第82話

「ごめんね……。ごめんね、桜ちゃん……」




どうして謝るの、お母さん?



あたしは大丈夫だよ。


だから謝らないで。



新しい服が買えなくても、ご飯を食べられなくても、お母さんが居れば……。




「お母さん、あたしが大人になったら幸せにしてあげるからね。待っ」



「ごめんね……。ごめんね……」




お母さん。




「おいっっ!!」




っっ!!



バッ!!



飛び起きる。




……??




「はぁ……。はぁ……、はぁーーーー……」





……夢か。



久しぶりに聞いた、忌々しい声。




「また悪夢か?」



「…………」





ああ、そうか。


コイツが泊まったんだった。



しかし、片手にフライパン持って、何やってんの?コイツ。



そこで気付く。



部屋に満ちる味噌汁の匂いに。



これが悪夢の原因か。



ガチガチに強張っていた体の力を抜く。




「お前また食べてねぇだろ。冷蔵庫何も入ってなかったぞ」



「勝手に開けるな」




……それに何も入ってないことはない。



水とか……水とか‥水。




「だから抱き心地が悪いんだよ。食え……って蒲団畳んでテーブル出せ」



「……面倒」



「やかましい。早くしろ」




渋々蒲団を畳んで、折り畳み式のテーブルを出す。




「いい加減、人を抱き枕にするの止めてくれない?」




テーブルを拭きながら言うと




「仕方ねぇだろ。深く眠れるのはお前の隣だけなんだからよ」




志郎はそう言うと、味噌汁やらご飯やら目玉焼きの乗ったお皿を運んできてテーブルに並べていく。




「なんでだろうな」



「俺が知りてぇよ」




そらそうだ。



わざわざ骨だけの女を抱き枕にしたくはないだろう。



モテるのだから。



だがこの男、女を抱いて寝てもそれは一時で寝れないのだという。



それがあたしだと眠れるのらしく、限界がきたら、うちに来る。




「食べようぜ」



「……こんなことしなくていいよ」




あたしに食べさせるのなんてお金の無駄




「うるせぇ。俺が腹減ってんだよ」




不機嫌にそう言って、さっさと食べ始める志郎。



だったら一人前だけ作ればいいのに。



いつもきちんと二人前作られているのだ。




「……ふぅ」





食べないなんて、料理を無駄にすることは出来ない。



一回食べないでいたら、コイツ捨てようとしたし。



あたしは志郎の前に座り




「いただきます」




手を合わせ、箸を取った。




「おう」

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