第2話
なんとなくすっきりしない気持ちのまま、一日が過ぎる。昼休みも放課後も、音楽会の練習を仕切るクラスの女子、名付けて「仕切りたガール」がキリキリしながらクラスの合唱を「指導」していた。「声出して!気持ち入れて!」というけど、どんな気持ちを入れるんだよ。あんたが入れる「気持ち」と私の「気持ち」が方向性が同じ訳ない。クラスで歌う曲の投票をした時、私が歌いたかった歌は次点で、選ばれなかった。心の中で悪態をつきながら、口だけは大きめに動かして、何となく声を出して、仕切りたガールの目と耳をかいぬぐって合唱の練習時間を乗り越える。
練習が終わり、教室から出る時、あいつが下僕を引き連れてカバンを肩にかけながら喋っているのが聞こえた。「生徒会長になったら俺、給食おかわり自由化するわ。」それは無理じゃないか、と私が心の中で突っ込むのと時を同じくして、下僕がコメントするのが聞こえた。「それ無理じゃね?予算でメニューとか量とか決まってんじゃね?」そうだよ、と私が耳をそばだてていると、あいつは機嫌は良いまま残念そうに口にした。「せやな。じゃ、給食センターに働きかけて、俺たちの希望メニューもっと取り入れてもらおうや。」いやいやいや。生徒会の仕事が給食メニューの希望を出す、ってどうなんだよ。なんか違くないか?
あいつらがああでもない、こうでもない、と戯れるように話しながら階段を降りていくのを見送りながら、私もゆっくり下に降りた。生徒会か。
アスファルトの照り返しを避けるため、なるべく日陰を縫うようにして家に帰る。どさっと玄関でカバンを下ろすと、いつもより少しスニーカーが多い。あれっと思うと、弟に加え、珍しく母が先に帰っていた。私が「うわっ、いたんだ。」と驚いた声を上げると、母は冴えない顔をして「今日は歯医者で。。」とモゴモゴ言いながら何かを探していた。どうやら歯科医院の診察券を探していたらしい。
「ねえ、聞いてよ。」と私が言うと、母は「どうした?」と言いながら弟に歯を磨かせた後、「予約まであと15分だよ!」と弟をせきたてながら歯の仕上げ磨きをしていた。今日は弟の歯の健診日らしい。弟は磨き方が足りず、食生活も偏り、歯並びにも難点があり、しょっちゅう歯科通いをしている。慌てた様子の母を見て、私はまた後で今日の出来事を報告することとした。
母と弟が歯科から帰ってくるまでの間、ゴロゴロ休憩したいところだったが、今日はそうはいかなかった。明日提出する美術の宿題がある。忌々しいが、課題は音楽会の次に来るべき、体育会のポスターだった。最優秀作品は掲示用のポスターになり、佳作はプログラムの表紙や挿絵になる。下書きに絵の具で色をつけているうちに、あっという間に時間が過ぎた。こんな行事がなければ、こんな宿題もないのに。
競技に躍動する生徒の姿を描きたいとも思わなかったので、私は青空にたなびく万国旗と校庭の景色をA4画用紙に描いていた。
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