第2話 炎魔法の実力

 次の街に着くと、幸運なことに魔女試練が行われていました。

 魔女試練とは、魔女が試練を受ける人の魔法を見て、アドバイスを送ったりするイベントのことです。

 やる時期は本当に魔女の気まぐれで、そこに住んでいたりしなければ、ほとんど参加できません。

 定期的に開催されるものもありますが、私は旅人なので、やっぱり参加できるのは稀です。

 そんなわけで滅多に参加できないイベントですし、私も参加してみましょう。


 受付を済ませ、試練の会場に向かいます。

 この魔女試練は受ける人同士で戦って、それを魔女が見るといった形式の試練の様です。

 これなら一度に二人進めることができるので、かなり効率がいいです。

 きっと、この魔女試練を開いた魔女は効率重視なのでしょう。


 しばらく歩くと試験会場に着きました。

 なんで受付と会場がこんなに離れてるんですかね?

 

 中に入ると、結構な数の魔法使いが今試練を受けている人の戦闘を割と真剣な表情で見ています。

 なんか、真面目そうな人が多いんですけど…

 魔女試練って、そんなに本気でやるものでしたっけ?

 最後に参加したのがもう1年以上前な上、その地域からかなり離れた街の魔女試練なので、何か違いでもあるのでしょうか?

 

 気になりますが、私は人見知りでコミュ障なので、話しかけんなオーラを放ってる人どころか、普通の人にも話しかけられません。

 何故ここまで旅ができているのでしょう?

 己のコミュ障に僅かながら嫌悪感を抱きますが、私は自分が大好きなのですぐにポジティブな思考へと移行されます。

 そう、私は一人が好きなだけなのです。

 決して、孤独という訳ではありません。

 ないったらないです。


 しばらく自己肯定感と自己嫌悪感を戦わせていると、私の番が来ました。


 「よろしくお願いします。」


 コロシアムのような空間に入ると、すでに戦う相手は待機していました。

 僅かに漏れ出る魔力から、得意魔法は水だろうと予想が付きます。

 私は炎魔法が主体なので、相性は悪いとされていますね。


 まぁ、私には関係ありませんが。


 特に開幕の合図も無いようなので、私は動作で相手に伝えます。

 『お先にどうぞ』と。

 今回の相手は別に悪人でも何でもないので、先手必勝最強戦法は使いません。

 相手は魔法の高みを目指す同志なわけですし、魔法の実力で勝負するというのが礼儀でしょう。


 私の意図をくみ取った相手は、即座に魔法を発動しました。

 水魔法です。

 それも、かなり強力な「上級魔法」ですね。

 正直、上級魔法相手にこれをやったことはないので若干不安ですが…

 まぁ、どうにかなるでしょう。


 私はぐぐぐぐぐっーと手に力を込め、その魔法を放ちます。


 『メラ』


 向かってくるのは海の大波のような勢いを持つ大量の水。

 それに私の放った炎が当たった瞬間、ジュワーッと、中々に聞き心地の良い音がコロシアム中に響き、それと同時に大量の水蒸気が視界を塞ぎました。


 「なっ・・・!?」


 これには相手どころか、上から私達の魔法を見ていた魔女ですらも驚きを隠せない様子です。

 まぁ無理もないでしょう。

 私も驚いています。

 なんせ、あんだけあった大量の水が私の炎によって全てのですから。

 

 驚愕した相手が動くのを待つこと数秒、自分が大きな隙を晒していることに気付いた相手は、すぐにまた構え、魔法を放ちます。

 今度は中級の風魔法ですね。

 上級魔法を扱えるほどの水魔法使いなのに、風魔法もかなりの実力だと考えられます。


 ですが、それも私には通用しません。


 親指、人差し指、中指を立て、所謂銃のような形にします。そして、ぐぐぐっと力を込め、魔法を放ちました。


 『メラ』


 指先から放たれた炎は、先程の広がる炎と違い、細く、鋭く、強靭な風の中を一途に進み、風の先、つまり相手の方にまで届きました。

 別に傷つけることが目的じゃないので、当たる直前で炎を消します。


 先程の手の形は「掌印式」といい、かなーり東の国で使われている、魔法の「型」を調節する技です。

 旅の途中で立ち寄った時に教えていただきました。

 今回は、炎が風に負けないよう、炎を細く収束させて放っています。


 「そこまで!」


 その後も何度か魔法をぶつけ合い、魔女のストップが入るまで戦いました。

 中々楽しかったです。


 

 コロシアムを後にすると、先程戦った相手が走ってこちらに向かってきていました。

 なんでしょう?


 「あんた、半端ねーな!マジかっけぇ!」


 彼女は私の肩に手を回し、そう言ってきました。

 彼女が女性じゃなかったら殴り飛ばしていますね。


 「えっと…どうも?」


 人見知りなので、知らない人に褒められると反応に困ってしまいます。


 「やばかった!あの、あれ!あたしの水魔法をジュワーッって!」


 最初の奴でしょうか・・・?

 確かに他の人には真似できないやばい事だという自覚はありますが。


 「普通に尊敬した!あたしも自分の魔法に自信があったのにさぁ!手も足も出ない何て・・・」


 さっきまで元気そうだったのに、唐突にしょぼんと、弱弱しい感じになってしまいました。


 「えっと、その、貴方も十分凄い魔法使いだと思いますよ?水の上級魔法を扱いながら、別の属性も中級以上の実力を持ってる人なんて中々いません。」


 自信を奪った張本人ではあるのですが、自分を否定させるのは違うと感じたので、頑張って褒めます。

 事実ですしね。

 少なくとも、私が今までに出会った人の中でそれができる人は両手でギリギリ数えられない程度しかいません。


 「・・・その通り!あたしは凄い!」


 「びっくりしました。」


 さっきまでしょぼくれていたのに、唐突に元気になりました。

 正直滅茶滅茶びっくりしました。


 「まぁとにかく!あんたが凄くてかっけぇって思ったから言いに来ただけ!次会った時は必ず勝つから!」


 そう言い残して、彼女は去ってしまいました。

 今から魔女にアドバイスをいただくので、すぐにまた会うと思うのですが・・・


 とにかく、なんか、すっごく嵐みたいな人でしたね。


 

 ちなみに。

 やっぱり魔女のところに行くと彼女がいたのですが、魔女の雰囲気が凄く怖かったので、サッと入ってサッとアドバイスをいただいてサッと去りました。

 きっと、会場の人たちが真剣な雰囲気だったのは、あの魔女がそういう雰囲気を醸し出していたからなのでしょう。


 後、さっきの彼女の名前はアズア•ミスカティアというそうです。

 私も、次に会うことがあればまた戦いたいですね。

 

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