第9話【雪】融けて魔法少女集まる
一人は
クロは突然の出来事に放心状態だ。無理もない、怪物が怪物を意図せず攻撃してしまった、というありえない状況なのだから。
もう一人の魔法少女は至って冷静だった。というよりも、こうなるように仕組んだというほうが正しいのか。たった今、氷漬けになった怪物をもう一体の怪物に投げとばしていた。双方とも硬度があり怯む程度だったが、鈍い音を響かせながら度重なる唐突な衝撃に耐えるので精一杯に見える。
しかし、クロも後輩に負けない立ち回りをしている。怪物が立ち上がろうとした瞬間に鏡を展開し、周辺の瓦礫を脚部に直撃させた。バランスを崩し、再び転倒する。また立ち上がろうとしても、鏡の効果の範囲内であることには変わりはないので、周辺のもので体勢を安定させることを阻止し続ける。
…薄々感じていたが、どうやらクロは目立ちたがりな性分に反して陰湿な戦い方が得意らしい。もう少し華やかな戦い方を研究・確立しなければならないようだ。
何度も起き上がるのを妨害されて腹を立てているのか、少しづつ動きが雑になってきている。戦いは次の段階へと移行した。
奴は移動用の脚の他に、攻撃用と思われる先端の尖った脚を持っている。その脚を今、周辺に突き刺した。そして、地面にピンのように深く刺したことでバランスが安定し、歩行用の脚を攻撃に転用し始めた。
電柱よりも一回りほど太いその脚は、振り回すだけでも大きな力を生む。魔法少女たちは攻めあぐねていた。
仕方がないので一定の距離を保ちつつ、いつ自体が動くかを見極めるため、集中し続けて2時間ほどが経った。その頃にはもう、怪物は不動の要塞と化していた。
一体なぜか。瓦礫を巻き込み凍結させたまま長時間経ったことで、氷の層は分厚く、更に硬く溶けにくくなり、まるで自分の肉体の一部化のように錯覚するほどに成長していたからである。
(これでもう、届かないね)
氷の中からイソギンチャクのように尖った脚をブンブン振り回し、無差別に氷の大地を作り出す。使えそうなものは全て氷の中に埋もれてしまい、残ったものは鏡のサイズよりも大きく、活用が難しいものばかりだ。我々が今すぐに負けることはないのだろうが、逆に勝利することも難しそうに見えた。
…クロ一人だけならば、の話だが。
もう一人の魔法少女は、両手で巨大な氷を持ち上げていた。氷漬けにされた方の怪物だ。それを盾にして前進する。触れると氷漬けにできる脚が唯一凍らせられないもの、それはずばり氷だ。すでに凍っているものをさらに凍らせることなどできない。怪物を脚に深く突き刺す。先端が安全になったそれの根元を力いっぱいに引っ張る。しかし、氷は固く、本体を引きずり出す事はできない。ついに、脚が力に耐えきれずちぎれてしまった。逆に手応えを感じたようで、作戦を変更したようだ。他の脚も一本ずつ同じように処理する。こうして攻撃用の脚は使用不可能となった。
ちぎれて突き刺さったそれを力いっぱい引っこ抜く。両手に一本ずつ持ち、全力で本体が眠る氷に差し込む。何回も繰り返せば、ヒビが入っていく。表面にまんべんなくヒビを入れたところで、脚を怪物の氷像に戻し、上空に放り投げる。今だ。
クロは、鏡の力で空高くに跳び、強力なキックをはなった。それは、2体の怪物を同時に粉々にし、目に見えるサイズ肉片すらも残さなかった。
魔法少女の妖精係 如月 初明(きさらぎ はじめ) @kisaragi-hajime
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