第22話 新しい生活の始まり
春の暖かな陽気の中、首田は大学を卒業したばかりの青年だ。卒業証書を手にしながらも、何かを成し遂げた実感が湧かない。将来については不安があり、就職先に選んだのは地元の印刷屋だった。家族の勧めもあり、安定した仕事を選んだが、内心では自分が本当にやりたかったこととのギャップに悩んでいた。
大学で学んだ文学や哲学に対する興味を持ちながらも、彼はその世界から離れて現実的な選択肢を取った。仕事を始める決意を固め、西浦和駅から数分の場所にあるその古びた印刷屋の工場に足を踏み入れる。
「おお、君が新しい子か?」嶋大輔に似た村田という男性が、威圧感を隠さずに声をかけてきた。村田は首田の上司であり、彼のこれからの仕事環境を作り出す存在だ。
首田は緊張しながらも「よろしくお願いします」と答えるが、その威圧的な雰囲気に圧倒されていた。
入社初日から、首田は村田の厳しさに直面する。印刷物のチェックや整理をしていると、村田はすぐに首田に注文をつけ、細かいところまで何度も指摘する。最初は仕事に慣れるためだと思っていたが、その度に村田は声を荒げ、首田のミスを大きく責める。
「首田、お前、またこのページの色合いが違うじゃないか。どういうことだ?」
村田の冷たい声が響く中、首田はその度に謝り、再度確認作業を繰り返す。しかし、次第にその態度がエスカレートしていく。特に、ミスをすると全員の前で大声で叱責されることが多くなり、首田はその圧力に耐える日々を送る。
「こんなミスでお前の評価は一気に下がるぞ。みんなもお前ができないことを見ているんだぞ。」
周りのスタッフたちは黙って見守るだけで、誰も首田を助けようとはしなかった。
数週間後、首田はどんどん精神的に追い詰められていった。村田の圧迫は日に日に強くなり、首田は次第に仕事に対する自信を失っていった。毎日のように長時間働き、休憩時間さえも与えられない日々が続き、心身ともに疲弊していく。
ある日、首田は夜も眠れずにベッドに横たわりながら、ふと自分がどこに向かっているのか分からなくなった。大学時代には自由に学び、議論を交わしていたはずなのに、今ではただ機械のように仕事をこなすだけの毎日が続いていた。
「こんなはずじゃなかった…」
心の中でその言葉を繰り返しながら、首田はますます自分を見失っていった。
ある日、首田はついに限界を迎える。村田のパワハラはあまりにも酷く、首田は耐えきれなくなった。あるミスを指摘され、いつものように大声で叱責された後、首田はついに言った。
「村田さん、もう限界です。この仕事を続けるのは無理です」
村田は不快そうに首田を見つめ、「何を言っているんだ、お前は。まだ新人のくせに」と冷たく言い放った。
首田は深く息を吸い込み、決意を固めた。「僕はこのままでいいと思っていません。もっと自分の道を進みたいんです」
村田はしばらく黙っていたが、やがて冷笑を浮かべて言った。「そうか、お前がそんなふうに逃げるんだな。わかった、さっさと辞めろ」
その瞬間、首田は心の中で何かが解放されるのを感じた。彼は深呼吸をし、工場を後にすることを決意した。
印刷屋を辞めた後、首田は少しの間自宅で療養を続けた。心の中にはまだ空虚感が残っていたが、ある日、偶然テレビで尾崎豊の特集を目にする。その歌声と歌詞が彼の心に深く響き、「誰にもわかってもらえない、でも、どうしても叫ばなきゃならない」という歌詞に共鳴した。
その瞬間、首田は涙をこらえることができなかった。そして、尾崎豊の音楽に触れることで、心の中に閉じ込められていた感情が解き放たれた。
「自分の道を歩かなければならない」首田はそう思い、心の中で新たな決意を固めた。
療養を続ける中で、首田は自分に問いかけるようになった。「自分はどう生きたいのか?」尾崎豊の音楽や、『北斗の拳』に触れることで、彼は新たな力を得ていく。そして、ついに再び仕事を探し始める。
今回は、安定を求めるのではなく、もっと自分の情熱や希望に沿った仕事を見つけるために。尾崎の歌声とケンシロウの強さに励まされながら、首田は新たな一歩を踏み出した。
そして、村田の噂が耳に入る。村田が何かトラブルに巻き込まれ、謎の死を遂げたという噂だった。それは、首田にとって特別な意味を持たない。ただ、彼はもう村田のような存在に振り回されることなく、自分の人生を切り開いていく決意を固めたのだった。
首田は、音楽や物語から得た力を胸に、再び歩き出すのだった。
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