第28話焦り

イヴ君の誕生日パーティーからゆっくりと月日は流れた。


あんなに暑かった夏もあっという間に過ぎて今ではもう長袖に腕を通して手袋はめるような、そんな寒い時期だ。


「イヴ君!はい、これ!今回は傑作なんだよ、とてもモチモチにできたの!」


「うるせぇな、ったく。置いとけ」


「うん!お茶も淹れてくるね。渋めのお茶でいいかな?」


「さっさとしろ」


「うん!ーっくしゅっ」


「…」


この鏡を使って行き来するのも当たり前になったなぁ。最初は本当にすごく怖かったけど、今ではとても感謝してる。


こんなに居心地良くなれるほど仲良くなるなんて思わなかったんだけどね。


「よし、お茶も淹れたから早く戻ろう。最近イヴ君忙しそうだし…。いつまでこうして会えるのか分からないし…」


私は…大人になっても、こういう関係を続けられたら嬉しい。けど…イヴ君がボスになっちゃったら解消しなくちゃなのかな?それは悲しいな…。


少しでも長く一緒にいたい…


「イヴ君お待たせ、お茶を…あ、レオさん!」


レ「杏〜!お菓子私には?」


「もちろんありますよ。待って下さいね、お茶を渡したらすぐ持ってきます!」


レ「んふ♡ありがと。でもその前にやる事があるのよ。」


「え?わっ!」


お茶を持って鏡を通ったらレオさんがいて、お菓子は?って拗ねられちゃった。


持ってくるつもりだったんだけど、その前にやる事があるって…私のおでこを触って眉を八の字にしてため息ついてる。


ど、どうしたのかな?


レ「杏、あなたすごい熱よ?大丈夫なの?」


「…え?私は元気…」


「知ってるか?バカは風邪をひかねぇんじゃねぇ。ひいてることに気づかねぇだけなんだぜ。」


「ぐさ…っ。え、えっと…」


「戻って寝てろ。バカの生き証明が。」


「はぃ…」


イヴ君が真っ直ぐ指さす先にはあの鏡。たしかに少しダルイかなとは思ってたけど…


気づかなかったからイヴ君の言う事が正しいんだけどね…傷ついた…


戻ってお布団に入ろうかな…


ートプン…ー


レ「…。ほんとに口悪いわね坊ちゃん。心配だから寝てろでいいじゃない。急ぎで私を呼んだクセに。」


「るせぇ。」


レ「んもぉ。それにしても杏ったら最近何かに焦ってるような気がしない?どうしたのかしらん。坊ちゃん聞いてきてよ。」


「なんで俺なんだよ。」


レ「だってこの鏡、杏か坊ちゃんしか通れないじゃない。もしかしたら新しい彼氏ができたからお別れ言いたいのかもよぉ〜?」


「…」


レ「お〜ほっほっ!なんちゃって!」


「…くだらねぇ。」



「うぅ…」


マ「ダメねぇ、熱が下がらないわぁ。明日ママとお医者さんへ行きましょ、杏ちゃん。お粥作ってくるわね。」


「うん…ありがとうママ…」


パタンって、扉を閉めてママが階段を降りていく音が聞こえる。


あれからすぐお布団に入ったけど、力が抜けたら急に体が重くなってそのまま寝込んじゃった…


熱もどんどん上がっているから寒いし体も痛い…


時間…大切にしたいのに…


「…おい」


「いぶ…くん?どうしたの?」


「起きんな寝てろ。」


ービシッ!!「あいたっ!!」


目を瞑ってヤダなぁなんて後悔してれば最近ではよく聞き慣れた、ぶっきらぼうな声が近くで呼んでくれてる。


重い瞼を開けてみたらやっぱりイヴ君だ。


体を起こそうとしたらデコピンされちゃった…。容赦なく痛い…。


「お前に聞くことがあって来てみたが…はぁ、なんでこんなに悪化するまで気づかなかったんだ?本当にバカだな。」


「だって…」


「だってもクソもあるか。ったく」


「イヴ君…移すとよくないから…お部屋に戻った方が…」


「…はぁ…」


あ、しょうがない。って顔。ため息だけ残して帰って行っちゃった…。


聞きたかった事って、なんだろ?


「分からない…けど…もう寝ようかな…」


熱が下がったら…聞いてみようかな…。








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