第19話 はじめまして?
帰りのHRが終わり、ミツトはそそくさと教室を出る準備をする。
「今日こそ言ってもらう。ミツト、お前、章と知り合いなのか!?」
友人が大声で聞いてくる。
クラスメイトたちはその声を聞いて、ちらりとミツトを見た。やはりミツトと章という謎の組み合わせが気になっている人が多いようだ。
「友達だよ。というか別に二人じゃないし。いつも女の子連れてきてるじゃん。ほら、一年生の」
「知らん!章の隣には二十四時間女がいるんだよ。だいたいが同じ目的だし、もう覚えるのも面倒なくらいたくさんいるだろ」
睨んでくる友人をどうしようか悩んでいると、廊下から声が聞こえた。
「ミツト、帰るぞ」
章が廊下に立っている。その後ろに亜芽の姿もあった。
友人に挨拶をして、鞄を持って教室を出る。
下校中、ずっと黙っていた亜芽が口を開いた。
「章、ちょっと寄り道してっていいか?」
章が首を縦に振ると、亜芽はすぐに笑顔になってミツトと章の手を引いた。
ミツトに拒否権はないらしい。
亜芽に連れてこられた場所には、一人ずつならなんとか通れるような細い道があった。
いや、きっと道ですらない。これは住居と住居の隙間だ。
「こっち!」
その隙間に体をねじ込んだ亜芽が手招きをする。
「え、待ってここ入れるの?」
怯えつつ、亜芽に引っ張られて隙間に入る。最後に章が入って、しばらく歩くと、道が開けた。
トンネルのような、アーチ型の建築物がある。
それ以外には何も見えない。コンクリートの少し壊れた場所から日の光が漏れ出て、薄暗い空間を作っていた。
更に進むと、日の光が直に当たった。
「外・・・?」
不思議な場所だ。
雑草のようなものがそこらじゅうに生えていて、ミツトたちがいる位置からそう遠くないところに大きな建物があった。
蔦が建物を覆うようにあって、あちこちがひび割れた、古めかしい建物だ。
「どうっすか?幸高神様」
突然、後ろから現れたシュンが亜芽に聞く。
それと同時に、亜芽の髪と瞳の色が本来の真っ赤な色に戻る。
「完璧だ!どうやってこんなとこ見つけたんだ?」
亜芽が不思議そうに尋ねると、シュンがあっけらかんと言った。
「誰かがここに入って行ってたからっすよ」
「それって、ここに誰か住んでるってことなんじゃ・・・?」
ミツトが一歩後ずさりをする。だが、もう遅かったようだ。
大きな建物の横にある、地下に通じているのであろう扉から誰かが出てきた。
ミツト、或いは亜芽と同い年くらいの少女。
少女は亜芽を見た途端、慌てた様子で近づいてくる。
「さ、幸高神様、ですよね」
少女が確認すると、亜芽は黙って頷く。その動作を見て、少女はスカートの端を摘んでお辞儀をすると、そのままの状態で止まった。
纏っている雰囲気が、普段のとは全く違う。凛々しく、少し微笑みながら、亜芽が口を開く。
「私の自己紹介はしなくていいようだな。顔を上げて、名を教えてくれ」
少女はゆっくりと顔を上げ、にこりと微笑む。
「お目にかかれて光栄です。名は雪と申します。苗字はありません」
名前を聞いた瞬間、亜芽の表情が一気に変わり、満面の笑みになった。
「やっぱ雪か!なんか雰囲気がすっげえ変わったな!雪じゃないかも、と思って他人行儀になっちまった!」
ミツトは、ほっと息をつく。
(良かった。いつもの亜芽ちゃんだ)
はしゃぐ亜芽を横目に見て、雪と名乗った少女に視線を移す。
髪と瞳が白に近い灰色。顔を確認した後に、視線を少し下に下げた。
何がとは言わないが大きかった。メロンくらいはあるんじゃないだろうか。
雪はミツトの視線に気付き、苛立った表情をしてミツトを睨みつける。
「ごごごごめんなさいっ!!」
慌てて謝り、雪から目を逸らす。雪もミツトに構うのを止め、亜芽に話しかける。
「幸高神様、私はあなたと会ったことがあるんですか?」
亜芽がきょとんとして聞き返す。
「だって、雪も屋敷でくらしてただろ?」
雪は、何かを考えるように少し俯き、亜芽に向き直った。
「すみません、私・・・。十歳になるまでの記憶がないんです」
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