第83話

「じゃあな」



「うん。……志郎」



「あ?」



「……ご飯、ありがと」




志郎の形の良い瞳が見開かれる。




「……何?」



「いや、素直だな、と」



「……」




それは……。



思い浮かべそうになる人を首を横に振ることで追い出す。




「まぁいいわ。ほら」




志郎はそう言うと財布から三万円を出し、差し出してくる。




「志郎」



「とっとけ。どうせあの男にほとんど取られてんだろうが」



「……」




それは仕方のないことだ。


そしてあたしが望んでいること。



少しでも早く、あの男から解放されるために。



だから




「それで小さなヒーターでも買え。この部屋は寒くて仕方ねぇ」




ボロいアパートだからね。


でも



「貰えな……んごっ!?」



「また来る」



「もっごごごごっっ!……んっ志郎!」




毎回のやり取り。



あたしが受け取らないとわかってる志郎は、あたしの口を無理やり抉じ開け、その中にお金を突っ込んで出ていった。



……あの野郎。




……はぁ。



あたしはお金を握りしめると、"あの男"に見つからない場所。



天井裏へと隠す。



まぁ、あの男もあたしがお金を隠してるなんて思ってもいないだろう。



このお金は志郎の物、使うことも、ましてやあの男にやるなんてこともあってはならない。



いつか返すのだ。




お菓子の入っていた缶を開けると




「結構貯まったな」




どうやって返すか……。



そんなことを考えながら天井の板を元に戻した。




「さ、仕事だ」

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