第6話 帰りたくない

夕陽がなくなって、星がキラキラとしてる気がする。


山﨑の顔がボヤけて見える。

きっと、口を開けて星空を見ていると思う。


山﨑が、もう帰ろうと言った。


きっと私の呼吸が辛そうにみえるんだと思う。

寒くて、声が上手くでない。

私…帰りたくない。

私は、大丈夫だから…まだ帰りたくないよ…




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




高校は女子校だった。

行きたくなかったが、母から泣かれて渋々行くことになった。

女子校に行ったって、女の子らしくとか清楚になるわけでもないのに--


両親に、すまん!という気持ちはある。


案の定、お嬢様学校で私は孤立した。

まぁ、そりゃそうだと、相変わらず自由に過ごしてた。


そんな時、ヒカリから電話が来た。


山﨑が学校を休みがちなことを聞いた。

メールや電話をしても出ないこと。朝、迎えに行っても出てこないこと…


私はベッドに仰向けになって天井を見つめる。


「そっか---」


深いため息をついた。


「ああ。めんどくせ‥‥‥」


呟いた瞬間、涙が溢れてきた。


ボロボロと勝手に出てくる涙は、止められなくて、意味がわからなかった。

声を出してしまわないように、下唇を噛んで頑張ってみたけど、ダメだった。


考えてた……


山﨑はバカだから、一つのことしか出来ない。

山﨑はバカだから…自分の気持ちを言葉に出せない。怒れない、泣けない。

ほんとバカなやつ…


私知ってるんだよ。


仲間を無視したり、拒絶するのは---

とてつもなく苦しかったでしょ…


自分のしてることに対して、自己嫌悪してまた更に落ちるんでしょ。



山﨑の笑った顔がチラつく。

あの細い目が、私を優しい気持ちにさせてくれた。


暫くして、山﨑が高校を辞めたことを知った。


色々考えるのは性に合わない。


何も考えずに、山﨑の家に行った。

こんにちわと、玄関を開けて言うと山﨑のお母さんが出てきた。

最初、私が誰だか分かっていないようだったが、分かるとすぐに山﨑と同じ顔して笑ってくれた。


私は二階の部屋の扉を勢いよく開けた。


山﨑はベッドに座って多分、驚いていただろうけど、長くなった前髪や伸びた髭であまり表情が分からなかった。


ボロボロの山﨑の姿を見て、一瞬心が折れそうになった。

泣いてしまいそうだった。


だけど、怒りの感情がそれを助けてくれた。


私は言いたいことを、全部吐き出した。

何を言ったのかあまり覚えてはいないけど、ビンタしたのは覚えてる。


手のひらが熱くて、痛かった。


それから、半年後の四月、山﨑は通信制の学校に入学した。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





山﨑は私を抱き抱えて、お姫様抱っこで砂浜を歩き出した。

車は遠いところにあるはず。


もっとゆっくり歩いてよ。

もう少し、お姫様気分を味わいたいよ…


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