第9話 再会

ミツトは、『流』との待ち合わせ場所を目指して歩いていた。

不審に思われるのでとりあえず一旦家に戻って制服以外の服に着替え、それぞれ別々で待ち合わせ場所に向かおうということになったのだ。

ミツトは携帯電話のマップ機能を使い、洒落た雰囲気のカフェの前に着いた。

「ここ、かな・・・」

白と黒を基調とした、まだ新しそうなカフェだ。

ドアを見ると、ホワイトボードにメニューや営業日が書かれている。

今日は『お得意様のみ』と書かれているが、大丈夫なのだろうか。

「すみません」

「・・・・・・・・・」

突然横から聞こえた声に驚いて振り返ると、黒髪黒目の、年齢もミツトとさほど変わらないであろう青年がにこっと微笑んだ。その青年は、人形のような、美しい顔立ちをしていた。

一瞬死人でも見たような顔になったのはきっと見間違いだろう。

「ここの店員さんでしょうか?」

「え?あ、いや。僕はちょっと訳あってここのカフェで待ち合わせしてて。紛らわしいですよね」

「なんで入らないんですか?」

青年はミツトに問いかけながら、窓越しにカフェ店内を覗く。

誰もいない店内を見て不審そうに眉を寄せる。

「今日は『お得意様のみ』って書いてあって。あなたも待ち合わせですか?」

もしかしたらこの青年が待ち合わせ相手なのかもしれない。

青年は弱々しく笑う。

「いえ、実は祖母がこの近くの病院にいて。誰かに道を教えてもらおうと思ったんです」

そこで、今まで真っ直ぐ話し相手を見ていた青年の顔が下を向いていることに気付き、ミツトがなんとなくその視線の先を見ようとして、青年は何かを隠すように腕を後ろに回した。

だが、白い肌が一部抉れているのが見えた。

「手、大丈夫ですか?怪我してるように見えたんですけど」

かなり痛そうな傷だった。

青年は、少し恥ずかしそうに俯く。

「お金、持ってくるの忘れました。絆創膏も買えばいいやと思って」

(忘れる?普通・・・)

さすがのミツトもドン引きである。

見ず知らずの人に道を聞いたり、財布を取りに帰らないあたり遠くから来たのだろう。

子供が道端で泣いていても余裕で無視できるタイプのミツトでも、ちょっと放っておけない事態だ。

「僕、買ってきましょうか?他に必要なものとかは?」

ミツトが言うと、青年はほっとしたような笑みを浮かべた。

「ありがとうござい・・・」

青年の言葉はそこで途切れた。

青年は、ミツトの後ろ、ちょうど店の出入り口を見ているようだ。

そこには、ここ数日で見慣れた人物が立っていた。

「よお!二人とも来たのか」

「懐かしいな、その即興作り話。・・・久しぶり、流」

「え?流って・・・」

ミツトが青年のほうを見ると、青年は先ほどと打って変わって、可笑しくてたまらないというような表情で、ミツトを見た。

そして、視線をミツトの後ろに持っていき、幼い子供のような笑顔のまま口を開く。

「ふふっ、久しぶり。亜芽ちゃん、章くん」

それだけ言って、青年はミツトを追い越して店の中へ入ってしまった。

章は、一回だけ大きく息を吐いてから、「とりあえず入ろうか」と店のドアを開ける。

ミツトは戸惑いつつも、その店の中に入った。

内装も外見とそれほど変わらず、入り口側に大きな窓があり、白と黒の装飾があちこちに置いてある。

青年は、出入り口の正面にあるカウンター席で、ゆったりとくつろいでいるようだった。

ミツトたち全員が店の中に入ったことに気付き、くるっと椅子の方向を変えてその場に立つ。

そのとき、まるで魔法が解けたように、青年の髪と目が青色になった。

その青が、透き通るような白い肌をさらに美しく見せる。

(アニメから飛び出してきたんですか?ってくらいの顔とスタイルの良さ・・・。本当に人間か?いや人間じゃなかった神様だった)

青年は、困惑するミツトを見て満足げに微笑んだ。

「やあ、君とは初めましてだね。ミツトくん」

「な、なんで僕の名前を・・・?」

(まさか、神様の超パワー的なやつ!?)

「ん?書いてあったからね」

青年は、いつの間にか持っていたミツトの学生証を本人に手渡す。

「そっか、学生証・・・。なるほど」

密かに神様の超パワーを期待していたミツトは、あからさまにテンションが下がった。

胸ポケットに入れておいたはずなのだが、どこかで落としたのだろうか。

学生証をもとの場所に戻す。

「それで、君は亜芽ちゃんが探してた人、ですよね?」

ミツトが青年に問いかけると、青年は「そうだよ」といい、左手を胸に当て、右手を後ろに回し、軽くお辞儀をした。

顔を上げると、ミツトの目を真っ直ぐ見つめ、

「僕は水神家当主の水神流と申します。以後、お見知りおきを」

もし女性なら虜になっていただろうなというほど柔らかい笑みで、自己紹介をした。

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