第6話 帰りたくない
夕陽がなくなって、星がキラキラとしてる気がする。
山﨑の顔がボヤけて見える。
きっと、口を開けて星空を見ていると思う。
山﨑が、もう帰ろうと言った。
きっと私の呼吸が辛そうにみえるんだと思う。
寒くて、声が上手くでない。
私…帰りたくない。
私は、大丈夫だから…まだ帰りたくないよ…
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高校は女子校だった。
行きたくなかったが、母から泣かれて渋々行くことになった。
女子校に行ったって、女の子らしくとか清楚になるわけでもないのに--
両親に、すまん!という気持ちはある。
案の定、お嬢様学校で私は孤立した。
まぁ、そりゃそうだと、相変わらず自由に過ごしてた。
そんな時、ヒカリから電話が来た。
山﨑が学校を休みがちなことを聞いた。
メールや電話をしても出ないこと。朝、迎えに行っても出てこないこと…
私はベッドに仰向けになって天井を見つめる。
「そっか---」
深いため息をついた。
「ああ。めんどくせ‥‥‥」
呟いた瞬間、涙が溢れてきた。
ボロボロと勝手に出てくる涙は、止められなくて、意味がわからなかった。
声を出してしまわないように、下唇を噛んで頑張ってみたけど、ダメだった。
考えてた……
山﨑はバカだから、一つのことしか出来ない。
山﨑はバカだから…自分の気持ちを言葉に出せない。怒れない、泣けない。
ほんとバカなやつ…
私知ってるんだよ。
仲間を無視したり、拒絶するのは---
とてつもなく苦しかったでしょ…
自分のしてることに対して、自己嫌悪してまた更に落ちるんでしょ。
山﨑の笑った顔がチラつく。
あの細い目が、私を優しい気持ちにさせてくれた。
暫くして、山﨑が高校を辞めたことを知った。
色々考えるのは性に合わない。
何も考えずに、山﨑の家に行った。
こんにちわと、玄関を開けて言うと山﨑のお母さんが出てきた。
最初、私が誰だか分かっていないようだったが、分かるとすぐに山﨑と同じ顔して笑ってくれた。
私は二階の部屋の扉を勢いよく開けた。
山﨑はベッドに座って多分、驚いていただろうけど、長くなった前髪や伸びた髭であまり表情が分からなかった。
ボロボロの山﨑の姿を見て、一瞬心が折れそうになった。
泣いてしまいそうだった。
だけど、怒りの感情がそれを助けてくれた。
私は言いたいことを、全部吐き出した。
何を言ったのかあまり覚えてはいないけど、ビンタしたのは覚えてる。
手のひらが熱くて、痛かった。
それから、半年後の四月、山﨑は通信制の学校に入学した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
山﨑は私を抱き抱えて、お姫様抱っこで砂浜を歩き出した。
車は遠いところにあるはず。
もっとゆっくり歩いてよ。
もう少し、お姫様気分を味わいたいよ…
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