第8話【鏡裏魔法少女】✕【占星魔法少女】

 われは今、鳥になっている。いや、鳥のようだが少し違う。重力とは別の力が全身に働いているような感覚。みなみのうお座の力がなければ自分の体を押しつぶしていただろう不快な感覚が、今は自分に寄り添ってくれている気がする。どうしてこのようになったのか、感覚を共有している星浦ほしうら福獅ふくしが考えを巡らせている。


 あの異常存在者イグジストの肉体は液体で構成されていて、海洋生物の姿をとっている。異常存在者イグジストの見た目には核となる依代になった物体の見た目が全く反映されない。ということは水以外、恐らく水中に存在する何か…。深海魚か何かか。相手に物理的な圧力をかける能力から考えるとあれは深海の水圧という概念を地上にも反映させる能力?いや、目に見えない水が実際に存在していると考えてもいいのか…?

 あの攻撃に対抗する能力を願って大吉が出た結果が今の状態だとすると、みなみのうお座の力は深海の水圧に耐えること?いや、よく考えろ。今のリオンは相手と同じように空中に浮かんでいる。なら、アレは擬似的な海を造っているのか?ここまで周囲への影響を制御することが出来るということは、それなりに長生きしている個体らしいな…。一体今まで何処にいたのか…、これは考察が捗るなあ、ハハハ。


 彼は頭の回転は早いほうだと思うが、その分こちらがついていくのが大変だ。不満というほどでもないのだが。しかし、先程心のなかで呟いていたことが引っかかる。


 海を作り出す能力。


 正直、何をどうしているのか詳細な原理は分からない。しかし、魚の能力を得ているわれがこうして空中を自在に移動できるようになっているのだから、そういうものなのかもしれない。実際にそうなっているのだ。相手のことを知る必要はあるが、焦って今すぐにすべてを知る必要はないのだ。藁にもすがる思いでこの仮説に期待するしかなさそうだった、海だけに。


 相手に目を向ける。深海の異常存在者イグジストもこちらを見ている。


 先に動いたのは、われではなかった。


 再び魚形態に変化しての突進。そしてわれは回避する。この繰り返しが十数回は続いた。どうやら、今は大吉なので魚のように動くというかなり抽象的な能力を直感的に使用できるらしい。しかし、その効果もあと4分で切れてしまうだろう。相手はこちらの能力を把握し始めている。咄嗟のハッタリが通用するとは思えない。だから、次の一手を考えなければならない。

 ここで、ここから離れた比較的安全な場所にいる星浦パートナーからとある情報が送られてきた。それは彼の視覚情報だった。これは使えるかもしれない。


 一度、地面スレスレの場所に降り、そこから一気に異常存在者イグジストが作った海の範囲外まで一直線に泳ぐ。すると、相手はこのまま捉えて離すまいと追いかけてきた。移動速度は相手の方に軍配が上がるだろう。第三者から見たら明らかにこちら側が不利に見えるだろう。しかしそれは前振りなのだ。

 逃げている間も星浦が見ている景色をリアルタイムで共有する。あちらがこうなっているということは、われはこの方向に…。


 地面から離れて、今度は横にある建物の壁面スレスレを泳ぐ。急な方向転換で一度相手を撒こうとするが、建物の屋上部分にたどり着き、隣の建物の屋根に移動したとき、敵はどうしたか。建物を破壊してひたすらにまっすぐこちらを追いかけてきた。想定外の動きに思わず拳を強く握りしめる。


 別の道路には、同時にたどり着いた。その場所は、スケートリンクのように薄く氷に覆われていた。このようなことが出来るのは異常存在者イグジストしかいない(今後、魔法少女でその様な能力を持つものが現れるかもしれないが)。そしてこの空間のヌシは今どこで何をしているのか。

 正解は、たった今破壊された建物に脚をかけようとして、突然表れた、一度自分を助けてくれた恩のある相手を貫き、液体状の肉体を氷漬けにしている、だ。

 われは先程作った握りこぶしに一層力を込めて、作戦の成功を喜んだ。


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る