この責任は俺じゃない!

 山の麓に着いた頃には、彼はまるでアンケート番組から降り立ったかのような気分だった――あまりにも個人的で根拠のない質問が飛び交う番組だったのだ!


 本当に、直はわざと鈍感なのだろう。彼と詩織との関係が恋愛関係であるという因果は全くないのに。それにも関わらず、彼が何度その事実を確認し、友情の例を示しても、直は頑なに彼が何かしらの脅迫的変態だと言い張った……


 彼女はプロフェッショナルであるべきじゃなかったのか? 彼がクラブで初めて彼女に会ったとき、彼女はまさにそうだったのに! でも今や、彼女はただ彼を挑発することに執着する厄介者になっている! 本当に、本当に邪悪な魂だ……


 ようやく舗装された平らな道に足を踏み入れると、彼は長く疲れた溜息を吐きながら、カメラバッグのストラップを整えた。直の容赦なき非難の余韻、彼の後頭部を鋭い視線がナイフのように突き刺さる感覚が今も残っている。そして、霞の前で馬鹿にされた恥ずかしさも伴っていた。


 直は腕を頭上に伸ばし、うめき声を上げた。

「まあ、こんな活動のあとなら普段は霞ちゃんを家まで送ってあげるんだけど、今日は仕事があるの」


 薫は少し顔を上げた。

「君が? 誰が君を雇うんだ? マゾカフェか?」


「何よ?! それで君を部から追い出すんだからね!」直は彼を見上げ、愕然とした。


 薫はにやりと笑い、直が彼にした地獄のような仕打ちの後に、少なくとも少しは自分が彼女を刺激できたことに勝利感を覚えた。

「つまり、君の性格全体が、客対応には……攻撃的に向いていないってことさ」


「参考までに言っておくけど、私はウェイトレスとして働いてるのよ!」


 薫は無表情で見つめ返した。

「……君がウェイトレスだなんて、全く想像できないな。そもそも君は何をするんだ? 客を殴って、見下すとか?」


 彼女は息を飲んだ。

「は? それはどういう意味よ?! 私は自分の仕事がとても上手だって、十分わかってるのよ!! 写真撮影が得意なようにね!でも、それは関係ない! 要点は、俺は素晴らしいダイニング体験を提供しているってことだ! 君は自分の部のメンバーにもいじめられるほど好かれないやつだしな!」


「君のやってることを『いじめ』とは呼ばないわよ。」薫はバッグを整えながら小声で呟いた。

「君はただの邪悪な生き物だ」


 直は苛立ちながらうめき、霞は静かな面白さをもってそれを眺めていた。やがて、直は腕を組み、ため息混じりに言った。

「もう、いいわ。霞ちゃんを家まで送れないし、暗いから、木漏れ日、今回はあんたに任せる! せめて一度は役に立ちなさいよ」


 薫は瞬きをし、突然の責任の押し付けに戸惑った。

「待ってくれ、なんであんたは勝手に俺に『役割』を振る舞うんだ――」


「もしあんたが彼女に手を出したら、警察を呼ぶわよ。」直が遮る。声は厳しさを帯びていた。


 薫は驚きとともに口ごもった。

「一体、どこからそんな話が出てきたんだよ?! 」


 直は答えず、ただにやりと笑いながら霞の眼鏡をいじり、頬を軽くたたいた後、踵を返して立ち去った。

「じゃあね、また!」


 薫が何か言おうとする前に、直は既に行進するように去ってしまい、彼は霞とともにそこに立たされる。霞はただ、直の後ろ姿を淡い好奇心を込めて見つめるだけだった。彼女は誰の意見も聞かず、あっさりとその判断を薫に任せたのだ! 本当に、直は研究に値する一種の標本だ……


 彼はため息をついた。この夜がどうしてさらに手に負えなくなったのかと考えながら……横を見ると、霞の神経質ながらもどこか期待に満ちた視線を感じた。いや、夜に彼女を一人で家まで歩かせるわけにはいかない。ここは安全だと言っても、どんな男が「よし、あんたは家まで自力で行け、たとえ遠くても、バイバイ!」なんて言えるだろうか?


 いや、もちろんそんなことはできない。


「えっと……」霞は彼の隣で少し身をよじり、彼が彼女を見ると、いつも通りの淡い好奇心を込めた眼差しで彼を見上げていた。


 薫は短い息をつき、カメラバッグを整えながら首を傾げた。

「じゃあ……君を家まで送ることになるな…… ここから君の家は遠いのか?」


「…あ……えっと……そ、そう……」霞は恥ずかしげに目を逸らしながらぎこちなく笑った。

「…あんたは……いいけど…… 私は……えっと……迷惑になりたくないの、木漏れ日くん……」


 薫は鼻で短く息を吐き、首を振った。

「いや、俺が送るよ。夜に君を一人で歩かせるわけにはいかないだろ。せめて、少しはいい男に見せなきゃな、って」


 霞は軽い冗談に戸惑いながらも、彼を見上げ、そして控えめな、はかない笑みを浮かべた。それは、彼女の普段の内気さをほとんど忘れさせるほどの、静かで短い笑顔であり、頷きとともに。

「…ありがとう。」


 薫は肩をすくめ、再びカメラバッグを整えた。

「どういたしまして」


 二人はしばらくそこに佇み、遠くで電線のハム音と時折通り過ぎる車の音を聞きながら、ぎこちなくもどこか心地よい沈黙が二人の間に流れた。直の去り方は突然で混沌としていたし、彼女自身の存在もまた混沌としていたが、今や彼女がいなくなったことで、雰囲気は明らかに変わった――より落ち着き、控えめになった。


 しかしすぐに、ただそこに立っているだけでは霞を家まで送ることはできないと気づく。

「じゃあ……君が先導するのか? ここから家までの道、分かるのか?」


 霞は瞬きをし、問いを理解すると急いで頷いた。

「あ、そ、そう! あまり難しくはないはず……ただ……えっと、何を言おうとしてるのか……えっと……」


 薫は彼女が言葉を探す様子を見つめた。霞の手はバッグのストラップを軽く握り、下を向いている。彼は首を少し傾け、彼女が文章を完成させるかを待ったが、思考が途切れてしまったのが明らかになると、彼は軽く息を吐き、微笑みを浮かべた。


「無理に話さなくてもいいんだからね」


 霞の目がわずかに大きくなり、手がストラップ上で小さく動いた。会話のスキルが欠けていることが露呈してしまった! そして、短い躊躇の後、彼女は頷いた。

「あ……わかった」


 彼女は再び頷き、バッグを整えながら一歩踏み出した。その歩みは初めはためらいがちで、まるで彼を誤った方向に導いてしまわないかと心配しているかのようだ。薫はポケットに手を突っ込みながら彼女の横を歩き、涼しい夜の空気に身を委ねた。


 二人きりになった今、薫は彼女の存在を異様に意識する。それは不思議な感覚だ。直が一緒にいたときは、何かあれば自分が排除されるような気がしていたが、今は……まるで「脆弱」な気持ちのようだ。こんな場所でこんな時間に彼女と二人きりでいるということは、自分が本当に何者であるかをより正直に表しているように感じる。直と論争したり、自己弁護する必要もなく、ただ静かに歩くだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る