第21話 犠牲者
その夜、島田はいつものようにリビングのソファに深く腰を下ろし、リモコンを手に取った。外はすっかり暗く、家の中には静かな空気が流れていたが、島田の顔には一抹の期待が漂っていた。
「今日もアメマTV、面白いだろうな」
自分に言い聞かせるように、彼はテレビをつけた。
しばらくすると、画面に賑やかな音楽が流れ、アメマTVのオープニングが始まった。島田は、心の中で「さあ、来た!」と声を上げたような気がした。最近のアメマTVは予測不可能な展開が多く、どんな番組でも笑わずにはいられない。ゲストのトークに、芸人たちの掛け合い、さらには予想外のドッキリやハプニング。すべてが絶妙に絡み合い、視聴者を楽しませてくれる。
その日も、やっぱりアメマTVは期待を裏切らなかった。
「なんだ、これ…」
島田は思わず声を漏らした。画面の中では、普段は真面目な俳優が、突然コミカルな衣装を着て踊り出していた。それに合わせるように、隣に座っていた芸人たちが爆笑している。島田の目は釘付けになった。
「ははは!これ、マジでやるんだ…!」
島田は、ソファに身を乗り出して笑い始めた。その笑い声はどんどん大きくなり、やがて腹を抱えて笑うほどになった。
画面には、俳優が次々に奇妙な動きをしながら踊り続けていた。途中、予想外にカメラがズームアップすると、その俳優の顔に小さな顔芸が加わり、島田は思わず拍手をしてしまった。
「すごい、やっぱりアメマはこうじゃなきゃな!」
島田は思いっきり笑いながら、リモコンを手に取る。笑いをこらえきれず、彼はテレビの前で足をバタバタさせていた。
「こんなに笑ったの、久しぶりだわ」
リビングには、島田の笑い声だけが響いていた。それが、どこか心地よい空気を作り出していた。アメマTVが終わるまで、島田はまるで子供のように笑い続けた。
番組が終わり、静けさが戻ると、島田は深呼吸をして、ようやく笑いを収めた。顔はまだ少し赤くなっていて、肩が震えている。
「最高だったな…あの芸人、ほんとに面白すぎる」
島田は、まだ余韻に浸りながら、リモコンを元の場所に戻した。
その晩、島田は心から楽しんだ。そして、また次の放送が待ち遠しくてたまらなかった。
その翌朝、島田はいつものように早く目を覚まし、リビングに向かった。しかし、何かがいつもと違っていた。普段はまだ暗い外の景色に、島田の足音だけが響く静かな家。リモコンを手に取ろうとしたが、ふと、彼はソファに座ったまま動けなくなった。
しばらくの沈黙の後、島田の心の中に何か異常を感じた。テレビの前に座っている自分に、どこか現実感がないような気がしてならなかった。深い息をつきながらも、画面が映し出す情報が彼の頭の中でうまくつながらない。あの日、アメマTVで大笑いした記憶はまだ鮮明で、楽しい余韻が心を満たしていたはずだった。しかし、どこかしっくり来ない感覚が拭えない。
その時、リビングのドアが静かに開き、警察官が入ってきた。何も言わずに島田に近づき、顔を見て、口元がわずかに歪んだ。その瞬間、島田は何か重大なことが起こったのだと気づいた。
「島田さん、あなたにお伝えしなければならないことがあります」
警察官の言葉が、まるで遠くから聞こえてくるように感じた。島田は一瞬、自分の耳を疑ったが、そこには疑う余地のない現実が広がっていた。
その晩、島田は心から楽しんだアメマTVを最後に、謎の死を遂げることとなった。誰もがその死を予想できなかった。何も異常がなかったはずの彼の日常の中で、急に消えてしまうなんて、誰も信じることができなかった。
その後、警察は調査を続けたが、結果はあまりにも奇妙であった。島田の死因は一見、自然なものであるように見えた。しかし、どうしても説明できない何かが、この事件に絡んでいるような気がしてならなかった。
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