第12話:やってることはマッチポンプ

稼ぎ場の迷宮を数多の冒険者に譲った翌朝、冒険者ギルドに行くと、受付嬢のほうから話しかけてきた。


「あ、調教師さん。また新しい依頼ですよね? 実は昨日、お二人が迷宮に行っている間に一つ来ていまして…」


どうやら、冒険者が例の迷宮に出払っているせいで俺に頼らざるを得ない、ということらしい。


「どんな依頼ですか」


「例の草原で、ワイバーンの群れの目撃情報が入っていまして…」


俺は嫌な予感がした。


「…そいつら、ブルホーンが主食だったりします?」


「え、あ、はい…」


戸惑うように首肯する受付嬢に、俺は全てを悟った。


以前俺が狩ったブルホーンの群れ。

あれはワイバーンから逃げてきていたのだ。

それを俺が皆殺しにして当面の食料にした。

で、ブルホーンを追っていたワイバーンの群れが腹を減らしてあの草原にいる。


「うん、俺のせいだな。討伐してきます」


餌をなくしたワイバーンが人とか馬車を襲う前に皆殺しにするのは、俺の責任だろう。


「数は」


敵の数を確認すると、受付嬢は深刻な面持ちで答えた。


「30くらいとのことです」


ユーニの経験値としては少し物足りないか。


「…行ってくる間に、他の依頼も見繕っといてください」


「え、ちょっ…」


受付嬢から呼び止められたような気がするが、俺は気にせず冒険者協会を後にした。



「師匠、何かいい依頼はありました?」


昨日の一件を思い出すからと冒険者協会の外で待っていたユーニの質問に、俺はサムズアップを返した。


「ああ。草原でワイバーンの群れの討伐だ」


「ワイバーン…師匠といると毎日がドキドキワクワクの連続ですね…」


ユーニは引きつった笑顔で、必死にポジティブに言い換えているのがよくわかる、ある意味皮肉でしかないことを口にのぼらせた。


「ワイバーンって、そんなにやばいやつなのか?」


大半のゲームでは、ドラゴン系の中ではかなり弱い部類だと思っていたが。


「アースドラゴンベビーよりはまし、という程度です」


マジかぁ…。

あの高速バスくらいのサイズがある陸戦兵器みてえなオオトカゲが比較対象になる時点でもうやばい敵確定じゃねえか…。


「じゃあ、経験値も期待できるな」


それを30体も虐殺すれば、ユーニのレベルも上がるだろう。


「師匠のそういうところ、私は好きですよ」


なぜだろう。ものすごい皮肉を言われているような気がする。




草原につくと、すぐに空を飛ぶ緑色の何かが目に入った。

ブルホーンが水浴びしていた湖の周辺を飛び回っている。


連中は、ブルホーンが湖に潜って隠れたとでも思っているのだろうか。

まあ、なんでもいい。


街道に出て馬車を襲われる心配がないうちに狩る。

それだけだ。


「行くぞユーニ、小細工は無しだ!」


俺は湖に向かって走り出した。


「え、ちょっ、師匠!?」


驚くユーニの声を置き去りに湖のほとりまで駆け抜けると、さすがにワイバーンの群れはこちらを認識し…。


…口から吐く火球の絨毯爆撃をぶちかましてきた。


「ブレス吐けるタイプかよぉ!」


俺は思わず悲鳴を上げながら、火球の雨霰をかいくぐり、反撃の糸口を探った。


やってやれないこともなさそうだが、こうも絶え間なく爆撃されると、狙いをつける余裕がない。

楽をするなら、無差別範囲攻撃とか範囲即死で何とかするのが妥当なのだろうが。


「ソニックセイバー!」


ユーニが空に飛ばした風の刃が、1体のワイバーンに直撃した。

彼女の成長は素晴らしい。

レベルの進みが遅い分、自身の技量で補う努力を積み重ねている彼女の一撃は、正確無比にワイバーンの翼、その関節に吸い込まれ、飛行能力を奪って見せた。


当然、ユーニの位置が割れるという問題はあるが、それが実害になるのは10秒以上先の未来だ。


むしろこの数秒においては、ワイバーンの一糸乱れぬ連携と爆撃にほころびができたという事実のほうが、大きい。


「マルチロック! マジックアロー!」


俺は複数の敵をターゲットにして、基礎的な攻撃魔術を連射した。

これで5体の頭を打ち抜き、ユーニが落とした1体と合わせれば6体仕留めた計算になる。


進捗にしておおむね5分の1。


だが、最も攻撃の圧力がある、最初の5分の1を、これで抜けた。

次の数秒は、2割減の圧力に耐えればそれでいい。

いや、ユーニの位置が割れた以上、さらにその半分で済む。


そして、もとからユーニの一撃がありさえすれば切り抜けられる程度の圧でしかなかった以上、減った敵の攻撃をかいくぐり、反撃するのはそう難しいことではない。


「やられるなよユーニ!」


一声かけて、俺はワイバーンへの対空射撃を継続する。

ここからは、ユーニがやられる前にワイバーンを殲滅できるかどうかの勝負だ。


「片っ端から撃ち落としてやるぜぇ!」


自らを鼓舞する叫びとともに、俺は必死に攻撃魔術を撃ちまくった。

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