第4話

私たちは三ヶ月前に結婚した。本来なら幸せな新婚生活を送っているはずだった。

――けれど、現実はまるで違っていた。



高瀬健と出会ったのは、高校一年の春。バイト先が同じだったのがきっかけで連絡先を交換した。やがて毎日のように連絡を取り合い、自然と距離は縮まった。気づけば、彼は私にとって誰よりも大きな存在になっていた。



人生で一番つらい時期、傍で支えてくれたのは健だけだった。もしあのとき健がいなかったら、私は今も暗闇の中を彷徨っていたに違いない。



高校を卒業したあとは、健の借りていたアパートで一緒に暮らし始めた。古くて狭いアパートだったけど、将来の夢を語り合った、あの時間が、今思えば人生で一番幸せだったのかもしれない。



あの頃の健は、穏やかで優しくて、大人びた考えを持っていた。私がどんなに子どもじみたことをしても、笑って受け入れてくれた。だから、喧嘩をした記憶すらない。



今の健は、まるで別人だ。一日に何度も怒鳴り、私が謝るまでは口もきいてくれない日さえある。



全ては隣人のせいだ―――



どうしてこんなマンションを購入してしまったのだろう。ここにさえ住まなければ、あの男に出会うこともなかった。健との関係が崩れることも、こんなにも心が壊れることもなかったのに―――






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