第4話 山田先輩の無茶振り
「それなら二人がカップルだって俺に証明して見せてよ?」
これで解放されると思っていたのに、突然そんな無茶振りをされて俺は固まった。
「どうしてそんな証明をしないといけないんですか? 山田先輩には関係ないですよね?」
俺はこの場を切り抜けるためにそう言い逃れしようとするが、
「それじゃあ信用できないなー。君らが本当にカップルだって言うんならそれくらい出来るはずだよね?」
「それは……」
千歳はどうするのだろうと彼女の方を向くと、緊張でもしているのかさらにぎゅっと腕を絡ませてくる。
それに意図的に意識したいなかったが、さっきから胸が少し当たっているのだ。
(ほんと、この状況何なんだよ……!)
俺が一人で悶絶していると、千歳が息をふーと静かに吐いて、山田先輩の方を見つめ返した。
「分かりました。カップルだってことを証明したら良いんですよね?」
「ふーん、出来るんだぁー」
「あ、当たり前ですよ。そんなのいつもしてることをすれば良いだけだし、別に恥ずかしがる事なんて何も無いので……」
(えぇっ? ほ、ほんとにするつもりなのか……?)
千歳は俺に顔を無けると、コクと頷いた。しかしその顔は見るからに強がっていて、内心はきっと焦っているはずだ。
そもそもカップルだと証明するには、実際にどんなことをすれば良いのだろう?
俺は腕を絡ませるだけでも十分カップルらしいら行為だと思っていたのだ。
恋愛経験がゼロなので、その手の事に関してはまったく分からない。
「そ、それじゃあ天崎くん……。い、いつもみたいにするから、そっ、そこでじっとしていてね……」
「あっ……は、はぁい……」
緊張のあまり少し噛んでしまい、男とは思えないほど情けない声が出てしまった。
と言うか、千歳の前で俺はテンパリすぎてまともな会話すら出来ていない。
千歳は絡ませた腕を解くと、するりと俺の後ろ側に回った。一体何をするのかと思っていると、すぐ後ろで千歳の囁く声がする。
「あ、天崎くん。ちょ、ちょっとだけ我慢しててね……」
「へっ? 何が……」
と、聞こうとしたところで俺の背中に温かい重みを感じた。
(んんんううぅぅぅぅーーー!)
俺は奇跡のハーフ美少女からバックバグをされていた。あまつさえ、左の肩に千歳の顔が乗っている。それにめっちゃ小顔だし、可愛いしで、もう何がなんだか分からない。
千歳がぎゅっと俺の体を抱擁し、そしてすぐ横からは熱っぽい吐息が聞こえてくる。
横を向けば顔が当たってしまうくらいの距離に千歳がいて、俺の全身にぐわーっと熱が駆け巡った。
「も、もう少しだから我慢してね……」
「い、いや……」
そうじゃないのだ。
別に我慢してるとかそういう事では無くてむしろこれはご褒美だ。
耳元で申し訳なさそうに謝罪してくるが、こちらこそ謝罪と感謝をしたい。
俺はほとんど放心状態のまま、その体勢をキープし続けて、
「あーはいはい、もう良いやー。これ以上見てもどうせ一緒だし……」
そう言われたので千歳はゆっくりとハグを解除し、俯き加減に俺の横に並んだ。
「もうちょい面白いもん見れると思ってたのに、証明がそれとか笑える。まあ良いや。それに今は千歳さんが俺と付き合ってくれないことも分かったから……」
「だから私たちは付き合ってて……」
「あー、はいはい知ってるってー。そういう設定だしね。まあー、ピュア同士お似合いなんだから、後はお好きにすれば良いんじゃないのー」
そう言うと山田先輩は俺のところまで来て、肩にポンと手を置いた。
「でも、少しでも油断してたらまた千歳さんを狙うから気をつけなよ。天崎くん」
「は、はい……」
最後にニヤッと嗜虐的に笑うと、山田先輩は手をヒラヒラさせてこの場から去って行った。
それにしてもなんだか拍子抜けするほどあっさり終わったので、何か裏があるのではないかと思ってしまう。
山田先輩ならもっと追求してくると思っていたのだが……。
それに最後に見せたあの笑顔は、何だか嫌な予感がする。
俺の中で山田先輩は危険人物の一人になったいた。
「ピュ、ピュア同士お似合い……」
そんなことを考えていたら、千歳が横でぶつぶつ呟いていた。それにいじけたように口を曲げて、指をツンツン合わせている。
「わ、私はぴゅ、ピュアじゃないもん……。あ、天崎くん、私はピュアじゃないからね……! か、勘違いしないでね!」
「えっ、ああ……うん。わ、分かったよ。千歳さんはピュアじゃないんでしょ?」
「そう、それが分かってくれれば大丈夫だから。うん……大丈夫!」
そう息巻く千歳はどう見ても大丈夫には見えなかったけど、余計なことは言わないでおこう。しかし、普段とは違う千歳を見ていると自然と笑みが溢れてしまった。
「天崎くん、何がそんなにおかしいのかな? もしかして本当は私のこと疑ってるの?」
「いやそうじゃなくてさ、千歳さんもそんな風に焦ることもあるだなーって……」
「あ、焦ってないから! それと私のことをなんだと思ってるのよ?」
「いやだって普段の千歳さんはなんていうか高嶺の花すぎて、いつも余裕がある感じだったし……」
「別に余裕なんていつも無いよ……」
「えっ?」
「私はいつだって余裕なんてないんだよ。周りが勝手にそう思ってるだけ……」
「それってどういう……?」
しかしそれには答えてくれず、千歳はまだ若干赤い顔をこっちに向けて、冷静を取り戻すように息をついた。
さっきの言葉が引っかかったけど、それを聞く前に千歳が頭を下げてきた。
「天崎くん、さっきはほんとにありがとう。あの時、助けに入ってくれて嬉しかった。私、内心では凄く焦ってたから……」
「そんな、頭を上げてよ。それにあんなの見たら誰だって助けるでしょ……」
「そうだとしても助けてくれたのは君じゃん? それに私は感謝してるの。だからちゃんとお礼を言わせて!」
並坂高校のアイドルにこうも頭を下げられては、なんだかいけないことをしている気分になる。
千歳はひとしきり頭を下げてきて、「もう充分だから!」と言うとようやく顔を上げた。
なんだか妙に落ち着かなくなってしまい、俺は照れ隠しも兼ねて、ずっと気になっていたことを聞くことにする。
「そう言えばさ……」
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