第28話 家族のお願い、こんなのあり?

いつもの居酒屋に集まった3人。今回のテーマは患者さんの家族の要望についてだ。仕事柄、何度も「それって可能なの?」と首を傾げる要求に遭遇している。


彩香が真っ先に口火を切る。

「まずさ、家族から『絶対に転倒させないでください』って言われること多くない?めっちゃプレッシャーかけられるんだけど!」

美里が笑いながら頷く。

「あるある。それ言われると、急に患者さんのそばを離れられなくなるよね。でも現実的には無理だよ。転倒予防には全力尽くすけど、患者さんが急に動いたりしたら防ぎきれないこともある。」

恵がため息をつく。

「この前なんて、そう言われた直後に患者さんが勝手にベッド柵を乗り越えようとして転びそうになって、全速力で駆けつけたわ。あの瞬間、私の心拍数すごかったと思う。」

「お局が『なんでちゃんと見てなかったの?』とか言いそう!」と彩香が声を上げると、全員が「それな!」と声を揃えた。



「それで思い出したんだけど、『毎日入浴させてください』って言われたことある?」と美里が話題を変える。

「あるある!」と彩香が即答する。「でもさ、病院で毎日入浴は絶対無理じゃない?他の患者さんのスケジュールもあるし、そもそも体力的に厳しい人もいるし。」

恵が少し思案顔で言う。

「家族からすれば清潔にしてほしいっていう気持ちも分かるんだけどね。だから『清拭でも清潔は保てます』って説明するんだけど、なんか納得してもらえないことも多い。」

美里が頷きながら「清拭の技術、もっとアピールしてもいいよね。結構手間かかるのに、評価低いのが納得いかない!」と話すと、彩香も大きく頷いた。



「これ、最大級に困るやつなんだけど!」と彩香がグラスを置く。

「『旅行行くので退院日を少し伸ばせませんか』って家族に言われたことあるの。最初、冗談かと思ったら本気で言ってて。」

美里が「マジで!?」と驚くと、彩香は苦笑いを浮かべた。

「しかもその家族、患者さんに内緒で言ってきたの。『本人には言わないで』って。どう対応すればいいのか分からなくて、医師に丸投げしちゃったよ。」

恵が冷静な口調で言った。

「それ、患者さんの回復を無視してるよね。退院日だってチームで調整した結果なのに。」

「本当にそれ!」と彩香が続ける。「結局、医師が『患者さんのためになりません』って説得したけど、なんか変な空気になったよ。」



話題が一巡したところで、美里が静かに語り始める。

「これは本当にショックだったんだけど、『年金が入る日まで生かして』って言われたことがあったの。」

彩香が「え、それマジ?」と目を丸くする。

「うん。患者さんの家族が真剣な顔で頼んできて、最初は何のことか分からなかった。でも『お金がない』って言われて、ああ、そういうことかって。」

恵が溜息をつく。

「でもさ、それって私たちにどうこうできる話じゃないよね。患者さんの命は家族の事情で調整できるものじゃない。」

美里がしんみりと続ける。

「結局、医師が家族に現実を説明してたけど、私たちにとっても重い話だった。」



話が一区切りつくと、彩香がグラスを掲げて言った。

「でもさ、家族も不安で言ってるんだよね。私たちがどれだけ頑張っても、完璧は無理ってことをもっと伝えていかなきゃなって思う。」

美里が「そうだね」と微笑む。「家族が協力してくれると本当に助かるんだけど、それも私たちがどう接するか次第だもんね。」

恵は静かに頷いて「それでも無理な要求にはきちんと対応しないとね」と話を締めた。


その後、3人は再び乾杯をして、それぞれの現場での奮闘を胸に、明日への活力を得ていた。

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