07

「好きなシリーズの新しいゲームが発売されて物凄く嬉しかったし、土曜日まではよかったんだ。だけど……」

「琴美を放置してしまったからか?」

「ううん、もう四人で過ごすことが当たり前になっていたから物足りなく感じてしまったの」

「それでも琴美の誕生日を迎えて切り替えられたはずだが」


 少なくとも夕方頃までは二人きりでいたわけだからよく分からない。

 本当にどうしても四人でいたいならもっと早い段階で戻ってきていたはずだ。


「十八時前には戻ることになった時点で分かるでしょ?」

「公共交通機関を利用して海辺までいっても余裕があったからな」


 なんなら寝る余裕すらあった。


「す、拗ねているの?」

「拗ねてはいない、ただあまり繋がっていないと言いたいだけだ」


 琴美本人が言っていたように日曜の十八日は本来一緒に過ごせないことが決まっていたからその発言も謎だった。


「というか、何故私は暁音と二人きりになっているのだ?」

「琴はイトちゃん――嘉子ちゃんに誘われちゃったからだよ」

「なるほど、つまり暁音は嘉子から琴美を奪ったのか」

「こ、今回は私が嘉子ちゃんに奪われているよね?」


 こんなのは冗談でしかないのだから流してほしいところではあるがな。

 並んで座っていたから立ち上がって暁音を見てみると「そ、そんなに見ないで」と顔を隠されてしまった。


「……ねえ、最後に一回だけ抱きしめてもいい?」

「別に構わないが琴美にちゃんと言うのだぞ?」

「うん」


 この感じを見ると二人の間に入り込むことができないという考えは間違っていたように思えてくる。


「ごめん、それとありがとう」

「ああ」

「そろそろ頑張らないと、あんまりに時間をかけちゃうと琴も飽きてしまうかもしれないからね」

「少なくともゲームを優先するのは関係が変わってからでいいだろうな」


 そもそも琴美が「ゲームなんか優先している場合じゃないわよ」と止めなければいけないところだったのだがな。

 自分の誕生日なら多少のわがままを言っても通ったのになにをしているのか。


「うん――あ、今度貸してあげるよ」

「いきなり八作品目を貸されても理解できないまま終わるだけだろう」

「はは、その場合はちゃんと一作品目からやってもらうよ」


 ゲームにはあまり興味を持てないから勘弁してほしいところだ。

 あと、いま帰ったところで琴美はいないからもう少しぐらいは付き合ってほしいところだった。

 しかし、そんなことは言えないから黙ったまま違うところを見ている間に「琴達はここら辺で遊んでいるみたいだからいってみるよ」と暁音は出ていく。

 いつもの私ならここで参加はしなくても帰っているところなのに出ていこうとする自分が現れなくて困ってしまった。

 その結果、高校生活の中で初めて完全下校時刻で高校をあとにすることになった。

 まあ、高校によっては二十二時に設定されているところをここは十九時に設定されているからそこまで遅い時間でもないのだが。


「あ、やっと帰ってきた」

「嘉子か、ただいま」

「おかえり」


 冷たい冬によく似合う冷たい顔だった。

 今回は無表情のせいでそういう風に見えてしまうわけではなく、完全にこちらに不満があるからこそ顔だと分かった。


「琴美と楽しめたか?」

「うん、それは大丈夫だよ」

「なら私か」

「そうだよ」


 はは、「別にそんなことはないけど」などと嘘をつくこともできるのにこれだ。


「今日は椅子から離れることができなかったのだ」


 途中までは接着剤でも塗られていたのではないかと言いたくなるぐらいにはくっついていた。

 それでも閉じ込められるかもしれないという緊急な場面ではいつも以上の力が出てなんとかなるようになっているのだ。

 いつもは生かされずに眠っているその力を緊急な場面以外でも使えるようになったら私の人生はもっといい方に傾いていくはずだ。


「私のことを避けているわけじゃないよね?」

「当たり前だろう、そもそもあれから一日しか経過していないのに何故避けなければならないのだ?」


 昨日出かけたばかりなのに、優先したばかりなのに謎だ。


「……寂しかった」

「はははっ、数時間程度しか離れていないのに面白いことを言うな」


 俯いてしまったから顔を上げてもらいたくて頭を撫でる。

 これは地味にレアな行為だった、琴美にも暁音にもほとんどしないことだ。


「それでだな、私はいつ中に入れてもらえるのだ?」

「このままでいいよ」

「か、勘弁してくれ」


 十二月の終わりも近づいて益々酷くなっていっているというのに。

 二人、もしくは片方だけでも風邪を引いたらそれこそ一緒にいられなくなるのだからよく考えて動くべきだった。


「嘉子ー? あ、いとも帰ってきていたならすぐに入ってきなさいよ」

「ただいまだ」

「あんたの家だけど、おかえり。さあ、中に入ってご飯を食べましょ、温かい内に食べるのが一番よ」

「ああ、嘉子いこう」

「うん」


 また放課後とか土日に付き合ってやれば大丈夫だろう。

 予定なんかは全く入っていないから合わせるのは楽勝だった。




「誕生日おめでとう」

「えへへ、ありがとー」


 あれだ、個人的な予定はなにもないから昨日のそれは間違ってはいない。

 そして今回は約束通り、最初から四人で集まれているから嘉子も寂しくなったりはしないだろう。


「で、タコみたいに真っ赤になっている琴美にはなにがあったのだ?」

「この激辛料理を食べた結果だね」


 今回もそんな理由からか。

 誕生日なんかを利用して関係を前進させるのはずるいとかそういう風に考えているのだろうか? 私からすればもったいない時間の使い方にしか見えないが。

 それよりもだ。


「そんな物、作っていないが」


 今回も出しゃばって作らせてもらったから分かるのだ。


「みんなが頑張っている間にちょちょいといって買ってきたんだよ、まさか一発ではずれを引いちゃうとはねー……」

「琴美、大丈――駄目みたいだな、牛乳でも注いでこよう」

「これ、はずれ……当たり? 以外は凄く美味しいよ?」

「まあ、不味いよりはいいな」


 全部が似たような物なら最悪、捨てることになってしまうからな。

 食べ物だから粗末にはしたくない、その点、味がしっかりしているなら問題ない。


「あ゛ぁ゛……牛乳って最高……ね」

「無理をするなよ」

「でも、いとが作ってくれたご飯を食べないのはもったいないから頑張るわ」

「どれも普通の物だ」


 暁音に合わせて肉系が少し増えているだけでそれ以外は二人の好きな物も多い。

 いつもやっていることだから誕生日の料理としては物寂しいかもしれない。


「椎茸大好き」

「やっぱりサバの竜田揚げは美味しいわねー」

「お肉が一番だよ!」


 特別に好きが少なくても苦手な物がほとんどない舌でよかったと言える。

 ただ、暁音みたいに肉系をパクパクしまくるのは無理だからそこは少し羨ましいかもしれない。

 なかなかないが例えばホテルの朝食バイキングのときなどは大量に食べられた方が間違いなくいいからだ。


「賢吾さん遅いわね?」

「また誰かのために動いて自ら忙しくしているのだろう」

「あんた賢吾さんには少し厳しいわよね」


 駄目なところはしっかり指摘しなければならないだけだ。

 そして父にも私に対してしっかり厳しくするように求めているのに全く変わらないままここまできてしまっている。

 琴美がいるからなんとかなっているだけでそうでもなければモンスターが誕生していたところだったぞ、と。


「私、賢吾さんのこと好きだなーもちろん、両親のことも好きだけどなんかいいなーって」

「けいとのお父さんは私にも優しくしてくれる」


 嘉子は表情が変わりづらい組の中でも可愛げがあるから父も構いたくなるのだと思う。

 私が父の立場だったらなるべく偏らせないなければならないと考えつつも片方との時間が多くなりそうだった。


「それよりよく好きとか言えるな」「よく好きとか言えるわねー」

「なんで? 嫌いになるところとかある?」

「優しくしてくれている時点で嫌いになるところなんてないわよ、ただ……好きって言うのは友達が相手でも恥ずかしくなることじゃない」

「それこそなんで? 私は琴もけいとも嘉子ちゃんも好きだけど」


 何故これを恋愛方面では生かせないのか、いつも好き好きと言いすぎている大事なところで出しても響かないのだろうか。


「ただいま」


 件の父が帰宅し、リビングに入ってくるなりすぐに「暁音ちゃん誕生日おめでとう!」とハイテンションだった。


「けいとが作るって話だったからあんまり買ってこないようにしたんだけど、はい、お肉の塊だよ」

「おお!」


 琴美と一緒にあれこれ話し合いをしながら買ってきた食材達より、特に肉の話ではそこそも時間もかけたのにこれでは……。

 まあ、結局はどの金も父の物だから仕方がないとはいえ、なあ?


「もう出来ている物を買うよりもこの方が選択肢が増えていいと思ったんだ、それとケーキね」

「ありがとう賢吾さん!」

「はは、どういたしまして」


 父も暁音も楽しそうだからいいか。


「まだまだ食べられるなら私が焼いてあげましょうか?」

「お願いっ、それでみんなで食べよう!」

「はは、分かったわ」


 琴美も上手だ、大事なときにはちゃんと空気が読めるようになっているから今回は静かにしておいた。


「嘉子ちゃんの誕生日がきたらそのときも頑張るからね」

「頑張らなくてもいいから一緒にいてほしい」


 ここでは嘉子のために動いてやらないといけない。


「んーだけど僕に合わせると時間が遅くなってしまうからね、この形がベストなんだよ」

「求められているのだ、一日だけぐらい合わせてやってほしい」

「そっか、誕生日は他の予定と違って確実だから合わせて休ませてもらってもいいかもしれないね」


 父的には私よりも嘉子が自分の娘だった方が嬉しかっただろうな。

 この差で分かる、まあこれは私がそういうことに関しては拒絶し続けてきたせいだから父が悪いわけではないが。


「あー嘉子ちゃん贔屓だ」

「い、一番幼い子で預かっているわけだから――」

「ぷふ、早口だ、賢吾さんあやしー」

「あ、暁音ちゃん……」


 私が誕生日のことでしなくていいと言い続ける度にいまみたいな情けない顔をしていた。

 でも、今年も私は記録を更新させてもらう、嘉子に言われても受け入れるつもりはない。


「暁音、意地悪をしたら駄目だよ」

「はーい……って、あれ?」

「「どうしたの?」」

「私、けいとのお誕生日をお祝いしたことがないよ?」


 これまでなにも出してこなかったのは察して黙ってくれていたのではなくて興味がなかっただけなのでは……。

 だ、だから教えたくないのだ、ただ単に祝いたくないだけだったなんてことを知ることになったらダメージがすごいからな!


「そもそもお誕生日がいつかすらも知らない! 昔に賢吾さんに聞いたことがあったけど教えてくれなかったからね」

「そうなの?」

「そうなんだよ、多分琴も同じなんじゃ――」

「私はいとの誕生日がいつか知っているわよ? でも、本人は受け取りたがらないからなにもせずに黙っていたの」


 ほ……これならまだ救いだな。

 だが、どこから知られてしまったのか、間違って吐いてしまったなんてことはないし……。


「あの人が教えてくれたのよ」

「琴美は苦手だと言っていたのに意外だな」

「たまたま二人きりになったときにね、嫌がっていることも教えてくれたからいとの誕生日に嫌な気持ちにさせずに済んだのよ?」

「そうか、ありがたいな」


 その頃から大人だったか、私は一生琴美には勝てないと分かった。


「よく分からない、お誕生日の日なんて朝から楽しくなって一日ハイテンションになっちゃうぐらいなのに」

「あんたはそうというだけね」

「嘉子ちゃんは?」

「なにかしたわけじゃないけど私は嬉しく感じると思う」

「だよね!?」


 自分のことでなくてもそこまでテンション高くいられることはすごいと思った。

 だが、こういうところが暁音の可愛いところだ、だからこそ一緒にいたくなる。

 琴美みたいに一歩どころか十歩、百歩と近いようで遠いところばかりにいる存在達が多いと疲れるからな。


「なに興奮しているのよ、それはこのお肉を食べてからにしなさい」

「おお!」


 はは、肉を見せればすぐに変わるのは楽でいいな。


「賢吾さんも立っていないで食べ始めて」

「あ、うん、いただきます」

「いとも、ほとんど食べていないから気になるのよ」

「私はもう十分だ、お風呂でも溜めてくる――洗い物は私がやるから置いておけばいいぞ」


 実際、作るだけで満足してしまう人達の気持ちがよく分かるのだ。

 自分の作ったご飯をみんなが「美味しい」と食べてくれれば十分満足できる。

 引かなければならないところではちゃんと引けたのもいいことだった、よって、そこまで食べる必要はない。


「ふぅ、少し疲れたな」


 溜まったら一番にお風呂へ、といきたいところだがそうもいかない。

 冬に限って言えば結構長い時間入ってしまうから迷惑をかけてしまう、部屋を移動することになった日に先に入っていたのはそうしてくれと頼まれたからでしかない。


「けいと」

「嘉子は食べなければ駄目だ、大きくなれないぞ?」

「さっきの話を聞いてご飯どころの話じゃなくなったの」

「私なりの面倒くさい拘りというだけのことだ、それ以上広がることはないぞ」


 一緒に暮らすようになって暁音から一番に影響を受けたみたいだな。

 悪いことだと言い切るつもりはないが逃げたい私からすれば大変な存在となる。


「私だけならいい?」

「嘉子が相手でも変えたりしないぞ」


 と言うより、もう終わっているからどうしようもないのだ。


「戻ろう――痛いぞ……」

「受け入れてくれるまで離さない」

「せめて洗い物をしてからにしてくれないか?」

「……それなら私も手伝う」

「はは、いい子だ」


 今日は少し多いから頑張らなければな。

 手伝ってくれるということなら一人寂しくならないからありがたかった。

 この通り、結局は嘉子にはそこまで強気に行動することができなかった。

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