第10話 愛し愛される幸せ

 会食からしばらくして、ザールセン王国とクレオア王国の間では、正式に停戦の合意が結ばれた。


 中身はザールセンに有利な内容だったが、全面戦争に発展すれば、もっと酷い結果になっていたに違いない。


 クレオア国王も流石にあの一件で姉夫婦に愛想を尽かしたらしく、ハリオット公爵は爵位を剥奪され、姉は貧しい庶民暮らしに発狂しているという噂を聞いた。


 一方、リゼリアの生活は何ら変わっていない。

 セインはリゼリアを妻として扱い、毎日口移しで魔力を分け与えてくれている。


「リゼリア、おやすみ」

「セイン様……あの、私はもう用済みなのではないでしょうか」


 このままで良いのだろうか。

 気になったリゼリアは就寝前に勇気を出して尋ねてみる。


「用済みとはどういうことだ」

「私は和平のため、人質として嫁いできた身です。停戦の合意が結ばれた今、無理をして夫婦を続ける必要はないように思います」


 その言葉を聞いて、セインはぴくりと眉を動かした。


「リゼリアは無理をしているのか?」

「いえ……私は……」


 リゼリアは許されるのなら、形式的にではなく、本物の妻としてエルネスト邸で暮らしたい思う。

 けれど、そのように浅ましく無相応な願いを自ら申し出ることはできない。


「俺は君を人質だと思ったことも、飾りの妻だと思ったこともない」

「それは女として見れないということでしょうか」

「何故そうなる……」

 

 セインが目配せすると、壁際に控えていたメイドのアマリーはそそくさと部屋を出ていった。


 枕を背に寝台に座るリゼリアは、セインの真摯な瞳にドキリとして姿勢を正す。

 彼はリゼリアの手を取り、薬指の根元に軽く口づけた。


「リゼリア、君を愛している。一目惚れだった。君が嫌でなければ、このまま結婚生活を続けてほしい」

「セイン様が私を……愛してくださっている?」

「そうでなければ、魔力供給のためだったとしても毎朝毎晩口づけなどしない」

「そう、ですか」


 かぁっと頰が熱くなり、リゼリアはもう一方の手で顔を仰いだ。


「返事を聞かせてくれ」


 リゼリアに覆い被さるようにしてセインの顔が近づいてくる。彼の首に手を回し、目を閉じて唇が重なるのを待った。


 温かく、甘い魔力が体内に流れ込んでくる。体中に染み渡り、全身がとろとろに溶けていくようだ。


(ああ、セイン様はずっと私を愛してくださっていたのね)


 甘い魔力の正体を今になって理解した。


「私もセイン様のことが好きです。浅ましい願いと知りつつも、愛されたいと思っていました」

「俺なりに愛しているつもりだったが、足りなかったようだ。これからは言葉でも行為でも君に伝わるよう努力する」


 セインは珍しく目を細めて微笑んだ。


 その日、二人は初めて並んで眠った。

 一晩中誰かの温もりを感じられるというのは、孤独に生きてきたリゼリアにとっては泣きたいほど幸せなことだった。




〈了〉


↓↓カクヨム限定、その後のお話です。

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