第6話

三十回、四十回と、コール音だけが虚しく響いている。運転中なのだろうか。それとも、まだ怒っているのだろうか……



自分がストーカーにでもなった気分だった。

健の、鬱陶しそうに眉をひそめた顔が脳裏に浮かぶ。それでも私は、電話を切る気になれなかった。


「はい、なに?」


「……やっと出た。今どこ?」


「実家」


「もう夜中の十二時だよ?帰って来ないの?」


「その前に、なんか言うことないの?」


「ごめんなさい。もう二度と変なこと言わないから今すぐ帰ってきて……」


「そういって毎回変なこと言ってるよね?徐々に酷くなってるの気づいてる?」


「もう絶対言わない。だから、帰ってきて……」


「今日は、もう帰らない。酒飲んでるから運転できない」


「私が運転するから!!今からタクシーで行ってもいい?一人になりたくない!!」


「俺は一人になりたい。実家泊まって、そのまま仕事行くから。明日帰る」

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