小笠原さんと図書館へ!

 彼は学校の階段を下りながら曲がり角を回り、涼真と聡介がもたらした賑やかな雰囲気と、自分の机の平穏が破られたことを思い出していた。ついでに、バッテリーをどこかに置き忘れた自分自身を責めていた。


 カメラの電源を入れるために必要不可欠なものだというのに、なぜいつものカメラバッグの小さなポケット以外の場所に置いたのか、全く見当がつかない。


 とにかく、ロッカーの中に置き忘れたことを祈るしかない。そうでなければ、バッテリーも予備もないまま過ごす羽目になる。


 学校の入り口の手前にあるロッカールームに入ると、何列も並ぶ同じようなロッカーの中から自分のものを見つけた。ロックをいじり、ドアを開けると、中の雑然とした物を漁り始めた。


 教科書、古いプリント、そして……棚の一つに、置き去りにされていたバッテリーがあった。おそらく朝に荷物を整理していた時、無造作にそこに置いてしまったのだろう。


「見つけた……」とつぶやきながらバッテリーをポケットに入れ、安堵のため息をついてロッカーのドアを閉め、元来た道を戻ろうと振り向いた。


 その時、ロッカールームの奥で見覚えのある姿が目に入った。彼女の眼鏡に小さな光の反射がきらめくのを見た時、特有の感覚が胸に訪れた。霞が自分のロッカー近くに立ち、中の物を整理しているようだった。また、彼女がなぜこんなに気になるのか自問してしまう。


 ビーチで見た時と同じ雰囲気。だが、そのことを思い出すと少し緊張するものの、不快ではなかった。


 何をするか一瞬考えた後、友達のもとに戻るのではなく、彼女に話しかけることにした。今度こそちゃんと話せるかもしれない……慌てたり、何も言えなかったりせずに。何しろ今は同じ部活の仲間だ。それだけでも十分な理由になるだろう……


「小笠原さん。」軽い感じで声をかけたつもりだが、自分でも少し不安げな響きになってしまったのがわかった。これで普通の挨拶になるだろうか?


 霞は名前を呼ばれて手を止め、ロッカーの中の本を動かしていた手が止まった。その顔には学園祭の夜と同じ驚いた表情が浮かんでいた。「こ…木漏れ日くん?」


 彼は小さく笑みを浮かべながら彼女のそばで立ち止まった。「うん。なんとなく挨拶しようかなって思ってさ。だって同じ部活の仲間だし……っていうか、まぁそんな感じで。」


 彼女が静かに考え込んでいるような様子からすると、どうやら部活の時間以外で彼が話しかけてくるとは思っていなかったようだ。それとも直がいないせいで自分が怖く見えたのか?正直、彼女のその表情が何を意味するのか全く理解できない。


「えっと……」彼は頭を掻きながらカメラを持ち上げた。「カメラのバッテリーを取りに来たんだけど……まぁ、それは今はどうでもいいや。図書館に行って、このカメラの使い方をちゃんと勉強しようと思ってさ。白原さんが金曜日に一緒に神社に行きたいって言ってたし、それまでにちゃんと使えるようにしておいた方がいいかなって思って……一緒にどう?」


 霞は瞬きをし、ロッカーの扉にそっと触れながら静かに閉めた。彼女の戸惑いは明らかで、慎重に返事を選んでいるようだった。あるいは、彼の言葉がよく理解できていないような表情にも見えた。「えっと……私?私が……手伝うの?今……?」


「まぁ…もし迷惑じゃなければ……」彼の目は床を探るようにさまよい、何か理由を見つけようとしているようだった。「何か勘違いしてたかも……あ、急にこんなこと言ってごめん、小笠原さん……」


 彼女はすぐに首を振り、両手を振って、自分が悪いかのように謝意を示した。彼女の眼鏡が鼻先までずれ落ちたまま、彼を見上げた。「そ、そんなことないよ……ちょっと驚いただけで……別に嫌とかそういうわけじゃないから……」


 薫はその言葉に少し安心しつつも、自分がまた失敗したのではないかという思いが心の奥でざわついた。「君が写真を撮るのが上手そうだし、僕一人でこのカメラを覚えようとするより、一緒にやった方がいいと思ったんだ。」彼はカメラを手に取り、小さな笑みを浮かべながら言った。


「わ、私……全然上手じゃないし……」彼女は小声でつぶやき、視線を一瞬そらした。「でも……うん……白原さんが一緒にやるって言ってたし……だから、手伝うよ……」


「そう?よかった。忙しいかもって心配してたんだけど……」彼は手の中のカメラを軽く持ち替え、それを謎の箱でも見るかのような目で見つめた。「実はね、この設定をいじくり回してみてるんだけど、全然分かんなくてさ……。まあ、知らないままでもいいかなって思ってたけど、白原さんがあのミッションをくれたし……最初のクラブ活動で失敗はしたくないからさ。」


 霞は眼鏡を直しながら彼女の鞄に目を向け、それを手に取った。「あの……大丈夫だよ……そういうカメラは使ったことないけど……でも…でも、手伝いたい……」その言葉を口にするのがなんだか大変そうだった。


 正直に言うと、何を言えばいいのか分からなかったからだ……励ました方がいいのか?彼は何かを期待しているのか?それとも、こういう場面ではただ頷けばいいのか?別に彼のことが嫌いとかじゃない、多分、でも彼と話す経験もほとんどないし……


 彼は軽く頷き、その表情は少し和らいだ。「ありがとう、小笠原さん。助かるよ。それじゃ…図書館に行こうか?」


 霞は一瞬ためらったが、鞄のストラップをぎゅっと握り直し、小さく頷いた。「は、はい……」


 昼休みの時間ということもあり、更衣室の外の廊下はいつも通りにぎやかだった。いつも彼には理解できない、だって普通この時間はみんな食べているはずで、こんな騒がしくする場面じゃないはずだ。それでも、涼真みたいな人間がいる以上、納得するしかないのかもしれない。ただ、今は霞と一緒に歩いているせいか、その賑やかさが妙に重たく感じられた。


 この感覚に名前を付けるなら何だろう?見られている感じ?いや、それも違う……。緊張?いや、そうでもない……ただ、目的もなく歩いているのではなく、何かしらの目的があるように感じるからだろうか?


 何にせよ、隣で歩くこの少女と彼女の眼鏡が、彼にとって負担にならないことを願うばかりだ。その姿は、あの日見た彼女とあまり変わらない……


「ねえ……」周りの喧騒を少し遮るように、小声で彼女に問いかけた。「クラブに入って一週間目で山登りすることになるなんて思わなかったよ……」


 霞は相変わらず少し緊張した様子で、どう答えるべきか考えているようだったが、眼鏡越しに彼をちらりと見た。「そ、そうなの……?えっと…白原さんは、ずっとあそこの写真を撮りたかったんだと思う……それに、こもれびくんは……良いカメラ持ってるし……」


 薫は小さく笑い、頭の後ろをかいた。「まあね、僕は白原さんの高画質写真のためのチケットってわけか……」


 この小さな港町を見下ろす山の上にある神社……いろんな時代の小さな建物が並ぶこの町を見下ろす景色……うん、それなら高品質なカメラが必要なのも納得できる。でも、山の端にあるってことは、そこに行くのが大変なんじゃないのか?


「ねえ、小笠原さん……あそこまでの道のりって長いよね?山道を登るのって大丈夫?」


 霞は一瞬足を止めたが、すぐに歩調を整え、鞄のストラップをさらに強く握った。「わ、私は…よく歩き回ってるし……多分大丈夫だと思う……」


 彼は軽く頷いた。それもそうだ……何せ彼は、あの送電所の近くで彼女を見かけたことがある。それなら、隣の山を歩くくらいは難しくないはずだ。ただ……やっぱり気にはなる、彼女がついて来るのは、直が自分の写真の腕を信用していないからなのか?


 それとも、自分が考えすぎているだけか……霞は自分の限界を分かっているような子だし、できると言うのならきっとできるのだろう。それでも、こんな時、頭の中で騒がしい涼真のような人間がいてくれた方がマシかもしれない、と思うのだ。

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