第27話 神ナースの話

「やっぱり私、神ナースになりたい!」


 彩香がジョッキを掲げて宣言する。居酒屋での看護師飲み会はいつも笑いが絶えないが、今回は「神ナース」をテーマに盛り上がりそうだ。


「でもさ、神ナースってさ、具体的にどんな人?」と、美里が鋭く切り込む。


「ルート確保の神様でしょ!」


「患者さんから絶大な信頼を得てる人!」と彩香が即答するが、恵はクスリと笑ってジョッキを口に運んだ。


「そういえば、私のときもルート確保で困ったことがあったな」と美里が語り出した。


「患者さんが脱水で血管カチカチ。もうどうにもこうにも取れなくて、先輩たちにも頼ったんだけど全滅。で、最後に神ナースが呼ばれたのよ。」


「それで?」と彩香が身を乗り出す。


「一発。しかも全然焦らず、『あ、ここだね~』って。あの余裕、マジでかっこよすぎた。」


 彩香は目を輝かせながら「それ、私もやりたい!」と拳を握るが、美里は苦笑い。


「いや、あれは才能。多分血管が見える目でも持ってるんじゃない?」


「私はね、神ナースと同じシフトになるだけでやる気が出る!」と恵が語り出した。


「わかる!」と彩香が即座に同意する。


「私の神ナースはお菓子配りが得意なの。疲れた夜勤中でも突然『お疲れ様!糖分補給ね!』ってチョコを差し出してくれるのよ。あれが本当に嬉しいの。」


「しかも、褒めてくれるんだよね」と美里も頷く。


「小さいことでも『美里ちゃん、今日すごく動きいいね』とか言ってくれるから、ちょっとだけど『あ、私頑張れてるんだ』って気になる。」


 彩香は「褒められて伸びるタイプなんだ」と笑うが、恵は真顔で「褒めるって才能よ?」と言い放った。


「あとさ、どんなに忙しくてもイライラしない人って神だと思わない?」


 恵の発言に、彩香が「ほんとそれ!」と勢いよくジョッキをテーブルに置く。


「夜勤中に急変対応が続いて、みんなピリピリしてるときにさ、神ナースが一言『大丈夫、私たちならできるから』って声かけてくれたのよ。あの言葉、めっちゃ救われた。」


 美里も思い出すように頷く。「そうそう。『この人がいるなら何とかなる』って安心感を与えられる人って、本当にすごいよね。」

 彩香は真剣な表情で「それ、私も言えるようになりたいなぁ」と呟いた。


「知識量と先読み力も、神ナースの特徴だよね」と美里が話題を切り替える。


「ある夜勤で急変患者が出て、ドクターを呼ぶ間もなく神ナースが次々と指示を飛ばしてたの。酸素の用意とかルート確保とか、必要なもの全部揃えてて、結局ドクターが来たときにはほぼ対応が終わってたの。」


「すごい!」と彩香が驚く。


「しかも、そのあとも冷静に記録してたからね。こっちはバタバタしてるのに、どうしてそんなに余裕があるのか不思議で仕方なかった。」


「それは経験と努力の賜物だよ」と恵が微笑む。「神ナースも最初から神だったわけじゃない。私たちも少しずつ成長していけば、いつか追いつけるよ。」


「いやー、神ナースの話してたら、自分がどれだけ未熟か痛感するわ」と彩香が肩を落とす。


「私もまだまだだなぁ」と美里が苦笑い。


 恵は二人を見て「でもさ、神ナースだって一人じゃ働けない。私たちがいるからこそ成り立つ職場なんだよ」と優しくフォローした。


「うん、私も頑張ろう!」と彩香が拳を握ると、美里と恵も「そうだね」と笑顔で応えた。


 その日の帰り道、3人は「明日からも頑張ろう」と心に誓ったのだった。

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