第19話 術師と只人
警察から持ち込まれた「怪異案件」の捜査の為、陸たちは、自動車で、特に被害の多発している現場へ向かうことになった。
「対怪異戦闘部隊」が所有する車両の一種、軍用車の雰囲気も持つ大型
「まさか、自分が、この車両に乗るなんて思いませんでした。街で哨戒中の姿を見たことがあるくらいで」
後部座席に座った陸は、物珍しさから周囲を見回した。
「自動車か、
ヤクモが退屈そうに呟いた。
「
隣の席の
「この先、イヤというほど乗れるぞ」
運転席に座った来栖が、笑って言った。
「目的地は、〇〇区〇〇町……住宅街ですね」
助手席では、
「商店街などに比べると防犯カメラも少ないからな。犯行の瞬間を捉えた映像が僅かなのは仕方ないか」
そう言うと、来栖はアクセルを踏んで車を発進させた。
「『怪異』の中には、他者の認識を阻害して自身の姿を見えなくさせるとか、光学迷彩的な能力で姿を隠しているものも少なくありません。まぁ、我々のような『術師』であれば、そうして隠れている『怪異』も見えてしまう訳ですが」
滑るように走る車両の中、伊織が、どこか得意げに言った。
「そもそも、昔は『怪異』を討伐するのは専ら術師の役目でした。近代になって『呪化学』が発達し、霊力を持たない
運転に集中しているのだろうか、来栖は無言でハンドルを握っている。隣の
「術師って、すごいですね。術師になれるのは、限られた人だけだし」
陸は、伊織の話に相槌を打った。
「そうです。生まれつき高い『霊力』がないと、『術』を発動したり、隠れている『怪異』を見付けたりできませんから」
言って、伊織は鼻先で微かに笑った。
「でも……」
「現代では、まり……
彼女の無邪気な言葉に、そうであればいいですけど、と伊織は呟いて肩を
やがて現場に到着した陸たちは、車両から降りた。
そこは閑静な住宅街で、整然と立ち並ぶ家々や空き缶の一つも落ちていない道路が、治安の良さを
まだ日は高く、住民たちは職場や学校へ行っているのだろう、人影は
「事件発生の瞬間を捉えた防犯カメラが設置されているのは、向こうにある公園だな。まず、そこを調べてみよう」
持参したタブレットで事件についての情報を見ながら、来栖が一同に声をかけた。
「捜査責任者は私です。まず、私に確認してください」
「それは失礼しました」
眉根を寄せた伊織に言われ、来栖は苦笑いした。
「ああ、それと」
伊織は思い出したように陸の顔を見た。
「『使い魔』の運用についても、私の指示に従ってください。指示なくして『ヤクモ』を表に出さないこと、いいですね」
「……分かりました」
頭ごなしの指示に驚きつつ、陸は頷いた。
「あなや、
ヤクモの声が、陸の脳内に響いた。
「今回の捜査責任者は伊織さんだそうだから……我慢して」
陸は、心の中でヤクモに呼びかけた。
「人間の社会とは、
声には出さないものの、ヤクモは、陸の中で、ぶつぶつと呟いている。
「伊織さん、緊急時は、その限りではありませんよね?」
「私の担当する案件で『使い魔』による不始末があっても困りますから……まぁ、緊急時は仕方ありませんけどね」
来栖が指し示した公園は、ブランコやジャングルジムといった子供の喜びそうな遊具が設置され、周囲の植木も手入れが行き届いている。一見すると流血沙汰などとは無縁な雰囲気だ。
「では、私と
そう言いながら、公園へと足を踏み入れる伊織の後に、陸たちは続いた。
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