第33話 逆風の予感
夜の「
「よう、
「ここ空いてるぜ、座れよ」
陸が
「お疲れさまです」
軽く頭を下げ、陸と
「
「皆さん、優しいよね」
「
「まったくだ。彼が現場にいる時といない時の安心感が、全然違うよ」
隊員たちの言葉に、陸は顏を赤らめた。
「いや、働いているのはヤクモですから」
「
ヤクモが言うと、周囲に笑いが起きた。
「おっ、集まってるな」
そう言いながら現れたのは、
彼の姿を見た隊員たちが、一瞬背筋を伸ばした。
若い隊員から見れば、ベテラン曹長である元宮も、緊張する相手なのだろうと、陸は思った。
「ここのところ大型怪異の出現がチラホラあったけど、今日は静かですね」
「やめとけやめとけ、そういうの、フラグって言うんだぞ」
一人の隊員が言った言葉に、元宮が笑いながら返した。
「曹長が言うと、冗談に聞こえませんね……」
「……あれ?」
スマートフォンを眺めていた一人の隊員が、素っ頓狂な声をあげた。
「どうした、カノジョからのお別れメールか?」
「縁起でもねーな、っていうか俺にカノジョなんかいないっての」
仲間に茶化された隊員は、笑って言い返したが、次の瞬間、真面目な顔になった。
「それより、曹長、この写真見てください」
差し出されたスマートフォンを受け取った元宮が、画面を見つめた。
「これ、
彼の呟きを聞いて、陸も思わずスマートフォンを覗き込んだ。
画面に表示されているのは、利用者が最も多いと言われているSNSのタイムラインだが、その書き込みの中に、戦闘服姿の陸と思われる画像があった。画像には「人型の怪異?」という一文が添えられている。
かなり遠くから撮影された写真の上、陸はバイザーを装着している為、人相が分からない状態ではある。しかし、背中に生えている翼は視認できる状態であり、「人間」ではないと認識されるのは否めないだろう。
「民間人は戦闘区域から退避させてる筈なのに、こんな写真、いつ撮られたんだろう。よく、そんな余裕があったな」
元宮が、首を捻った。
「そもそも、初めて陸の身体を使って戦った時は、顔も丸出しだったがのぅ」
何か問題でも、と言わんばかりに、ヤクモが呟いた。
その時、点けっぱなしだったテレビから流れた音声に、全員の動きが止まった。
「『
声の主は、陸も少し前にテレビのニュースで見かけた、与党所属の若い国会議員だった。
画面に表示されている字幕には「
まだ三十代だという彼は、やや濃いめの顔立ちだが十分ハンサムと言われる域に入る容姿で、女性からの人気が高いという。
「重要な情報とは、どのような?」
「彼らが、術師の管理下において、特例で『怪異』を『使い魔』の名目で使役していることをご存知の方もいると思います。しかし、最近は危険度の高い『怪異』を使役しているという話です。問題は、危険な個体を使役していることを公表していなかったという点です」
インタビューに
「こういった信用に値しない組織には、やはりメスを入れ、解体、再編が必要でしょう」
「信用に値しないって……」
それは、他の隊員たちも同じである様子だった。
と、画面が切り替わり、別の男の姿が映し出された。
若い頃は、さぞモテていただろうと思わせる、ロマンスグレーの紳士然とした男だ。
画面には「
大臣経験者であり、他国との交渉でも自国に有利な条件を引き出したりと、幾つもの実績を持つ、政治に
「志摩さんは総裁選の本命との呼び声も高い訳ですが、志摩さんから御覧になった、対立候補の
「財政の見直しが必要という、彼の意見には同意です。しかし、よりによって『
向けられたマイクに向かって、志摩が淀みなく答えた。清廉な人柄を感じさせる話しぶりだ。
「仮に『怪戦』を縮小あるいは民営化して予算を確保したとしても、『怪異』に十分な対処ができず、その被害で人がいなくなってしまったら本末転倒でしょう。もちろん、必要であれば内部の精査を行うことについては、
志摩の言葉に、陸を始め、その場にいる者たちは頷いた。
「あっちの若手の意見は、あまり気にしなくていいだろう。注目を集める為に言っているだけの可能性もある」
元宮が、浮足立っている隊員たちを
――たしかに、そうかもしれない。しかし、「危険度の高い怪異」というのが、俺を指しているとしたら……
陸は、一抹の不安を覚えた。
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