第14話 オークどもへの対処法


 無事『おつとめお座りの刑』を終えた俺は、再びお嬢の村へ向けて歩き出す。

 途中、食えるだけの植物を食った。

 お嬢が心配そうに言う。


「ヒスキさん。お腹壊さないでね?」

「なんのこれしき。我がスキル『カシワブラッド』の力を最大限発揮するには、必要な作業です。もぐもぐ」

「兄貴様のほっぺかわいー。口の中に入れすぎー。もふもふぱんぱん――あ痛!?」


 不用意に口元を撫でてきたメスガキに怒りのパンチを繰り出す。

 この短い期間に、すっかり定着した感のあるツッコミだ。

 ま、タマのやり取りを繰り返すよりはずっといいさ。


「まったく、この半人前舎弟め。俺をキレさせることしか能がないのか。それでもお嬢を守る騎士かよ、ああ?」

「あ、あたしだってケルアや兄貴様の役に立てるもん」

「ほう? どんな風に?」

「えっと」


 イティスがふと真剣な顔付きになる。

 てっきり口から出任せかと思っていたが、少しアテが外れた。


「実は、ずっと前から調べてた。長老様のお話聞いたり、昔の本を読んだり」

「ほう……ん? 待て、お前の村には書物があるのか!? 紙や筆記具も!?」

「昔の本ばっかりだけどね。今、本を作ってる人は見たことないなあ。アレ、どうやって作るの?」

「……いや、今その話はいい。気にすんな。で? 調べて何かわかったのか」

「あ、うん。それでね、村の近くにオークやオークバイトを討伐するための聖剣が封印されてるって知ったの。もしケルアが外の世界に出るのなら、あたし、その聖剣を手に入れようと思ってる」

「イティス、お前。意外と真面目に考えてるじゃねえか。偉いぞ」

「そ、そう? えへへ。褒められた」


 真面目な顔がすぐ崩れる。こういうところが半人前だというのだ。

 しかし、イティスの考えは非常に魅力的だ。

 この先、お嬢の夢を叶え世界を自由に旅するとき、大きな障害になるのがオークども。それを討伐できる武器があるとすれば、安全性はさらに増す。イティスを俺のイメージ通りの騎士に育てるにあたって、ぜひとも入手しておきたい。


 神獣と聖剣。

 いいね。非常にそそられるワードではないか。

 ご都合主義? 大いに結構。『薬局クスリの売買』よりずっとハイにキメられそうだ。


 俺たちは生前の世界で『ヘマ=死』の感覚に慣れすぎた。

 願わくば、笑って聖剣を手に入れたい。期待してるぜ、ASMRアスマー異世界サンよ。


「よし舎弟、聖剣をキメんのは貴様の仕事だ。しっかりお役目を果たせ!」

「りょーかい!」

 

 両手で握り拳を作り、上機嫌に頷くイティス。「了解」なんて言葉がこいつの口から聞けるとは思ってもみなかった。聖剣のことを調べて回ったことといい、意外に頭は回るのかも知れない。とてもそうは見えないが。

 ま、人間の外見や雰囲気なんてそんなもんだ。誰しもデキるところはひとつふたつ持っている。社会のつまはじきモンを大勢見てきたからこそ、余計にそう思う。


「いいな……」


 ふと、お嬢の羨ましそうな声が聞こえた。ひとりやる気になっている舎弟を、目を細めて見つめている。


「私も、何か役に立ちたい。役に立てるところを見せたい」

「良い傾向ですぜ、お嬢」

「え?」


 俺の言葉にお嬢が怪訝そうにする。


「お嬢、人の性根っつーもんはそうそう変わりゃしません。お嬢は黙っていても誰かの役に立つ、立てるお人です。だからお嬢は、これからどんどん欲望を吐き出すくらいでいいんでさ。今まで萎縮してた分、ちょうどいい按配あんばいになるってもんです。もっとでっかい人間になりましょう」

「でっかい、人間……でも私は見ての通りドジで役立たずだよ? オークを呼び寄せちゃうし、何なら人よりも害があるかも」

「問題ありません。そのために俺がいるんですから。あと舎弟も。俺たちで、お嬢を守ります。でっかいお人になるそのときまで。だから遠慮なく、欲張ってくだせえ。期待してますよ。『世界を獲りにいく!』とブチ上げてくださるその日を」

「そ、そんなことしないってば!」

「ははは。俺は大歓迎ですぜ?」


 お嬢が「もう」と困ったように呟く。けれど、その顔は穏やかだった。

 その顔が見れただけで安心だ。


 それから俺は、お嬢とイティスの案内でずんずん森を進んでいく。

 やがて水場より陸地が目立つようになった頃、目的の村が見えてきた。

 あれが、お嬢たちの生まれ故郷。名無しの村だ。


 何て言えばいいのか……『ザ・村』という外観である。

 森を切り開いた土地に、木造の民家が点々と建っている。世界観に凝った水彩画調RPG的な村――とでも言えばいいだろうか。わかる奴は伝われ、このイメージ。


 敢えて特徴を言えば、ほりへいがないこと。あれじゃあ襲撃してくれと言ってるようなモンだ。この世界にはオークや豚虫オークバイトがいるのに、いいのかよ、それで。


 俺は耳をピクピクと動かした。村の方向から耳障りな声が聞こえてきたからだ。 

 お嬢たちを見上げる。二人は揃って緊張した表情になっていた。


「兄貴様もわかった?」


 俺の視線に気付いたイティスが言う。


「この声、村長さんのものなの」

「……オークになっちまったのか」

「うん。だから皆、怯えてる。平和なときなら、ここからでも皆の姿は見えるもん。でも今はガラガラ」


 確かにイティスの言葉どおり、村に人の影は見当たらない。息を潜める村人と、時折不快なうめき声を上げるオーク村長。俺なら間違ってもこんなところに住みたくない。


 いつの間にかお嬢が足を止めている。俺は言った。


「行きましょう。ご心配には及びません。お嬢にはこの神獣ヒスキがついていますんで」

「……うん」

「何も村人全員とさかずきを交わすことはありません。ここに立ち寄ったのは、あくまでお嬢の旅のため。必要なモンを揃えるためです。そう考えれば、ちっとは心が軽くなるでしょう」


 そう励ますと、お嬢は少し表情を緩めた。そして意を決したように歩き出す。

 ――で、こういうときに決まって横槍を入れやがるのが、半人前舎弟だ。


「ねえ兄貴様」

「うっせえヤキいれるぞ」

「まだ何も言ってないってば!」


 空気を読まないコイツは、俺を抱き上げて言った。


「あのね、兄貴様の力があれば村長さんを元に戻せたりしない?」






◆14話あとがき◆


この先の冒険に役立ちそうな聖剣があるらしい――というお話。

無事に村に到着したヒスキは、オーク村長にどう対処する?

それは次のエピソードで。


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