時間は意外と早く進む

 時間が経つのが遅く感じたこともあった。金曜日までが果てしなく長く感じることも。でも今は、誰かとどこかへ行くという約束があるだけで、その日が来るまでの時間が驚くほど短く感じる。


 これまで、学校が何かをする理由を与えてくれるからこそ、この日々が永遠に続けばいいと思っていた。でも今、その気持ちはますます強くなっている。部活に入って、富永さんや西村さん以外にも自分に話しかけてくれる人を2人見つけたのだから。


 その二人のことを考えていると、ちょうど教室のドアが開き、涼真と聡介が食べ物を手にして入ってきた。いつものように陽気な涼真は、プラスチック袋を薫の机の上にドサッと置いてニヤリと笑った。


「薫ちゃん~、ジュース買ってきたよ。」

 彼は袋の中から缶を取り出し、それを机の上で滑らせて渡した。


「ありがとう。」

 薫は滑ってきた缶を片手で受け止め、眉をひそめた。

「またコンビニ行ったのか?」


 涼真は手をひらひらさせながら否定した。

「いや、自販機と食堂だけだよ。コンビニ行ったのは聡介。」

 そう言って隣の席に落ち着く聡介を指差し、彼の食べ物を奪おうと手を伸ばした。


 聡介は無表情で涼真の手を払いのけた。

「自分のアンパン買えよ、寄生虫が。」


 彼らのいつものやり取りに、薫はクスリと笑った。

「聡介がコンビニに行くなんて珍しいな。それも俺たちに何も買ってこないで?本当に、お前は気が利く奴だと思ってたのに。」


「おい、それどういう意味だよ……まさかお前、涼真みたいになってきてるんじゃないだろうな、俺がこんなにしてやってるのに……」


「俺が涼真みたいになる?そんなわけないだろ。」


 涼真は劇的に胸を押さえて、致命傷を受けたかのように息を呑んだ。

「傷つくよ、薫ちゃん。今まで一緒に過ごしてきた時間、俺が二人の間で築いた素晴らしい噂話、それなのにこんな仕打ちだなんて……ひどい!」


 聡介は鼻で笑った。

「‘素晴らしい’っていうのは、人から変な目で見られるようにすることと、昼飯時にたかることを指すのかよ。お前、歩く負債だな。あと薫に飛びつくのも忘れるなよ……」


「咳払い!俺たちの観察者に描くネタを提供してやらなきゃならないだろ?それに、俺はちゃんと薫ちゃんにジュース買って返してるんだぞ。」

 涼真はそう言って、久しぶりに自分の食べ物をかじった。


「その‘噂’とやらには感謝しておくよ、涼真。」


「感謝すべきだろ!俺はお前の評判をゼロから築き上げてるんだから。」

 涼真は笑みを浮かべながら胸を張った。

「人が薫を思い浮かべるとき、‘変わり者の親友を持つクールな奴’って考えるんだぜ。」


「普通に思われる方がいいんだけどな、ありがとう。」

 薫はそう言って、涼真が持ってきたジュースの缶をプシュッと開けた。

「ま、とにかくありがとう。完全に役立たずってわけじゃないみたいだな。まだ希望はあるかもな。」


「お前、俺が希望のない奴みたいな言い方するなよ!」

 涼真は自分を指差して大げさに叫んだ。

「俺は既にヒーローみたいなもんだろ!お前の退屈で孤独な学校生活を救ってやってるんだからな。俺がいなかったら二人ともどうしてたんだよ?」


「もっと静かな昼食になってただろうな……」

 聡介がぼそっと言うと、肩に軽く一発涼真の拳が飛んだ。


 薫はジュースを一口飲みながら、薄く笑みを浮かべた。正直言えば、この二人のおかげで時間がゆっくり過ぎることも、退屈に感じることもなくなった。でも、どうして自分の机に涼真を近づけたのかと疑問に思う部分もあった。


 涼真が劇的な仕草でチップスの袋を振り回しながら嘆いている間、薫の視線はカメラに移った。手を伸ばして電源を入れようとしたが、作動しないことに気づいた。眉をひそめながら裏返し、バッテリー室を開けると、中身は空っぽだった。カバンを急いで探しても、バッテリーは見当たらない……


 薫はジュースを机に置いてため息をつき、立ち上がった。

「ちょっと行ってくる。忘れ物した。」


 涼真は口いっぱいにチップスを頬張りながら手でジェスチャーをした。

「忘れ物って何だよ?詩織の番号か?心配すんな、俺が取ってきてやる~。」


「おう、じゃあそのついでにもう一発蹴られてこいよな。」

 薫は涼真を軽く手で振り払うような仕草をして教室を出た。カメラを手にぶら下げながら。


 廊下は予想以上に静かだった。昼休みの喧騒が遠く感じられる中、ロッカーへ向かって歩きながら、彼の頭はカメラのことに戻った――特に、どうしてバッテリーを忘れたのか?普段はカメラバッグにちゃんと入れてあるはずなのに。自分らしくない……いや、実際には完全に自分らしいけど、それを認めるつもりはない。


 金曜日が思った以上に心にのしかかっているのかもしれない。十代の男の子の目線で見れば、同年代の女の子――もしかしたら二人――と人目のない場所に行くなんて。友達を家に呼ぶことさえしない自分にとって、それは大きすぎる話だ。たぶん、直は自分を崖から突き落とすつもりなんだろう……

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