第17話 娯楽室にて
「
ひとたび「怪異」との戦闘が始まれば、互いに背中を預ける間柄である彼らは、
同室になった
扉がなく、通路から内部が丸見えになっている「娯楽室」では、数人の隊員たちがテレビを見ながら雑談したり寛いだりしている。
失礼します、と会釈をしながら部屋に入る
「よぅ、
二人に声をかけてきたのは、ソファに座っていた曹長の
「はい。
「お前ら、大丈夫なのか?」
別の隊員が、陸と
「
陸の言葉に、元宮が、そうかと安心した様子を見せた。
「はァ……担当の術師が
「気持ちは分からなくもないが、本人の前で、そういうことを言うんじゃない」
一人の隊員が呟いたのを聞いて、元宮が
「大丈夫です、俺は気にしないので」
言って、陸は微笑んだ。
「
「技術士官ではあるけど、『怪異』に関する知識も豊富で、戦闘の指揮も任されるとか、住む世界が違うって感じだよな」
「俺、あの人と直接口を利いたことなんてないよ。罵られるとかでも、声をかけられたら心拍数上昇し過ぎて倒れるかもしれん」
「俺は三佐殿に踏まれてみたい」
「……踏まれたら痛いのでは?」
はしゃいでいる先輩たちを見て、
「あ~……お子様には、まだ分からないか」
「俺は、お子様じゃないが、貴様のシュミは分からん」
先輩たちが笑いながらじゃれ合う様に、
任務の際の隙を感じさせない様子とは異なる、和やかな雰囲気に、陸は、彼らも普通の「人間」なのだと、何となく安心した。
「……そういえば、『あの事件』、報道がピタリと止まりましたね」
テレビに流れているニュースを眺めていた隊員が、ぽつりと言った。
「『怪異案件』になったのかもしれんな」
彼の言葉を受けて、元宮が頷いた。
「だとしたら、『
彼らの話を聞いていた陸は、口を開いた。
「『怪異案件』って、何ですか?」
「それはな……」
元宮が、おっと、という顔で答えた。
「時々、何か犯罪絡みの事件が報道されても、突然話題にならなくなることがあるの、気付いてるか?」
「たまに、ありますよね。手がかりが無くて捜査が行き詰っているとか、迷宮入りになってしまったとかではないんですか?」
「もちろん、そういうこともあるだろう。だが、人間による犯罪ではなく、怪異絡みと判断された時、捜査権が警察から『
「怪異」の行動は、多くの場合、合理性に欠け人間の理屈による説明は不可能で、対策の仕様がないと言われている。報道されなくなるのは、人の法で裁けない以上、見せしめの意味もないというのが理由かもしれない――陸は、自分がこれまで何も知らずに生きてきたのだと、改めて思った。
「犯人、というか原因になった『怪異』を見付けたら、どうするんですか」
「基本的には『処理』だな。だから、その技術を持つ『
元宮の説明を聞いて、「人間でもあり、怪異でもある」陸は複雑な気持ちになった。
「人里に出てきた人食い熊などの害獣を殺処分するようなものであるな」
突然、ヤクモの声が響いた。
その場にいた全員が、陸に注目する。
「そんなの、よく知ってるね」
「
陸の心を見透かしたように、ヤクモが言った。
「そう、そうだね。ただ、問答無用で『処理』されちゃうのかと思ったら、それも少し可哀想な気もしたからさ」
「
陸の言葉を受けて元宮が言うと、他の隊員たちも同意する如くに頷いた。
「もしも、もしもだけど、
「それは何とも言えんのである。
そう言うヤクモの笑い声が、わははと響いた。
陸を選んで良かったというヤクモの言葉は、陸本人にとっては意外ではあったが、同時に、少し嬉しさを感じるものだった。
翌日の朝、業務連絡用に渡されている陸のスマートフォンに、
メッセージには「怪戦」内の指定された部屋に来いとあるだけで、用件については触れられていない。
「
「それについては、
陸は首を傾げた。
「
「ヤクモは分かるか?
ヤクモが口を挟むと、
「君たち、いつの間にか普通に話すようになってるね。いいことだ」
言って、陸は、くすりと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます