第5話 石の価値

夜を告げる鳥の鳴き声

ほんのり香る木の匂い

ひんやりとした空気

先ほどとは違う感覚が辺りを支配している

恐る恐る目を開けるとそこはどこかもわからない森の中だった


「ここは……」


慌ててバックからランタンに火を灯して辺りを見渡すがそこに広がるのは木々だけでなにもない、道らしきものを探しても何も見つからない。

混乱する自分を一生懸命に抑えながら試験管に言われたコンパスを取り出し針の指す方向を見つめる。


「とにかくこっちに進むしかない」


この状況を知ってか知らずかプクボンがケースから出てきて僕の周りをフヨフヨ漂い始めた。


「だいじょうぶ、一人じゃないんだ……行こうプクボン」


バックの中から鉈を出しコンパスが指す道なき道を歩き出した、

草を刈る青臭い匂いがする、はたしてこの先に何があるかもわからない状況で歩く怖さで足が竦みそうになるがぐっと堪えて先を進む……


ブーン!


光は虫を惑わす、暗い闇の中で光を灯せば当然 虫が来ることは予想できていが

現れた虫は大きさが予想とは違った、それは人の体位の大きさをした黒い胴体に似つかわしくない巨大な4枚の巨大な透明な羽を広げると空に輝く月をすっぽりと隠すほどだった。


「闇獣……」


人里から離れた奥地をテリトリーとして、人を恐れず襲ってくるモノの総称を闇獣と言いその生体は良くわかっていない、だがその素材は武器や上位種の獣の餌などに使う事がある為、戦闘職が刈ったりすることは稀にあるらしいがリスクが高い為そんなことをする人は高レベルの人位に限られる、またこういう場所をなんらかの理由で非戦闘職が通る場合は護衛を付けるのが普通だがココにはそんな人はいない……残された手は逃げるか自分で倒すしかないが僕に選択の余地はない、勝てるわけない…逃げるんだ!


闇の中全力で走り抜けた、仄かな明かりを頼りに闇雲に…しかし、 虫はどこまでもついてくる、アイツを超えるスピードが無い以上 光を消すという根本的なことを解決せずに逃げた所で結果は同じ、本題から目をそらして考えたところで解決できたことなんてわかっているが、ここで灯りを消したら何も見えず運が悪ければ足をとられて転んだり、

崖に気づかずそのまま落ちてしまうかもしれない……そんな焦りと不安で混乱してるうちに諦めにも似た決意が生まれた。

覚悟を決めて鉈を手に降りかえる、虫は光を目指して直進してくるだけそのまま叩けば…

灯りを少し先の岩場に置き素早く身構える、虫は予想通り明かりを目指して突進し岩場の灯りに突っ込む!

ズドン!という地響きが辺りに響く、虫は岩に当たった衝撃でその場で痙攣している。


「くらええええ!!」


そのまま羽の付け根へ鉈を振りぬくが堅い!だけどここで羽を折らないと……

この一撃には自分の命が掛かっている、自分の手がひきちぎれても良いこの一撃を通さないと!

腕が悲鳴を上げて、皮が擦り切れる感じがしたが関係ない持てる力を全て注いだ。

すると今まであった堅い感触が消えて一枚の羽根が宙を舞った。


「やった!」


羽さえ斬ればこいつはもう飛ぶことが出来ない!逃げられる。

切り取った羽を手に取り一目散に落ちている灯りを取り走り出した。

バタバタ地面をのた打ち回る音が響く中出来るだけ遠くにと思いながら

一生懸命走る、とりあえず崖でなければどこだって良い遠くにただ遠くに!

それからどれくらい走ったかわからないが疲れからか足が縺れて派手に転んでしまった。


「イタタ……あ!ランプ」


一瞬にして目の前が漆黒の闇へと変わる、

手にしていたランプが壊れてしまったからだ……

下手に動くわけにも行かず、とりあえず少しでも闇に目がなれるまでその場でジッとしているとなんとか目に前になにがあるか位までは認識できるようになってきたので休めるとこがないか辺りを見回すと切り株のようなモノがあったのでとりあえずそこに座り休むことにした。

どこかに朝まで身を隠せるようなところないか不安でしょうがない、そんな僕を心配してかプクボンが周りをフヨフヨ漂っている。


ぐ~~~


人間どんなときでも腹は減るもので、危機が一応去って安心したせいか

お腹の虫が泣き出した。

バックに確か非常食用のカタパンがあったはずだ、

カタパンは冒険者の非常食でパンの水分を抜き圧縮したかなり日持ちのするパンなのだが

堅すぎる為、サイコロ状のパンを飴のように舐めながら食べるものだ。


「ほんのり甘いな」


その優しい味に浸っているとプクボンが顔の周りをグルグルと回っている


「お前もお腹空いたのか?」


そういうとプクボンは先ほど切り取った羽にとまりこちらを見ている


「お前それを食べたいのか?」


どことなく頷いたようにみえたので、本当は売ってお金にしようと考えていたがどうせ生きて帰れるかわからないんだ、この子に贅沢させてあげようと思い「食べて良いよ」というとまるで芋虫が葉っぱを食べるように羽をむしゃむしゃと食べ始めた。

すると若干プクボンから淡く発光し始め食べ終わる頃にはほんのり体が大きくなったように見えた。


「おいしかったか?」


と喋ることもない相方に声を掛けると……


アルジ アリガト ヒカリイル?


「え?」


襲われた時に聞いたような幻聴なのかわかならいくらいのか細い声。


「プクボンお前なのか?」


プクボンに問いかけるがそれ以降しゃべってはくれなかったが、光が欲しい!

それが幻かどうかわからないがその声に答える。


「光が欲しい」


するとプクボンが仄かに光出した、それは決して強くはないが温かみのあるまるでろうそくのようなそんな明かりだった。


「プクボンありがとう」


しかし、先ほどのように声は返ってこなかった。

なぜならプクボンを見るとまるで体から振り絞るように一生懸命に光をだしており、

とても辛そうだった。

このままでは不味いと思い光が照らす森を見まわし安全な所がないか探すと、

木々の中でひときわ大きな木があり、その根元が空洞になっているのが見えたので

中に何もいないことを願いながら急ぎそこに向かうと幸いなことにそこに先客は居ないようだった。


「プクボンもう大丈夫だよ、光らなくても」


するとろうそくの火が消えるようにフッと明かりが消え、プクボンは眠ってしまった。

僕ももう疲れた……この状況下だから目を開けたら天国にいるのかもしれないが眠気が……


ビービービー


 眠りへの誘いを打ち壊す振動がポケットから発せられた、その正体に心当たりはなく恐る恐る探るとそこにはカードのようなものが赤く点滅していた。

 

「これは昼に襲われた時に戦利品だって貰ったモノだよな」


使い方もわからず触っていると、


「どうやら繋がったようね」


「え?」


「その声は……」


「あなたの馬車に乗ってた者よ」


「じゃ、君も」


「ええ、どこかわからない森の中よ」


「これは一体なんの!?森の中に急に落とされて殺されそうになって」


「落ち着きなさい、これは試験という名のあいつらのゲームよ」


「ゲーム?」


「ええ、たぶんあいつらはどこからか定期的に私たちの様子を獣師を使って見張ってるはずよ」


「それは僕たちの安全確保……」


「馬鹿ね、そんなわけ無いでしょ賭けよ」


「賭け?」


「戻ってこれるかこれないかを賭けて遊んでいるって聞いたわ」


「そんな……」


「はぁ~これが現実よ、もうそろそろ残量が切れるから切るわよ」


「ちょっちょと」


「良い?あなたはもうそういう状況に置かれてるの、悔しかったら生き残りなさい」


そう言って通信は切れてしまった……そして決意を新たにした。


どこかで誰かが助けてくれるんじゃないかと期待していた、

でも今までだってそうだった自分を助けてくれるのは自分だったんだ。

それに、人の生死を見てゲームって……

今まで罵られようとつらくても我慢できた命まで取られるわけじゃないと思っていた、

でも、今僕は現実に死と隣り合わせにいる……そして誰も護ってくれない。

それを見て笑っている奴らがいる……

今までは呑み込めてきた怒りや悲しみが今回ばかりは溢れ漏れてくる、

でも経験上わかっているここで泣こうが喚こうが何も変わらないことを……

ならばこの怒りで自分を支えよう……そしてあいつらを一発ぶん殴る。

そう心に決めて夜の明けるのを待った。


熟睡するわけにはいかずうつらうつらしていると穴の中に薄っすらと光が差し込んできた、

朦朧とする意識の中でいつのまにか横に誰かが座っている感じがして

横を向くと誰かはわからないが、あったことがあるようなそこにいることに恐怖もなければ嬉しさもない、ただそこにいることに不思議な感じがしない存在があった。


「君は?」


「私はわたしだよ?」


「なんでココに?」


「なんでだろうね?ここにいるよ」


「えっと……」


言葉に詰まっていると


「君はだれ?」


「僕はルージュ」


「ルージュ?綺麗な響きだね」


「でも、僕は綺麗でも何でもないみんなからはストーンなんて呼ばれてる」


「ストーン?石なの」


「価値がない弱い存在だから」


「石は弱いの?価値が無いの?」


「剣や魔法のような敵を倒す術もない、どこにでもある」


「剣はいつか朽ち、魔法は一瞬しか存在しないけど、石は砕けたりするけどソレ等よりも長く存在し続ける」


「それは……」


「君が石だと呼ばれているなら石の強さを知れるように頼んでおいてあげる」


「え?」


「また、会いましょう あなたの命はあなたのモノよ」


あれは夢だったのかわからないまま夢と現実の間にいるような感じでぼ~としてるところに、ポツンと朝露の雫が頬を撫でて目が覚めた。

あれが夢だったのか自分のさみしさが作った幻だったのかわからないがとても優しい声だった、それは今までに感じたことない、憐れみと違う優しい声だった。

 話の内容は夢ように徐々に薄れているようで朧げにしか思い出せないがその声に触れられたことでとても穏やかで冷静になれた気がした。


「ありがとうございました」


身支度を整えて気に深くお辞儀すると木漏れ日が僕を撫でるように降り注いだ、

昨日の恐怖がまるで悪夢だったかのように薄れて不思議と元気が出てくるような気がするそんな朝だ。


「僕の命……プクボン行こう、そして生き抜こう」

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山小屋のルージュ~最果てからはじめる英雄譚~ DAI! @ououhu

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