第31話告白ではなく交渉です。
シーン…と静まり返るキッチン。
宣言通りレオさんはこの部屋を出て行ったけど、それからずっとこの静かさのまま。
ケジメつけなさいって言ってたけど…この無言の空気、私には耐えられないよ…。
「その、イヴ君…」
「まだ嫁にできるとは思わねぇ。」
「へ?」
「黙って聞いてろ。お前の事だ。」
「あ、はい…。」
すっごく珍しく目をキョロキョロさせながら言葉を選んでくれてる感じがする。
時々顎に指を添えて悩んでる仕草まで。
話す内容、気遣ってくれてるのかな?
「…最初は俺の給仕だ。それに変わりはねぇ。」
「はい」
「だが…お前が俺のとこでやっていけるようならまた親父に直談判して嫁にする事を考えている。」
「!?!」
「とりあえずの使用期間だ。どんくせぇノロマなのには違いねぇからな。」
うん。
って。すごく満足そうにちゃんと説明できた感を出して頷いてるけどっ!!!
まって!?理解が追いついてないっ!!
「ま、待ってイヴ君!!それってえっと…つまり…?」
「今ので理解できねぇのかよ。脳みそねぇな。」
「いや、え!?え!?だって…」
「…はぁ…クソ。きちんと頭整理して聞いとけ。三度目はねぇからな。」
「は、はいっ。」
「嫁に来い杏。そのために給仕係としてまず俺に仕えろ。」
腕を組んですごく堂々と…
給仕係って、もしかして花嫁修業の事?
たしかに慣れないイタリアでの生活になるだろうし言語の壁もあるし…私ビビりだしイヴ君マフィアだから救済処置なのかもしれないけど…。
あまりにも淡々と言うから、実感湧かないなぁ…。
レ「んなぁぁぁにソレ。全然ときめかないわ。」
「盗み聞きしておいて文句言うんじゃねぇ。交渉してんだ、ときめきなんかいるかよ。」
「レオさん…えっと…」
レ「そりゃ戸惑うわよねぇ。全くもう、ほんっとに下手くそなんだから。」
「うるせぇな。おい杏、不満があんなら今のうちに言え。後でグチグチ言われてもうぜぇからな。」
「ふ、不満…?えっと…」
これは決定事項?みたい。レオさんの言う通りときめきなんて全然ないけど、むしろイヴ君らしい。
それに不満もなにも、私まだ全然気持ちの整理ができてないの。でも、不満じゃなくて不安ならある。
「ねぇなら話を進めるぞ」
「一つ…いいですか。不満じゃないんだけど…」
「あるならさっさと言え。」
「えっと…私まだ高校があと一年あるからすぐにはそっちに行けないの。」
「んな事は分かってる。お前が卒業したらの話だ。」
「う、うん。ありがとう、それでね…えっと…」
「はぁ。早くしろ」
レ「少しは待ってあげなさいよ。杏、ゆっくりで大丈夫よん?」
「は、はいっ。」
鼻からため息ついたイヴ君が少し苛立ってるのが分かる。
早くしろって視線が物語ってるよ…。
頑張れ私。頑張って言うんだ。
「…い、一年間…本当に待ってもらえますか?」
レ「「は?」」
「パーティーにいたお姉さん達とか…その、綺麗で魅力的で…わ、私なんかよりずっとイヴ君にふさわしくて…。なのに…その、本当に待ってもらえるのかな…って…。」
「…」
レ「んまぁぁぁ!!杏ったら坊ちゃんが心変わりしないか不安なの!?かんんわいぃんっ♡」
「うるせぇぞレオ、ちょっと黙ってろ。おい杏。」
「はい…」
「それは俺を信用しねぇって事か。」
「そ、そんなわけじゃっ」
肩を掴まれてジッと真剣に目を合わせてくるイヴ君に心臓が止まりそうになる。
この人はいつも…こうやって芯の強い目を私に向けてくるんだ。
そのせいで私の視線はどこにも逃げられない。
どうしていつもそんな目をできるの?
「ふん。くだらねぇ不安を勝手に抱えてんじゃねぇ。」
「…ごめんなさい…」
「お前が俺から目を逸らすから、んなバカみてぇな不安にかられんだ。その目、二度と逸らすんじゃねぇぞ。真っ直ぐ俺だけを見てろ。」
「ふァーっ」
「次くだらねぇ事考えたら眼球抉り出す。いいな。」
「よくないよ!?それはとてもよくないっ!!」
もうっ!!今すごくドキッてしたのに台無しだよっ!!イヴ君今、本気の目してた!!本当に眼球抉り出す気なんだ…っ
「お前が目を逸らさなければいいだけの話だ。他にねぇなら話を進めるぞ。」
「ありません…。」
「ならここにサインをしろ。特別に読み上げてやる。」
納得したのかな?そう言って何枚かの書類を読み上げてくれて。その都度ちゃんと確認も取ってくれて。
さすがというかなんと言うか…イヴ君、経営者としても成功しそう。
卒業したら…か。今のうちからイタリア語頑張っておこうかな。
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