第12話 冠の少年
「ごちそうさまでした」
手を合わせた後、顔を上げると、正面に黒髪の少女がいた。
「そういえば、亜芽ちゃんの髪色が変わるのはどういう仕掛け?」
「俺も、いつ言おうかと思ってた」
亜芽は、こてん、と可愛らしく首を傾げ、納得したように手を打った。
「そういえば、二人には言ってなかったな。シュン、自己紹介してくれ」
亜芽がミツトの後ろの空間に話しかける。
ミツトは慌てて振り向くも、そこには積み重ねられた椅子と机があるだけだ。
「なにもないけど」
「そのうち出てくる」
「そのうち・・・?」
あ、と亜芽が再びミツトの後ろを見て微かに目を見開いた。
「いま出てきてやろうか?」
「うん、出来ればそうしてほしい・・・ってうわああああ!?」
知らない人の声が耳に届いた。
しかも、かなり近い。
恐る恐る目線だけ横にずらすと、冠を被った少年がいた。
茶色の髪に黒い瞳。中学生だろうか、まだ幼さの残った顔をミツトの鼻先まで近づけて、へらっと笑った。
「ちかっ!誰!?」
「シュンだ」
「いつからそこに?」
「最初っからだよ、ばーか」
罵倒された上に、なぜかデコピンを喰らった。
「やっぱわかんねーか。ったく、お前がピンチのときもかっこよく助けてやったってのによ」
「ピンチ・・・ってもしかして、この前女の子にいきなり殺されかけたとき?」
ここ最近のピンチなんて、それくらいしか思い浮かばない。
告白相手を間違えたときも中々ピンチだったが、救いの手は差し伸べられなかった。
「そー。その時、幸高神様にお前の護衛頼まれたんだ。お前、俺がいなけりゃ死んでたんだぞ、感謝しろよ」
そういえば一瞬だけ空間が歪んで見えたような・・・。
あのとき、シュンがそこにいたのかもしれない。
「あはは、ありがとう」
突然の年下出現に愛想笑いを浮かべつつ、ミツトの頭の上にはクエスチョンマークが飛び交っていた。
「その『さいこうしんさま』って、何してる人?」
急に知らない名前を言われてもわからない。
「本人に聞いてみればいいじゃん」
シュンくんは赤い髪に変わった少女を親指で示した。
(正直、様付けされるような子には見えないけど・・・)
この少女もまた、神と呼ばれる存在だった。
「・・・亜芽ちゃんが、その幸高神様なの?」
「そうだぞ!」
ミツトが聞くと、元気のいい返事が返ってきた。
「幸高神様って、地位の名前みたいな?」
「・・・・・・・・・」
亜芽はミツトをじっとみつめると、こてんと可愛らしく首を傾げた。
「・・・ちい?」
どうやら地位がわからないらしい。
「神様にとっての、大統領的な役割だ」
代わりに章が答えた。
章は、亜芽に「腹減ったら食え」とチョコを渡して席を立たせた。
「亜芽ちゃんってそんな偉い人なの!?」
「5限まで残り3分」
章が腕時計を見ながら平然と言ってのけた。
ここは、部室と空き部屋しかない3階。それも東棟の端のほう。
一方、ミツトの所属するクラスは2階西棟の端から2番目だった。
「やばい、間に合わないかも」
できるだけ急いで弁当箱を袋に包む。
「章くんも急いだほうがいいんじゃない?」
そこから全く動かない章に問いかける。
亜芽はいつの間にか教室を出ていた。
「5限は友達と約束があるんだよ」
「友達?」
「ああ、この教室は放課後以外は全然人が来ないんだ。何やっても気づかれない」
「うわ、不潔・・・普通に気持ち悪い」
ミツトが嫌悪感を含んだ目で章を見る。
シュンはミツトとは真逆の反応で、息を荒くした。
「ちなみに見学とかって・・・」
今度は章が半目になる。
「ダメに決まってんだろ。ほら、そろそろ帰らねえと遅れるぞ」
「・・・たしかに」
ミツトは、恐らくもう間に合わないだろう5限のために駆け足で教室へ向かった。
「やっほー!あっくん、5限サボってまで来てくれたんだ!うれしー」
「お前が呼んだんだろ・・・」
女子と章くんの会話が後ろから聞こえてきているが、絶対に振り向かない。
振り向いてしまったら負けのような気がした。
「めっちゃ美人じゃん!俺の顔がもっと良かったら、俺もあんな美人と・・・」
姿を消しているが、現在も隣にいるであろう少年は潔く負けを認めていた。
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