05
「馬鹿いと」
「待て」
「待たないわよ、馬鹿」
多分四時ぐらいに乗り込んできてからずっとこれを続けている。
家事をしなければならないというのに分かりやすく妨害してくれている状態だった。
「あんたはなんで他の子には甘いのよ、あと自分抜きで考えるのよ」
「とりあえず下りてくれないか?」
「嫌よ」
まだ日曜でそこまで急いで家事をしなければならないのは助かる、でも、休みだからこそどこまでかは分からないが絡まれるわけだから微妙でもある。
「言うことを聞かないからこのまま入っちゃうから」
「ふっ、ただただ寒かったのだろう?」
「そりゃそうよ、あんたのせいで朝早くから動かなければならなくなったんだからね」
頼んではないがまあ大人に近づいている身としてぶつけたりはしなかった。
とはいえ、なんでも言うようにしてきたからいまはしないだけで必ずぶつけるつもりでいる。
「私はあんたとも仲良くしたい」
「それを分かっているからこそいまのこの状態だろう」
父とあっさり許可をしてしまうご両親達がおかしいだけで本来は他所の家に連日泊まるなんてできないのだから。
「わがままを受け入れてくれたことは感謝しているけどこのままだと……」
「琴美?」
「……別に寝たりはしていないわよ」
「いや、家事のことなら私に任せて眠たいなら寝ればいい」
そろそろ「琴が作ったご飯じゃないと嫌だ」とか言われかねないからな、完全に染められてしまう前にこれだけは頑張っておかなければならない、イトはたまに容赦がないときがあるので主にイト対策として動きたかった。
「頼ってよ」
「最初に『家事は私がするからいい』などと言っておいて半々どころかほとんどは琴美がやってくれているのだ、十分頼っているというか甘えているだろう?」
「家事のことでじゃなくて……私を必要としてほしい」
「それだって分かりきっていることだろう。琴美が友達になってくれたから暁音とも友達になれた、いまでも続いているのは琴美のおかげだ」
一人はもう寂しいから駄目だ。
「はあ~これじゃあただのうざ絡みでしかないじゃない」
「別にそういう風に悪く言うつもりはないが信じてもらいたいところだな、なるべく偏らせたりはしないぞ」
「や、それは嘘でしょ」
おいおい、何故終わらせようとしないのか。
延々に抜け出せない沼にはまってしまったかのような気分になる。
「よし、これから最低一時間いとは相手と過ごさなければならないルールってどう?」
「あの二人が勘弁してくれと言うだろう……」
拷問レベルとは思いたくないがなにかいい効果が出るとも思えない、少なくとも申し訳なくて仕方がなくなるから絶対に回避しなければならないことだった。
「じゃあ私とだけでいいからそれは守りなさいよ」
「意識していなくても一時間ぐらい一緒に過ごしているがな」
やっと下りてくれたからいつもよりは少し早いが動き始めることにした。
この季節、この時間はやたらと冷えるが布団にこもっているわけにもいかないから頑張るしかない。
「これ、暁音の下着ね」
「いたずらするなよ」
「あんたが持っているのは私のよ、いたずらしないでよ?」
「するわけがないだろう」
すぐ近くに本人がいるのに虚しいだけだろう。
「ご飯は六時半に炊けるようになっているからまだ作るのは早いわね」
「掃除もちゃんとしてあるからどうするか……」
「ソファに座って話しましょ」
まあ、それぐらいしかないか。
時計の音だけが聞こえるリビングで二人で静かに座っていた。
そろそろ比較的早く起きてくるイトが来るはずだが……。
「おはよー……二人とも早いねー」
「おはよ、暁音こそ珍しく早いじゃない」
「ふぁ……なんか嫌な予感がしてゆっくり寝ている場合じゃないってなったんだ、そしてこういうときは当たっちゃうものだよね」
暁音がここに住ませてほしいと言い出したときに似たような感じだったから気持ちは分かる。
でも、ただ一緒にソファに座っていただけだから嫌な感じは全く伝わってこないと思うが。
「もしかしなくても私達が一緒にいることについてよね?」
「うん、まだ六時にもなっていないのにいま起きたばかりって感じもしないからね」
「誕生日にどうするか話し合いをしていたのだ」
「あ、そういえばもう少しで――んー!」
話し合いをしていたのに彼女がそんな反応では駄目だろう。
だがこれも暁音からすれば悪かったのか「そういうのはやめて」と珍しく怖い顔で言ってきた。
「琴美と暁音が仲良くなったきっかけは誕生日が同じ月だったからだろう?」
「はぁ……そうね、一日違いとかじゃなかったけどそれでも同じ月なのは気になったから」
「私が十二月十八日で琴が十二月二十日なんだよね」
「そこまで近ければ十分運命の出会いと言えるだろう」
やはりこれが自然だからな、少し変わってしまったのであればまた変えなければならない。
あとこうなればいつものそれで任せておくことができるので朝ご飯を作ってしまうことにした。
作り終えても出てこないならイトの方は起こしにいけばいい。
父親はって? 日曜日ぐらいゆっくり寝かせておけばいい。
「お、イトおは――寝ぼけているのか?」
「ううん、おはようのぎゅー」
「そうか」
廊下が一番冷えるから出なくてよくなったのは楽でいい。
ただ、全く運動をしていないのもあって贅肉が増えてきてしまったので後で散歩をしようと決めた。
同じくs散歩大好き少女のイトが付き合ってくれたら最高だった。
「もうすぐ琴美と暁音のお誕生日なんだ」
「ああ、イトはいつなのだ?」
大抵はもう終わっているか離れているかの二択だ、だが終わっている場合ならまとめて祝ってしまうこともできるから教えてほしいところだった。
「私は四月だからまだまだ先だよ」
「それでも四月になったらイトのときもちゃんとやるつもりだぞ」
「うん、楽しみにしているね」
二人とも意外と物欲というのがなくてそのかわりに食欲がすごいから買ったり作ったりすることに集中した方が喜んでもらえる気がする。
暁音は肉で琴美は魚だ、イトはきのこが好きなので上手く合わせた料理を作りたい。
「けいとは?」
「私の誕生日は――ぶは、な、何故だ! 毎回口にしようとするとダメージを受けるのだ!」
これでずっと躱してきた、そして成功してきたから今回もいけると考えていた。
祝うのはいいが祝われるのは恥ずかしくて嫌だ、だから誕生日の日はいつもかなり遅い時間まで外で過ごしていたぐらいだ。
「くっ、これ以上は命に関わる、だから許してほしい」
よし、これで完璧だろう。
「え、いまのってなに……?」
「私は悪魔と契約しているのだ」
「けいとって中二病だったの?」
「それは少し正しくないな、私のは高二病だ」
祝われるよりは痛い人間だと思われた方がいいのだ。
なにより、痩せるために歩いているのだから会話ばかりに盛り上がっているわけにもいかなかった。
今日は息抜きのためではなくて脂肪を燃焼させるためにあの階段を上っていく。
「いまの私に付いてこられるのはイトぐらいだ、琴美や暁音ではこうはいかない」
「でも、身長が低くて歩幅が狭い私に合わせてくれているよね?」
「そうか? ただイトに体力があるというだけのことだと思うが」
私は自己中心的なところがある人間だから合わせたりはしないがまあ、そう受け取りたいなら受け取ればいい。
「ふぅ、今日は自己ベストを更新できたかもしれない」
「ダイエット目的なら向こうからの方が距離を稼げたね」
「いきなり激しくやっても続かなければ意味がないぞ」
冗談抜きで駐車場まで歩くルートだと一時間ぐらいはかかる。
南側から階段を上っていけば割とすぐに着くのに何故そんな距離になってしまったのか、謎だ。
「朝に少し遅れた理由は夜更かしをすることになったからなの」
「暁音に邪魔をされたのか?」
「ううん、けいとのベッドで寝ていたんだけど」
「お、おい、そこで止まられたら気になるだろう?」
そもそもあのベッドには半月以上寝転がっていないから臭いとかそういうことではないはずだ。
「けいとの枕を賭けて争いがあったの」
「新しい部屋に移動すると決めたその翌日に奇麗にしたぞ」
そのまま使用するべきだったか、置いてくるべきではなかった。
あとベッドシーツもやはり奇麗にしてあるから大して意味もない行為だ、いや、意味がないと言い切ってもいいぐらいだ。
「私が欲しいならあの部屋に来ればいい」
なーにを言っているのか。
だ、だがな、元々使っていた物を自由にされるよりも直接来られた方がいい気がしたのだ!
「それはちゃんと話し合ってなしになったんだよ、だから琴美も四時ぐらいまでは我慢していたでしょ?」
「……あれは話し合いをしたうえでの行為だったのか……」
「うん、けいとと一緒に寝られるのはけいとがこの子だって決めた子だけ、そういうことにしたの」
え、なんか私が三人の中の誰かを気に入っているから家に誘ったみたいにならないか……?
断じて言うが全くそんなことはないぞ、父が許可をしたからまあそうかと受け入れているだけで特になにもないぞ!
「ふっ、それで結局は私の知らないところでくっついて終わるのだろう?」
「私、琴美も暁音もけいとのことを気にしていると思う」
「それはイトが――」
「
たまに中学一年生には見えないぐらいの表情になるときがある。
こういうときは大体じっと見つめる羽目になって、相手から「どうしたの?」と聞かれるまでがワンセットだ。
「これも秘密にしてきたんだけど実はね? 私は魔法が使えるんだ」
「魔法か、見たこともないのに言い切って見せたり、心を読めたりするのもそれか?」
「うん、そうだよ」
「それなら魔法で私の贅肉を消してくれないか?」
楽にやれる方法がないか常に探してしまっておいて言うのもなんだが、こういうのは地道に積み重ねていかなければ意味がないことだ、だからあくまで冗談だった。
「私が一緒にいればそうなるよ」
「はははっ、心強い味方だ!」
たとえ本当に魔法が使えても求めるつもりはない、また、本当ならこちらのことを試している状態だろうからどっちみち結果は変わらない。
「……馬鹿にしないところも好き」
今回のそれには気持ちがこもっている感じがした。
でも、それにどう答えていいのか分からなかったから触れたりはしなかった。
「いつもアジの干物になった物を買うけどたまには自分でさばいてアジフライなんかにしてみたいわね」
「誕生日に作ろう」
「動きたい症候群だから私もやるわ」
「言うと思った」
「特別豪華な料理じゃなくていいの、みんなでわいわい食べられればそれでいいわ」
まあいいか、本人が求めているのが一番いい。
「二日ずらしてやるのは大変だし、お金もかかっちゃうからまとめてやろう!」
「暁音はステーキとかがいいか?」
冬休みになっている状態ならいやでもだってと父みたいになるところだったがそうではないからありがたい提案だった。
「んー別に料理はなんでもいいんだよ。そのままならアジフライが出てくるわけで、私はそれでも十分満足できちゃうんですよ」
「なるほど、他にしてほしいことがあるのか」
「あれ、分かっちゃった? うん、それはねー」
今回はいい予感がしていた。
「みんなを一回ずつ抱きしめたい」
ま、まああれだ、私にどうこうではなかったからかなりの進歩だろう。
もう熱烈なハグをしてくれればいい、二人きりの場所でなら嘉子にとって教育に悪いくらいのレベルでいい。
「いまでもやっていることじゃない」
「いやいやっ、一回やってからは我慢を続けてきたんだからそろそろ限界だよ!」
「それならはい、これでもう消費したな」
「えー!?」
スイッチを入れるには琴美との触れ合いの時間の長さを一番にする必要がある。
意識しなくても集まれるようになっている点はかなり大きい、それと二人きりにさせるのもそう難しい話ではないのもな、くくく。
「あとは琴美と嘉――イトにしてやればいい」
「で、でも、いいのかな? なんかイトちゃんにやるのって危ない気が……」
「私達以外には誰もいないのだ、あとは嘉――イトが拒まなければなにも問題はない」
知ってしまったばかりに何度もそのまま呼びそうになってしまう。
このまま続けていたら学習能力がない人間として嘉子から認識されそうなので気を付けなければ。
「よ、よし、帰ったら頼んでみようかな」
「ああ」
「で、でも、少し怖いからスマホで頼んでみるよ」
「まあ、好きにしてくれればいい」
ぶつぶつ呟きながら出ていったので琴美と二人きりだ。
こんなことばかりだなと内で笑ってから鳩尾に優しく拳を押し当てる。
「琴美、頑張れよ」
「……一人だけ特定の同性に対してガチだったら怖くない?」
「分からせてやれ」
「そもそも最近の暁音は――」
「不安定な状態だからこそ見せつけて振り向かせるのだ」
あれは私の家に住むことになって土台が不安定な物になってしまっただけだ、これまでもそうしてきたようにそこを支えてやればいい。
私は嘉子のことをちゃんと見ておかないといけないからあっちもそっちもと上手に対応をすることができない、だからこれは自然なことだった。
「最近の私を見ていとに興味があるとは思えないの?」
「ああ」
「そんなに真っすぐに、すぐに言わないでよ……」
これが自然だから何回聞かれても同じ答えしか聞かせてやれない。
「まあ、一ミリぐらいはあってほしいところだな」
「ふっ、数値が低すぎるけどそういうところはいとのいいところね」
結局、環境が変わろうとガチな彼女は最後までガチということなのだ。
努力をしてもいまも言ったように一ミリぐらいしか干渉することができなかった。
「誕生日に二人で過ごしたいって頼もうかな」
「それがいい、ただどちらかだけは一緒に過ごしてほしい、イトが可哀想だからな」
もう誕生日のことも、そのことで盛り上がろうとも伝えてしまってあるからいまからどちらもなしは厳しいだろう。
あとは強がっても寂しがり屋の自分のためでもある。
「それなら暁音の誕生日のときはみんなで過ごしましょ……って、また受け入れてもらえるかどうか分からないけど」
「大丈夫だ、暁音ならあそこにいて『え、そうなの!?』と驚いた顔をしているからな」
「そ、そういう作戦だったの?」
「いや? 暁音が何故かあそこで足を止めただけだ」
離れなかった暁音が悪い、責めるならそちらを責めてほしい。
私はとりあえず今回も離れることにした。
止められなかったことが物凄く嬉しかった。
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