04
「いい景色だ」
「うん」
これだけはずっとやめられない。
多分、高校を卒業しても定期的に同じことをしていると思う。
「家からそう遠くないところにこんな場所があってよかった」
「うん、落ち着く」
海は見えているのに一度もいったことがないから夏になったらいってもいいかもしれない。
あとはたまにでもいいから向こうの方にも……。
「でも、私達以外には全然いないね」
「車に乗れる人達だったらあそこの駐車場に止めてすぐにいけるのにな」
「階段を上るのも楽しいのに」
まあ、混みすぎてこうしてゆっくりできないのは辛いからこのぐらいでいいか、そこに存在してくれていれば私はそれでいい。
「さて、そろそろ帰るか」
「うん」
この長い階段は下りるときの方が地味に怖かった。
だから少しびくびくしながらも下りていると「けいともしかして怖いの?」と背中にぶつけられてしまい慌てて否定をした。
「怪我をしたくないからな、慎重に行動しているだけだ」
「結構急だもんね」
そう、手すりがあるからまだいいがそうではないならこのルートからではいけない。
駐車場の方から下るとかなりの遠回りになるため、その場合は一年に一回とかになっていたはずだ。
「ふぅ、下りられたな」
「コンビニ……おでん」
「駄目だ、ご飯前に食べたら入らなくてなってしまうだろう?」
寄り道をしました、〇〇を食べたばかりに夜ご飯は食べられません、なんて馬鹿正直に話したら作ってくれている琴美が大爆発する。
「お母さんとお父さんにも夜ご飯前になにか食べるなってよく言われた」
「ああ、誰だってそう教えるだろう」
それと母親的存在になっていて遅くなっても大爆発するから早めに帰らなければならないのだ。
「でも、もうそのお父さんだっていないの」
「そうなのか?」
「うん、二年前に出ていった」
「それならイトのお母さんはよく許可をしてくれたな」
「私がお家で暗い顔ばかりしていたからだと思う」
うーん、私達の家でも無表情で「ずるい」と言い続けている彼女だからあまり変わらないような……。
録画をして送っても余計に不安、心配になってしまいそうだった。
「「ただいま」」
あれ、リビングには誰もいないようだ。
キッチンだけでも照明を点けていればここからでも分かるはずなのに真っ暗だった。
「まあいい、私が作るからイトはゆっくりしていてくれ」
「私もお手伝いする」
「そうか? それなら一緒にやろう」
二人でやったのもあって一人のときよりも早く終わったのをいいことに探索することにする。
まずは元私の部屋だ。
「正解だったか、なんで寝ているのだ?」
一応確認をしてみても熱がある感じではなかった。
申し訳ないがこんな時間に寝られても後で何度も絡まれそうなので起こすことに。
「……あんた帰っていたのね」
「体調が悪いわけではないよな?」
「うん、体調は大丈夫よ。ただ、最近はあんまり寝られていなくてね」
「冷えるからか? ただもうこれ以上は布団がなくてな」
買ってくれと頼むのも微妙だ、足りないなら持ってきてもらうしかない。
これでもいやでもだってと躱そうとする父を説得してお小遣いを少なくしている状態なのだ。
ゼロにならなかったのは父がそこだけは譲らなかったから、結局友達が家に来て助かっているのだから受け入れればいいのにあれだから困る。
「ううん、布団は十分よ、だけどなんか……」
「イトでも抱きしめながら寝たらどうだ?」
たまに手を握ってくるが冬の現在には温かくてよかった。
イトも琴美を気に入っているし、なによりタダだからと言ってみたのだが、
「それだとイトが寝られないじゃない、今日はあんたを抱きしめながら寝ていい?」
と、対象が変わってしまった。
私はよく手が冷たいと言われる人間なのでより寝られなくなるだけだと思う。
「はは、私はいいのか?」
「うん」
まあ、会話に夢中になりすぎて寝不足状態で学校にいく、なんてことになったら嫌だからな、私なら時間がくればさっさと寝てしまうからその点はいいはずだ。
「よし、決まったことだからご飯を食べよう」
「あ、それもごめん、私が作るってあれだけ偉そうに言っていたのに……」
「気にするな――それは本当に気にしなくていいが暁音は?」
「暁音とは家に着いたら別れたから分からないわ」
試しに新たに自分の部屋となったところにいってみるとぐーすか寝ている自由人がいた。
「ん……あ、けいとおかえりー……」
「暁音も夜に寝られていないのか?」
「ううん、だけどけいとを待っていたら眠くなっちゃって」
「そうか、だけどいまからご飯を食べよう」
「うん、お腹空いたー」
ま、まあ、二人とも体調不良とかではなくてよかった。
あと全く作れないのに暁音が無理に作ろうとしなくてよかったと思う。
「「「「いただきます」」」」
父を待たないのはこれもまた父のせいだ。
いい大人なのにいやでもだっての繰り返しだから本当に疲れる。
「イト、いよいよ明日ね」
「うん、上手にやれるかちょっと不安だよ」
そういえば明日の土曜に出かけると言っていたか。
「大丈夫よ、デートとかじゃなくてちょっと遊ぶってだけなんだから」
「琴美達はどうするの?」
「んー私は最近あんまり寝られていないから沢山昼寝をするわ」
「私はお小遣いを貰ってからなにか食べにいこうかな」
なにも決まっていないのは私だけか。
すぐにテストというわけでもないし、前々から頑張れる人間でもないし、どうしたものか。
「けいとはなにもないの?」
「ああ、まとめて掃除をするのもいいかもしれないな」
常日頃からやっているがそれでも追いついていない場所があるかもしれない。
掃除自体は好きなので少しわくわくしていた。
「で、何故私は外にいるのだ?」
「一人でいくわけがないでしょー」
それならそうとあの場で出さなかったのは……言い争いになりそうだったからか?
はぁ……いまから帰っても琴美は発言通り寝ていて邪魔にしかならないか。
「昨日、琴だけずるかったからその仕返しなの」
琴美が寝るまでにかかった時間は十分ぐらいだった、こちらもいつもそれで寝てしまったからどうなっていたのかは分からない。
真夜中にどうなっていたのかは誰も確認できていないため、いま寝ているのはそれのせいかもしれない。
「あとはイトちゃんのお友達がどんな子なのかを確かめたくてね」
「やめておけ、尾行なんかしてもいいことはなにもないぞ」
「じゃあ付き合ってくれる?」
「まあ、こうして出てきているのだからな」
お小遣いを貰ってなにか食べにいくという話だったな。
減っている身ではあるが貯金はしてあったから付き合うことができる、軽くでも本格的にでも合わせよう。
「まだ時間的に早いからご飯よりもゲームセンターとかかな」
「まあ、たまにはいいのではないか?」
「うん、本当はみんなでいきたかったけど今日はみんな予定があるから仕方がないよね」
もっとも、ゲームセンターなどはやりたい物が違って別れることになるから結局変わらないと思うがな。
基本的にはこういう施設で遊ばないが私はこういうところならコインゲームにする、センスがなくても運が悪くなければそれなりの時間遊べるからだ。
「けいとがコインゲームをやりたがるのは分かっていたよ、だから今日は私もコインゲーム」
「レースゲームとか音楽ゲームとか気にせずにやってくればいい」
「離れていたら意味がないもん」
「そうか」
いつもより近いがこれぐらい顔を近づけていないと聞こえないから仕方がない。
「ね」
「や、やめろ」
「え? 別にからかいたくてしたわけじゃないけどけいとって耳が弱かったっけ?」
「いまのは少しアレだった」
「そっか、じゃあこれでいい?」
キスができるカップルだって常時こんなに顔を近づけたりはしないだろう。
「こんなに至近距離で見つめ合っていたら異常だろう」
「でも、不快な気持ちにさせたくないからさ」
「コインゲームをやろう」
「うん」
ちなみに今日は運の悪い日のようだった。
そのため、百円分なんてあっという間に消えてただ見ているだけの時間になった。
彼女は私と違って上手で、減るどころか順調に増やしていた。
「はい、お裾分け」
「気にしなくていい、見ているだけでも十分楽しめる」
「でもさ、あんまり見つめられていると心臓が、ね?」
冬だからしっかりコントロールすることがより大事ではあるが与える影響度というのが違う。
眠たくなければ琴美がこうしたかったことだろうな、そして彼女ももっと楽しめていたはずだ。
「私は琴美ではないのだから余裕だろう?」
「いやけいとだから問題なんだよ!」
ばーん! と――はいいとしてここは戻っていないみたいだ。
「私が無表情だから見られていると怖いのか?」
「表情は関係ない、いまも言ったけど見てきている対象がけいとだからだよ」
それなら落ち着けるように違う方を見る――ことができなかった、それはそれで気になるみたいだ。
「あと…………みたい」
「えっ?」
「こ、琴だけずるいから私もけいとを抱きしめたい!」
がっ、み、耳が!?
……結構大きな声で聞き返したのが失敗だったか、驚かせてしまったみたいだな。
「いい……?」
「暁音がしたいならすればいい」
休日ではあるがお客さんも少なく、そのうえで近くには人もいない。
わざわざトイレまでいったり離れてしたりすると変な雰囲気になりそうだからここで終わらせてしまうことにした。
「満足したか?」
「これをずっと琴からされていたんだよね?」
「ああ、器用なもので寝てからもこちらを離したりはしなかったぞ」
お互いに向き合っている状態で抱きしめてきているわけではなかったから寝るのに苦労はしなかった――というのはまあ嘘ではないが結局寝転んだら割とすぐに寝られてしまう自分としてはあまり関係なかったと思う。
「もう、けいとって優しいのに意地悪だよね」
物凄く矛盾した発言をされてすぐにはなにも答えられなかった。
「暁音が大好きな琴美みたいにはできないのだ」
「そういうところも悪いところだから」
他の女の名前を出すな、そう言いたいのだろうか?
でも、それは琴美が一番彼女に言いたいことだろうからそのときのことを想像するのはなんら難しいことではなかった。
「イト」
「え、迎えに来てくれたの?」
「ああ、暁音を家まで運んでも時間があったからな」
私といるときでも明るくいてくれるのは本当にありがたいことだが最後までちゃんとできるようにコントロールしてもらいたいところだった。
「ただ連絡をしていたわけでもないし、どこで遊んでいたのかも分からないからギャンブルみたいなものだったがな、こうして会えたのは奇跡……は大袈裟でもそんなような感じだ」
いや、私もあまり偉そうには言えないか。
落ち着かせないといけない、情けない年上だと言われたくはないから。
「楽しめたか?」
「うん、お出かけしてよかった」
「それならよかった」
「でも、暁音とお出かけしたのは気に入らない」
「はは、一貫しているな」
興味を持ってもらえている内が幸せというものだ。
ただ、あくまでおまけ的な存在だったのにどうしてこうなったのか。
「今度、今日遊んだお友達にけいとのことをお姉ちゃんって紹介したい」
「姉か、私はちゃんとできているか?」
「一人だけを優先しすぎているわけでもないし、できていると思う、不満がないわけではないけど」
「みんなの姉は大変すぎるからもう一人姉が欲しいな、できれば私よりも上がいい」
そうしないと弱音を吐くことができないからな。
やはり溜め続けるのは体的にも心的にも悪いからそういう存在が大事なのだ。
いまのままなら父にしか言えない。
「それなら琴美……かな」
「家事もできるからな、だがもうあの家では母親的存在になってしまっているが」
「私がやるわ!」と言って本当に一人だけでやってしまうところは問題だった。
集まっているからこそきちんと話し合って協力することが大事なのに頼る気はないみたいだ。
「お母さんか」
「定期的に顔を見せてあげた方がいい、そうすれば少しは安心できるだろう」
「うん、学校の帰りにいってみる」
だから帰ったときに引き続き寝ていますように。
仮に起きても同じ部屋に暁音も置いてきたからそちらに意識を持っていかれるように対策しているから今日は大丈夫――ではなかった。
「この頑固少女め」
「帰ってくるなり酷いことを言うのね」
前言撤回する、琴美は子どもだ。
「少しは休んだらどうだ? そうやって意地を張っているから寝られないのだろう」
「や、今日は寝すぎて少し怠いぐらいよ、だから脳と体を動かさないといけないの」
「手伝わせる気はないのか?」
「別に拒んだりするつもりはないけど」
ゼロから上がっただけでもまだいいか。
「イト、楽しかった?」
「うん、受け入れてよかった」
「ふふ、よかったじゃない」
こういうところはいいのにな。
まあいい、さっさと手を洗って加わってしまおう。
「その優しい笑顔が好き」
「優しい笑顔って言われてもいまいち分からないけど、ありがと」
「暁音の笑顔は子どもっぽい」
「はははっ、それ直接言わないであげてよ?」
「聞こえてるよー……イトちゃん酷いよ」
起きてきたか、まあ横にいた存在が動いて急に消えれば気になるか。
家に帰るまでは整っていたのにどうすればこの短時間でそんなに髪の毛を爆発させられるのか気になったが会話の輪には加わらなかった。
「あと家事ができない」
「うぐはあ!? いやでもっ、動いたばかりに余計に酷くしちゃ駄目だと思うからさ!」
「言い訳ね」「言い訳」
「まあそう苛めてやるな、琴美がおかしいだけなのだからな」
「なにもしないでいられるわけがないじゃない」
スルー安定と。
あと会話で盛り上がっていたからさり気なく追い出してここを乗っ取ることに成功した。
途中でも、特に教えてもらわなくても少し見ればああと理解して進めることができる。
「今日は一緒にいられなかったのだ、だからみんなでゆっくりしてくれ」
「そのみんなにいとが――」
「イト、暁音、頼んだぞ」
「うん」「分かった」
さあ、さっさと終わらせてしまおう。
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