


スタート地点に立つ。


『それではー!』


「ふぅ…」


緊張するな…。

あまり見られる事は慣れないんだ。


『On your marks, 』


「oh......」


英語のスタート合図かよ。


『Set,』


バァァァァン!


「ふっ!」


そして、走りだす。

顔を上げるともうビリだった。


「おい何やってんだ!」


「恥さらし!」


「女たらし!」


「百合の間に入る男がよ!」


「報いを受けろ!」


「爪剥ぐぞ!」


などと言われようだ。


俺は14.5秒だった。

ビリ。


そう。俺の横には現役の短距離男子達がいたのだ。


流石にビリになる以外の事が起こるとは言い難いメンツだった。


が、他の男子も速い奴らの隣。

連続ビリを叩き出した。


「最悪だぁ!」


「クッソぉ!」


「理解出来ぬ…。理解出来ぬ…」


と男子達は嘆いていた。


対して女子たちは


「…ザッコ」


「カッコ悪」


と毒を、吐いていた。

次は女子の番




「ふふん!」


「…愛羅?」


「凄いでしょ。私、こう見えて体力には自信がある」


「負けるようにと言ったんだが」


「…てへっ」


「てへってなんだよ!」



「お前もか、心花」


「…すまない。力加減が出来なかったんだ」


「じゃあ、私の下着没収ね」


「そ、そんなぁ!」


「お前も速かっただろ」


「じゃあ、心花ちゃんの下着を貰えばいい?」


「…そうしましょう」


「おい」




「おい聞いたか?」


「ああ。心花さんと愛羅さんが下着を交換するらしい」


「うっ!想像しただけでも…あっ!」


「おい、近づくな!」




「聞いた?」


「ぅ、うん」


「あの2人って、そこまで…」


「じゃ、じゃあ、私達も…する?」


「…」


「ごめん!冗談だから!」


「…女に二言は無いよね」


「えぇっ!?」




「「…」」


「どうしたの?」


「いや、なんでもない」


「今度御祝儀を送ってやろうか…」


「早い」


「??」



そして、結果が張り出される。


「…」


やはり、俺達の組団はビリだった。


「…チッ!」


そして、分かりやすく舌打ちしてる人がいた。


俺はその人に話しかける。


「団長。このままで良いんですか?」


「…は?」


「あれ、見たんでしょう?あのままで良いんですか?」


「…良くないに決まってる」


「なら、どうするんですか?」


「俺が頑張るしか…」


「団長」


「…なんだ?」


「お言葉ですが、あなた1人だけでは無理かと」


「テメェ!」


「頼れよ」


「何?」


「僕は、そう言われたんです。友達に。頼れよって」


「…だからどうした」


「あなた1人で抱えないで、頼ったらどうですか?」


「お前は言えねぇだろ…」


「僕は、頼りました」


「…」


「さぁ、次はあなたが僕達を頼る番です。皆、夢を失っているんです。希望を与えられるのは、あなただけしかいない」


「…」


俺は団長に肩を置いて言った。


「頼られる存在に、なりましょう」


「…うるせぇ」


そして、俺の腕を払われた。


「…」


「お前に元気づけられる前にそんな事とっくに分かってたよ」


「…そうですか。それでこそ、団長だ。頼られる存在だ」


「…フッ。皆ー!よく聞いてくれ!」



「なんだ?」


「あれって団長…?」


「どうしたんだろ」



「俺達は負けた!だが、1回だけだ!これから挽回を…!」


「そんなの無理に決まってるだろぉ!」


「…!」


誰かが声をあげた。


勿論、俺だ。まだ、火をつけるのには木が足りない。


「俺達は、弱い!いや、周りが強すぎるんだ!」


「お前に言えるか!お前はビリだっただろ!」


「他の奴らもだ!」


「それがどうした!他の競技もある!」


「それでも負けちまう!弱いから!」


「クッソ!なんなんだよ!お前ぇ!」


「皆、そうだよな!」



「…」


「…」



皆は答えない。


「そんな訳あるかぁ!」


「!?」


「心花ぁ…!口答えするつもりか!」


「あぁ!するね!私達は弱くない!個人は弱いかもしれない…!けど、私達は仲間だ!」


「そ、そう!私達は皆で1つなの!」


「愛羅もか!?」


「そ、そう!柚葉君に口答えする事なんて、ヘッチャラなんだから!」


「クッソ!」


「柚葉ぁ!言われてるぞ!」


「そうだ!そうだ!」


「私達を、舐めないで!」



「皆…」


これ程まで燃えるのか。

あぁ、これだから、扱い易い人間は好きだぜ!


「皆!団長として!組団の一員として!言いたい!諦めるな!」


「分かってるってーの!」


「諦めたら試合終了だからね!」


「そして、頼れよ!」


「あぁ、頼るよ!団長!」


「団長!」


「「「団長!!」」」


「…っ!ああ、任せろ!」



…。さて、邪魔者は、消えるとしよう。



「どこに、行こうとしてるのかね」


圧 倒 的 既 視 感 !


「校長…」


「ふむ。上手くやれたかね」


「えぇ。最も、校長が変な事を言わなければ、もっと簡単でしたが」


「ははっ。だが、それではマトモに燃えないだろう?」


「えぇ、木を組み立てるだけで1悶着あったぐらいですから」


「大変だろう。皆を上手く操るのは」


「えぇ、そうですね」


「さて、次はリレーだ。準備したまえ」


「校長って僕の行動を読むの得意ですよね」


「何、学校全体を引っ張る身としてはそれくらい当然の事。それに、柚葉君は私に何処か似ているからね」


「そうですか」


「君が良かったら、次期校長を受け渡してもいい」


「遠慮しておきます」


「ふむ…。考えが変わったら私の元へいつでも来ても良いからな」


「行くことは無いですね」



そう言い放ち、俺は早歩きで組団に戻った。



『さて第2回目の種目は、リレーです』


「皆!柚葉が言ったように、この組団は弱い。だが!それでも、全力を出してほしい。いいか!」


『はい!』


「さぁ、行こう!」


『おぉー!』


「…」


「どうしたの?行こう」


「あぁ」


「リレーのバトン、ちゃんと私から受け取ってよね」


「分かってる」


「さ、行こ」




バァン!


スタートの合図が鳴る。

俺達の組団はビリから1個上辺りを行き来きしている。


愛羅にバトンが渡った。


俺は受け取る準備をする。


そして、愛羅が来た。


「来い!」


俺は愛羅からバトンを受け取る。




前に、愛羅が倒れてしまった。


俺は冷静に判断し、バトンを取って走り出し次の人の元へ。


そして、愛羅の元へ行き、保健室まで運んで行った。



「熱中症か…」


俺は倒れた時の傷を洗い、ガーゼをあて、テープで巻く。


そして、冷たいものを脇や首にくっつける。


「…」


そして、愛羅の手を繋いで、無事を祈っていた。




「んっ…」


「あっ、やっと起きたか」


うちわで仰いでいると愛羅が目を覚ました。


「…今、何時?」


「さぁ?でも、体育祭はもう終わったよ」


「えっ?そ、そんな…」


「大丈夫。俺達の組団は勝ったよ」


「…違うよ」


「…最後までいられなかった事、気にしてるんだろ?次がある。また、1年後」


「それもそうだけど、柚葉君が私に付き合って出られなかったから」


「俺はもう割り切れてるんだ」


「えっ?」


「来年ある。それに、お前が無事な事が、何より嬉しいんだ」


「柚葉君…」



「えっと…。タイミングが悪いと思うが、失礼する」


「あっ、団長」


「もうそう呼ぶのは止めろ。団長はもうお終いなんだから」


ほらっと言って差し出してくれたのは飲むゼリーと、スポドリだった。


迷わず飲むゼリーを手に取り、愛羅の口へと運ぶ。


「愛羅、アーン」


「アーン」


「…お前らは本当に仲がいいんだな」


「…ま、腐れ縁って所かな」


「むっ、酷い」


「えっ?付き合ってないの?」


「無いな」


「無い」


「えぇ…」


「大丈夫。もう許嫁のような関係」


「そんな事無いだろ」


「…。ありがとう」


「えっ?」


「元気をくれて。頼ってくれて」


「どうって事はないです」


「…そうか」


「お礼はこのゼリーとスポドリで良いので」


「いや、」


「大丈夫だと、言ってるんです」


「…校長が言ったとおりの返しだな」


「…やっぱり受けておきましょうかね」


「それも、だぞ」


「…」


本当に、似ているのだろうか?

そう思いながら終わった体育祭だった。

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