第13話 カシワブラッド


 新しい俺の力、植物操作能力。サブカル好きとしては、何か格好いい名前を付けたいところである。


「……が、いざ考えるとなると浮かばんもんだなあ」

「どしたの兄貴様。また難しい顔して。おしっこ?」

「貴様には絶対相談してやらんからひっこんでろ豆腐シェイク脳め」

「よくわかんないけど何かすごく馬鹿にされた気がする」


 頬を膨らませていたイティスが、ふと何かに気付いた。


「あ、兄貴様! アレ、アレ! さっき操った木! 様子がヘンだよ!」

「なに!?」


 見ると、確かにカシワ(仮)かっこかりに異変が起こっていた。元の姿に戻ってしばらくは何ともなかったのに、急速に幹のひび割れが激しくなっている。今このときも、枯死に向かっているのだ。


「カ、カシワぁーッ!」


 俺は叫んでカシワ(仮)に駆け寄る。しかし次の瞬間、カシワ(仮)は真っ黒に変色し、そのまま土に還ってしまった。

 後に残ったのは、枯れかけた一枚の葉っぱのみ。

 お嬢とイティスが顔色を青くする。


「あ、兄貴様……これ、どういうこと?」

「俺のせいだ」


 俯き、奥歯を噛みしめる俺。


「おそらく、植物操作能力の副作用だ。干渉する力が強すぎて、こいつの身体が耐えられなかったんだろう。ちいっ。浮かれていた数分前の俺をぶん殴りたいぜ。何が格好良い名前をつけたい、だ」

「あの凄い力に名前を付けたかったの? じゃああたしが考えてあげるね。ウネウネウゴークとかどう? ――ぎゃぴっ!?」


 空気を読まない舎弟の顎に一撃かます俺。

 お嬢に怒られる前に、俺はカシワ(仮)が遺した葉をくわえた。今思いつくとむらいは、これしかない。


「見事な働きぶりだったぞカシワ。貴様の志と献身は忘れねえ。これがその証だ」


 葉っぱを食べる。散っていった舎弟の血で肌を染めるがごとく、体内に同化させる。

 ナマモノの葉特有の苦みを脳裏に刻み込み――おい結構ウマイなお前。酒のアテにできるぞ、じゃなくて。


「決めた。お前の献身を忘れないよう、この能力を『カシワブラッド』と名付けよう」

「んー。でもただの木だよねこれ――きゃん!?」


 懲りない小娘にもう一度仕置き。マジで懲りない奴だな貴様。

 鼻を鳴らしてイティスを見下ろす。


 ――そのときだった。


『セボトル 落葉高木 広く水地場に自生 自光性 葉に毒あり』


「な、なんじゃこりゃあ……頭の中にいきなり情報が……。これは、さっき喰ったカシワ(仮)のことか?」


 まさか、これも神獣としての能力?

 ありえる。戌モードで植物を操れるのなら、植物の鑑定能力が備わっていたとしても不思議じゃない。いやむしろラノベの鉄板である。鑑定能力。なぜ今まで気付かなかった。

 もしかしてこの鑑定能力、見ただけじゃダメで、さっきみたいに口にしなきゃ発動しないんじゃねえか? それなら納得。

 ――つうか、やっぱりカシワじゃなかったんだなカシワ(仮)。

 そして葉っぱは毒持ちかよ。どうすんだよ喰っちまったぞ。

 いや、今更吐き戻すのもヤクザの名折れ。一度血の契りを結んだ相手を見捨てるなんざ、黒羽の人間がすることじゃない。お嬢、俺は耐えてみせるぞ。見てろよカシワ。 


 こうして俺は植物操作+鑑定スキル『カシワブラッド』に目覚めたのだった。


 俺が大地に向かって誓っていると、つんつんと背中をつつかれた。

 邪魔すんな舎弟――と言おうとして思いとどまる。この匂いと気配はお嬢のものだ。

 お嬢は俺の隣に膝を突いて座ると、耳元に顔を近づけて囁いた。


「ヒスキさん、大丈夫? さっき様子がヘンだった」

「いえ、大したことじゃありませんよ。お嬢こそ、何かあったんですかい? 様子がヘンですぜ」

「あう。これは、その」


 申し訳なさそうにお嬢は言った。


「私の声で、オークやオークバイトが寄ってくるんでしょう? だから皆が危険な目に遭わないように、できるだけ声を出さない方がいいのかなって」

「お嬢。ご心配には及びません。この神獣ヒスキ、お嬢を守るために新たなスキルを覚醒させた次第。オークが1000人来ようと豚虫が1万匹襲ってこようと、必ずお嬢をお守りします。その上で、無傷で帰ってくることをお約束しましょう」

「桁が多すぎて『よかった』って言えない……」

「いいんですよ。目一杯喋って、笑って、怒ってくだせえ。それがお嬢の役目です。お嬢がお役目を果たして下さる限り、俺らは負けません」


 イッヌの姿では格好が付かないのは百も承知。

 だが、こういうのは心意気の問題だ。

 お嬢も、俺の思いはんで下さったようだ。不安そうだった表情が緩み、「よかった」とちょっと大きな声で言う。


「でも、危ないことはしないでね」

「そいつは無理な相談です。特に豚虫はこの世界から根絶しなければ。虫との戦いはタマがかかってますんで」

「オークバイトが出てきたときから思っていたんだけど。ヒスキさんはどうしてそこまで虫を嫌うの?」


 純粋に疑問、という顔をなさるお嬢。

 俺はそれこそ苦虫を噛みつぶしたような顔をした。


「生前、植物が好きだってお伝えしましたよね。要は庭いじりが趣味ってことなんですが。庭木や植え込みの花々の天敵なんですよ。虫は」

「へえ」

「あいつら、シマをツブしてもツブしても毎年毎年どっかから湧いて来やがる……! 奴らとは永遠の戦争状態、不倶戴天ふぐたいてん怨敵おんてきなんです。これまで何度、初詣で『害虫が地球上から根絶やしになりますように』と願ったことか……!」

「へ、へえ……?」

「俺が豚虫を激烈に嫌うのは、まあそういう因縁があるからですよ。ふっ、ふふふ!」


 奴らとの闘争を思い出し、血湧き肉躍る俺。

 そっとイティスが手を挙げた。


「あの、さ。もしさっきのオークバイトがあたしの変身だったら、どうなってたの?」

「は? ツブすに決まってんだろ。今、生きていることを天に感謝するんだな」


 きっぱりと言った。

 その後、俺は舎弟をビビり散らかした罪でお嬢からおすわりの刑を受けた。







◆13話あとがき◆


ラノベの定番、鑑定能力を手に入れたぞ!――というお話。

次の目的地には意外なモノが眠ってる?

それが何なのかは次のエピソードで。


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