第5話

私たちは兵庫県神戸市で暮らしている。健の通勤に便利な駅のそばに、新築マンションを購入した。


何度も話し合いを重ね、二人で選んだ南向きで日当たりのよい3LDK。


白を基調とした外観にガラス張りの窓が映えるスタイリッシュな建物。ロビーはホテルのように洗練されていて清潔感がある。



住み始めた頃は、澄んだ空気と明るい空間に包まれて、幸せそのものだった。



だけど今、目に映る景色は、あの頃とはまるで違っている。空間は何ひとつ変わっていないのに、そこに満ちていた光と希望だけが、跡形もなく消えていた。



まるで、クモの巣だらけの廃墟にひとり取り残されたような――そんな感覚に囚われている。




子どももペットもいない。ただ広いだけのリビングに座っていると、本気で死にたい気分になってくる―――





「遅すぎる……」



健が家を出てから、すでに二時間が経とうとしていた。これまでなら、どれほど感情的な衝突があっても、一時間も経たずに戻ってきた。それなのに、今日は沈黙が続いている。



一体どういうつもりなのだろう――



謝りたくないという意地よりも、胸の奥に広がっていく不安や恐怖が、私の思考を濁らせていた。気づけば、スマホを耳に当て、健に電話をかけていた。

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