5  かみさまのおくりもの

 キワ子の10才のたんじょう日のおくりものは寄付するという案に、神さまは、つい本音をもらした。

『え……。それは、もらっても困るんじゃないかな』


「もらって困るものが、神さまのおくりものですか」

 キワ子は、まゆをしかめた。


『いや、生かすも殺すも、もらった者次第っていいますか』

 だんだん、神さまは言葉使いが子供向けでなくなっていった。

きょくろん極論言うなら、生命自体が、そんなものですから』


キワ子は考えた。

「じゃあ、神さまが、わたしにあげたいってほうの、つづらをください。おくりものは、おくる人の気持ちが大事って、おかあさんが言ってたから、神さまが選んでください」


『そもそもの、このイベントの趣旨、替えて来たぁ』

 神さまは半ベソをかいた。世襲制の仕事を継ぐんじゃなかったと思った。そもそも自分は、この仕事に向いていないんじゃないか。10歳の女子に言い負かされているではないか。

(そもそも、やりたいことがあったはずなんだ、自分には)


『あのー』

 キワ子が来た方向から声がした。

『あんまり時間がかかるから、ばばさまに言われて見に来ました』

 アメリカン秋田あきたが二本足歩行で現れた。

『途中で、女子をひとり回収していたから、来るのが遅れたよ』

 どうやら、一ノ瀬いちのせアンズを保護したらしい。


『あー、助かった。秋田あきたさん、この子、何? 今まで、こんなこと言う子いなかったよぉ』

 神さまは、旧知の知り合いに泣きついた。


『そうですか。それは、行く末が楽しみだ』

 アメリカン秋田は、アーモンドの形をした目を細めた。


 神さまはグチった。

『神さまのおくりものに難くせ付けるなんて、不届き者だろ』

『若者とは、こわいもの知らず。それを導くのが我らの役目――。キワ子さん』

 キワ子に向き直ったアメリカン秋田あきたは告げた。

『〈天啓〉をお受けなさい』 

 天啓というのは、大きなつづらと小さなつづらのことらしい。

「それでは、アメリカン秋田あきたさんなら、どっちにしますか」

 キワ子は、自分のことを「さん」付けで呼んだアメリカン秋田に、アドバイスを求めてみた。

『うーん。中身、見てから考えたいかな』

 どうやらアメリカン秋田も、キワ子と同じ思考回路の持ち主だった。


秋田あきたぁ』

 神さまが、うめいた。


『種明かしをするとね。どっちを選んでも、おそらくは同じものだよ』

 アメリカン秋田が、とんでもないことをぶちまけて来た。

『つづらを選ばせるのは演出』


「そうなんだ」

 キワ子は目を丸くした。


『子供たちに、10才のお誕生日を楽しんでほしいからさ。大人たち、みーんなで考えてるんだ』

 アメリカン秋田は、にかっと笑った。


「つまり大人の自己満足なんだね」

 キワ子は納得した。


『いや、何、この子ぉ。言うことのやみが深いぃ』

 神さまが引きつった。

 アメリカン秋田は遠くを見る目をした。

『何百年に一度か、一族のごうを負った女子が生まれるという。この子は、それかもしれぬなぁ』 


「それって、わたしの性格がわるいってことですか」

 キワ子には無自覚な自覚があった。

「まわりが、さんだからじゃなくて?」


『言い方。カッターナイフ並に、とがってるよぉ』

 神さまはこわくなった。どんどんどんどん、わけわからないことを言う子が、これからもふえていくんだろう。自分は、それに対抗できるのか。ますますもって自信が揺らいできた。

『――秋田さん、オレ、神さまの仕事、やめたい』


『ちょっと落ち着こうか』

 アメリカン秋田は親の跡目を継いだばかりの、この神さまがどこかで1回、伸び悩むことは予測していた。

『君は、ここでこの仕事しかしたことがないからなぁ。外の風も吸いながら、ちょっと休み休み、やっていってはどうだい? ぼくから見れば、君は神さまの素質がある。だって、神さまだし』

 そして、キワ子のほうを振り向いた。

『どうだい。キワ子さん。そんな神さまのお手伝いをしてみないか』


「わかりましたっ」

 キワ子は水やり当番や、おつかいと同じぐらいに考えた。


 そして、キワ子は10才のたんじょう日のおくりものをもらうことを忘れていた。

 神さまも忘れていたから、どうしようもない。



「だけれど思い返せば、この出会いこそが、おくりものだったのです」と、晩年のキワ子が語っていたから、それでいい。


 これはどうやら、そういう話だ。





        〈了〉

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キワ子と天啓の村 ミコト楚良 @mm_sora_mm

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