管理者との邂逅 ――そして、奥に潜む“格”





管理者兵の動きは、異常だった。


肉体を持っているように見えて、その行動原理は明らかに**物理法則を無視している**。重力を無視して宙を滑空し、剣を抜いた瞬間に次元の狭間へ斬り込むような軌道を描く。


「まるで“演算された動き”ね……!」


ユリゼルが警告の詠唱を唱えるが、魔法詠唱の終了よりも速く、敵の一体がアレクの懐に迫った。


ズガァンッ!


だが次の瞬間、アレクの足元が“都合よく”崩れた。敵の斬撃は空を切り、逆に体勢を崩した隙を突かれて背面に剣を受ける。


「……運が悪かったな。」


アレクは短く言い放ち、斬撃を引き抜いた。


しかし――


「【訂正:偶発事象への修正を実行】」


異形の兵士の体が青白く光り、アレクのスキルに“逆らう”ように、世界が補正を始める。


「……ああ、なるほどな。」


アレクは目を細めた。


(こいつら、“好都合”の力を自動で修正してくる……!)


通常のモンスターや存在とは違い、理を管理する存在は、世界の歪みに敏感だ。“都合よく”崩れた地面、“都合よく”届いた一撃……それらを検出し、再構築しようとする。


「このままじゃ、普通にやるだけじゃ意味ねぇな……!」


アレクは斬撃をかわしつつ、敵の運用ロジックを探る。

そして思い至る――**なら、“都合よく”見せなければいい。**


「ユリゼル、後方魔法展開!あいつら、目に見える事象しか補正してこねぇ!」


「了解!視覚情報遮断領域、展開します!」


ユリゼルの詠唱と共に、あたりに霧のような精霊の膜が広がる。その瞬間、管理者兵の動きが鈍る。


「【視認妨害を検知:対霧視覚制御を――】」


刹那、アレクの“見えない”踏み込みが炸裂した。


――ズドン!


一体目の管理者兵が、中心部からねじれるようにして破裂した。


「補正が追いつく前に、物理で壊す。それが一番都合がいい。」


アレクの瞳がぎらりと光る。


だが――そこへ、霧の奥から異質な“熱”が流れ込んできた。


「アレク……今の奴ら、ただの巡回型じゃない……。奥に、もっと大きな存在がいる。」


ユリゼルが震える声で告げた。


霧の彼方に見える、巨大な影。**人型のようでいて、明らかに“それ以上”の何か。**


その存在が、音もなく“世界の修正コード”を唱える。


「【存在検知:異物影響濃度92%超過】――主命をもって、対象への判定を開始する。」


(こいつは……別格……!)


アレクの額に、初めて冷たい汗が伝う。


“主命”――

それは、この世界における「絶対命令」。

この存在はただの兵士ではない。**上位管理者(オーバーシステム)**――理の中枢を統括する、まさに“ボス”の側近格だ。


アレクの好都合が、試される。

次なる戦いは、「理と意志」の衝突。


世界の“整合性”と、彼の“都合”のせめぎ合いが始まる――。

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