第4話

彼氏にフラれた挙句、幼なじみに引きずられおパンツ丸見えにされたあの忌まわしい夜から数ヶ月。


私は新しい恋が始まる予感なんてこれっぽっちも感じない、むしろ『貧乳と言われるのが怖い病』を患い悶々とする日々を過ごしていた。


私の名前は鈴木桃子。飲料メーカー勤務。貧乳。




――社員食堂。



「ああん」


「ヤダ何?」


私の声に眉間に皺を寄せて睨む同僚の志保。


「バイブ…」


「は!?ちょっとアンタ、フラれたからって」


「はいもっしー」


「ああ、そのバイブね」


同じ大学だった広美から電話がきた。


『ヤッホー貧乳!元気してるぅ~?』


「たった今、元気がなくなりました」


『あっはードンマイ!そんなアンタに朗報よ!今週土曜日に盛大な貧乳パーリィがあるからアンタ、ミス貧乳関東代表として来なさいよ!また電話するから待ってて!じゃ!』


「…ちょっ、」


広美は一方的に喋って電話を切った。


相変わらず自己中な女だわ。でも広美だって私に負けず劣らずのなかなかの貧乳じゃないの!


「ぷぷぷ」


なんか笑える。


「何その貧乳パーリィって」


冷めた目で私を見ている志保。


「な、なぜそれを!?」


「今の広美ちゃんでしょ?声でか過ぎて全部聞こえたわ」


確かに広美の声はでかい。おっぱいは小さい。


「私も行こうかなその貧乳パーリィ」


今日のBランチ・ミックスフライ定食のエビフライを食べながら志保が言った。


「ダメダメ絶対ダメ!爆乳お断り!」


そう。志保は信じられないくらいの爆乳。豊胸疑惑で触ったり照らしたり何度も何度も検証したけど紛れもない天然爆乳。

痩せすぎず太くもなく志保を抱いた男は皆そのカラダの虜になる抜群のプロポーションの持ち主。私も志保に抱かれたい。


「あー肩凝るわぁ~」


その爆乳を強調しつつ肩に手を置く志保。


「あー肩凝った事ないわぁ~」



なんかムカついたからスマホの電話帳を開き、志保の名前を『爆乳』に変えてやった。


…むなしくなった。


ええい、広美の名前も変えてやる。

私が『ミス貧乳関東代表』なら広美は『ミス貧乳日本代表』だ!


…なんか負けた感がするのはなぜ?


あーヤダなんかムカつく。


そうだ!ついでにアイツの名前も変えてやる。


佐藤界…佐藤…佐藤…

佐藤栄作?佐藤B作?佐藤蛾次郎?


うーんどうしよう…


『さとう』を変換したら『砂糖』が出た。


いいやコレで。


『砂糖』


誰これ。


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