第18話 怪異案件
陸は朝食を済ませてから戦闘服に着替えると、同じく身支度を整えた
時間には少し余裕があったものの、陸は会議室の扉を開けた。室内には、既に会議用テーブルに着席している者たちがいる。
「おお、来たか。とりあえず、座ってくれ」
「おはようございます」
陸たちの姿を見て声をかけてきたのは、いつもの戦闘服姿の
更に、もう一人、術師の格好をした男が陸たちに目礼した。陸にとっては初めて見る人物である。
年齢は二十九歳の来栖と変わらないくらいだろう。長く真っすぐな黒髪を首の後ろで束ねた、やや神経質そうな印象の男だ。
「おはようございます。……今日は一体、何があるのでしょうか」
椅子に腰掛けた
「急に呼び出した形になってしまって、すまない。警視庁から『怪異案件』が持ち込まれることになったんだが、その捜査人員として、俺が
「怪異案件」と聞いて、陸は前日に戦闘員の元宮から聞いた話を思い出した。
「そうなんですか? あの、自分は何をすれば……」
来栖の説明を聞いた
「まず、警視庁から担当者が来るから、彼らから事件についての説明を聞くこと。具体的な任務については後で俺が説明する。……それと」
言って、来栖が陸に目を向けた。
「
「分かりました。俺は、黙っていたほうがいいですね」
「話が早くて助かる」
陸の言葉に、来栖の口元が少し
「ところで、そちらの人は?」
陸は、術師の男を見た。
「ああ、
「術師の
「
「なるほど、君がコードネーム『ヤクモ』ですか。たしかに、『人間』の魂と『怪異』の魂の二つが、その身体に宿っている……君が、そうなった経緯は聞いています。しかし、勘違いしないほうがいいですよ」
「勘違い?」
唐突とも思える伊織の言葉に、陸は面食らった。
「
「はい、
陸が一も二もなく同意すると、何故か伊織は
その時、会議室の扉が開き、真理奈が二人のスーツ姿の男たちを伴い入ってきた。
「皆さん、全員集まっていますね」
一同の顔を見回して、真理奈が言った。
「警察で捜査中だった事件が、『怪異案件』の可能性があると判断された為、捜査権が『
スーツ姿の男たちは警視庁から来た刑事であると、真理奈から紹介された。
警部と呼ばれる、見るからにベテランの風情を漂わせた男が、室内に設置されたモニターに資料を映しながら、事件について説明し始める。
「……陸、あの伊織とかいう術師、虫が好かんな」
突然、陸の脳内にヤクモの声が響いた。
「どうしたんだ?」
陸は声に出さず、心の中でヤクモに話しかけた。
「あの男は、自分が
「そりゃ、
「そうではなくて……
「ああ、それで、ああいうことを言っていたのか」
ヤクモの言葉で、陸は伊織の言動が腑に落ちた気がした。
「
「俺が鈍くて、がっかりさせちゃったのか」
「うむむ……陸は他人の悪意に気付かな過ぎるのである。
「なんか、ヤクモも人間みたいなことを言うようになったね」
「ふむ、これも
「でも、俺のことを心配してくれてるんだ。ありがとう」
「
ヤクモの口調に、どこか照れを感じて、陸は笑いをこらえた。
刑事たちの説明によれば、今回の「怪異案件」は、当初「通り魔事件」として捜査されていたという。
限られた区域で、通行人が突然負傷させられる事件が相次いでいるにもかかわらず、犯人を見た者は、被害者の中にさえ誰もいないという。
唯一、犯行の現場を捉えた防犯カメラの映像には、何の前触れもなく流血する通行人の姿は映っていても、やはり犯人の姿は確認できなかった。
その為、警察は、この事件が「怪異案件」である可能性が高いと判断したという訳だ。
「典型的な『怪異案件』ですね」
事件の説明を終えた刑事たちと真理奈が会議室から出ていくのを見送ってから、伊織が言った。
「私と
彼の言葉を聞いた
しかし、来栖は「今は何も言うな」とでもいう様子で肩を
「大した自信であるな。
不意に響いたヤクモの声に、伊織が陸を見つめた。
「ほほう、これが『怪異』のほうの『ヤクモ』の声ですか。なかなか生意気そうですね」
「
ヤクモの言葉に、伊織を除く四人が、思わず、くすりと笑った。
「ヤクモは、少し口が悪いかもしれませんが、いい子なんですよ。もちろん、
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