第13話:自由への旅立ち

片っ端から撃ち落としたワイバーンの死体を収納魔術に詰め、昼前に街に戻ったところで、俺とユーニは自分のレベルを確認した。


「ユーニは8か。ゴブリンの群れとワイバーンの群れを虐殺してようやく1…いよいよ本格的に必要経験値が重くなってきたな」


一方の俺は16。迷宮に行く前が11だったので、単純な算数の結果として5レベル上がった計算になる。

レベル差が生じてなお、ユーニが1レベル上がる間に5レベルか…。

そしてこれは俺が早いわけではなく、ユーニが遅い、ということに起因する。


ユーニの姫騎士は単にレベルアップが遅いだけでなく、同じスキルを習得するのにもより高いレベルが要求されるが、どのくらいのレベルが必要だったか。


「姫騎士のマスターレベルっていくつだっけ」


本職のユーニに聞いてみると、ユーニは首をかしげながら絶望的なことをのたまった。


「30とかですかね…これまでのスキルの習得にかかったレベルがだいたい基本職の2倍くらいなので…」


「そんなに習得ペース重たいのか姫騎士!?」


基本職なら13レベルがマスターレベルってのがお約束だろうに。

上級職でも20くらいで魔法全部覚えるだろ。


最上級職だからか?

最上級職だからなのか!?


こうなると、もっと危険な魔物が多い街に拠点を移すことを考えたほうがいいかもしれない。


神のご加護があるうちに。


「魔物との戦いが激しい地域に住居を移しますか?」


ユーニは俺の心が読めるのかもしれない。


ともかく、意見が同じなら躊躇する理由もない。

冒険者協会に報告して、報酬の支払いを受けたら宿で荷物をまとめて移動手段を探そう。



依頼の報告やワイバーンの解体申請などを済ませた俺たちは、さっそく乗合馬車について冒険者協会の受付嬢に訊ねてみたが。


「乗合馬車、ですか?」


冒険者協会の受付嬢は、ハトが豆鉄砲を食らったような顔で俺を見た。


「はい。あ、もしかしてそういう文化はないですか?」


そもそも乗合馬車という文化自体がない可能性にも思い至ったが、受付嬢は首を横に振った。


「あるにはあるんですが…ひと月おきでして…」


頻度の問題があったか。


「最寄りの、魔物が強い地域に向かうものだと、いつですか?」


「2週間後ですね」


そいつは参ったな。とにかくユーニを育てたい今、そんなに待ちたくはない。


「街道沿いに徒歩で行くとしたら何日かかります?」


俺はとりあえず、歩きのほうが早い可能性も出てきてしまった以上確認しておきたいと思った。…のだが。


「ナチュラルにとんでもないこと言ってる自覚あります?」


受付嬢からは狂人を見るような目で見られてしまった。

そこまで危険なことなのだろうか。


「え、そんなに?」


ことの重大さを理解できていない俺に、受付嬢は噛んで含めるように言い聞かせてくる。


「魔物が強い地域の街に徒歩で向かうなら、当然強い魔物がうようよしている地帯を徒歩で踏破しますよね? 馬の速度で走れば野宿しなくていい距離でも、人の足では数日かかりますよね? そうなれば魔物がうようよしている危険地帯で野宿しなければならなくなりますよね? ね? 危険でしょう? ねっ? ねっ?」


どこか、懇願しているというか、分かってくれと祈っているような雰囲気で受付嬢が説得してきたが、俺にとって重要な事実はその中のただ一つ。


魔物がうようよしている、という事実一つだけ。


「つまり経験値稼ぎ放題ということか! ユーニ、さっそく旅の準備をしよう!」


テンション上がってきたぜ!


「…ユーニさん、調教師さんをパーティから追放したほうがいいんじゃないですか? 命がいくつあっても足りませんよ?」


なぜか、もはや話が通じないやつと見切りをつけられた感じで、受付嬢は俺ではなくユーニに話しかけはじめた。

俺の目の前で俺を追放しろとまで言い出すあたり、俺は相当頭がおかしいやつだと思われているに違いない。


「? 師匠と一緒にいられるなら命くらいいくつでも支払いますけど?」


さも当たり前のように首をかしげるユーニの返答に、受付嬢は頭を掻きむしった。


「愛が重い!?」


うん。それは俺も思った。



その日一日荷物を整理したりこれまで解体場に預けていた魔物の素材を預かったりと、旅に出る準備を進め、翌朝、迷宮の稼ぎが俺たちほどではなかった冒険者達から悪態をつかれながら、俺とユーニは意気揚々と街を出た。


最後に街門を振り返ると、門の上に掲げられている看板が目に入った。

そういえば街の名前なんて気にしたことがなかったな。


「サイーショの街」


ふざけているのか。


俺は看板を見ようなどと思った数秒前の自分を殴りたくなった。


が、そんな後悔は数秒で消し飛ばされた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


土煙をあげ、雄叫びとともに驀進してくる小柄な金髪の少女が目に入ったからだ。


「し、師匠、なんかすごい勢いで誰かが走ってきます!」


驚くユーニの言う、「誰か」の正体に、俺は一つだけ心当たりがあった。


「自由への逃走!」


俺はユーニを抱え、全力で走り出した。


「し、師匠、抱き上げてくれるのはうれしいけどもうちょっと雰囲気というかなんというか…!」


ユーニの抗議は無視して全力疾走あるのみ。

あんな奴と、これ以上関わり合いになってたまるか。


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