テレポーテーション
わたしはJR〇〇駅の近くのビルでショッピングをした帰りに体調不良でJRの電車内の座席でぐったりと項垂れていた。乗客の服装は厚手のダウンや冬場のコートオンリー。わたしも、もこもこのベージュのダウンをきっちり着こんでいた。だがしかし熱あるんじゃないかってくらい全身があつい。この時のわたしの血液でスープを作り猫舌の人に振る舞ったら口の中を火傷して歯茎裏や頬裏がグジュグジュになるかもしれない…。
ちょっと横になって寝たいな。なんて思った矢先、電車の外の景色が暗くなり、トンネルに入った…。
トンネル?
なんで?
わたしが乗ったJR◯◯駅から目的地のJR××駅までトンネルなんてものはない。
でも外の景色はトンネルの中のそれだ。真っ暗でなにも見えない。わたしは不思議に思って、立ち上がろうとした。その瞬間電車内の電灯の色がぶわりと変わった。青白く落ち着いた電灯の光が、眩しく白みの強い電灯に切り替わったのだ。
ん?と見上げていた視線を全体に行き渡らせる。
電車内の景色が違う…。
えっ。
向かいに座っていた乗客は黄色いニット帽をかぶって、ダウンを上まできっちり全部上げて口元まですっぽり隠していたおじさんだったはずだ。
サラッと千鳥柄のコートを着た小柄なマダムではなかった。
わたしが知らない間に乗客が入れ替わった?もしかして、わたしは寝ていたのだろうか。
座っている座席を見ると…赤い…。先ほどは青色の座席だったはずだ。
わたしは思いっきりマヌケヅラをしていただろう。
今乗ってる電車ってJRじゃないんじゃないか。
次は××駅です、と目的の駅に到着したアナウンスが流れた。
ますます混乱する。
わたしが向かった駅は××駅だ。
ホームに降りてすぐわかった。ここは阪急のホームだ。阪急××駅に到着したのだ。
わたしはJRに乗っていたのに…どういうことだ。もしかしてわたしは今まで眠っていて、JRの電車に乗っていたのは夢で寝ぼけていたのだろうか。体調不良だったし…。
…いや、JR〇〇駅の駅近のビルでショッピングしただろう。買ったお洋服が入ったショッピング袋も持っている。それに乗った〇〇駅という駅名はJRしかない。
わたしは思った。これはテレポーテーションなのではないか。
改札口では当たり前だが引っかかった。わたしはピタパで乗っているので、ピタパを阪急の駅員さんの元へもってゆく。女性の駅員さんだったが、駄目元で「あの、さっきJR〇〇駅から乗ったんですが気づいたら阪急電車に切り替わってました…」駅員さんはわたしを一瞥すると「……」と無言でピタパを受け取り小さい機械に通す。絶対不審者だと思われてんな。でもわたしはテレポーテーションしたことに先にテンションがあがっており、わくわくしていたのでまあ不審者に見えるだろうな。
阪急の駅員さんは小さい機械をカチカチとなにやら操作して小さいく「ええ?」と狼狽えた。
そして信じられまないと言うように、クリクリした目でわたしを見た。「あの、さっき伺ったんですけどどちらから乗られましたっけ?」「JR〇〇駅です」「ええ?」
おかしなやり取りだ。ここは阪急××駅の改札だ。
後ろからヌッとメガネをかけた小柄なおじさん駅員が顔を出した。
訝しげにわたしを見て
「どうかしたんか」と女性駅員さんに聞いた。
女性駅員さんは小さい機械をカチカチ操作しておじさん駅員に、わたしの耳にはまったく拾えない小声でボソボソと説明していた。
おじさん駅員はほんの一瞬フリーズしたが、すぐに不機嫌そうに顔をゆがめてわたしにピタパを突き返してきた。
「どうぞ、通って」とぶっきらぼうに言って改札を開けてくれた。
たぶん小細工したと思われて、面倒だから通してくれたんだとわかった。
イラッとしたが無理はない。
テレポーテーションしたことの証明は難しいのだ。
それから数年が経った。
ある日、宇宙人の特番バラエティが放送されていた。その番組では、薄い濃さのサングラスをかけた無精髭の、いかにも怪しげな風貌のおじさんやニコニコ笑顔を浮かべた、どこか飄々とした雰囲気の女性が宇宙人専門家として招かれていた。
宇宙人は人間をUFOにさらってしまうの事例が多々あるのだそうだ。わたしは「んなわけないでしょ〜」とくすぐったいような感覚、ポテチをツマミながらだらっと見ていた。やっぱりポテチはコンソメが1番好きだな。
宇宙人専門家が真剣かつ夢中に解説しだした。「UFOにさらわれた人間はね、前後の記憶を消されてしまうんだよ。UFOにさらわれたとある女子学生の話しですが、さっきは学校の教室にいたのに、気がついたら自宅の自室のベッドの上にいたりね。まさにテレポーテーションしたかのような感覚になるんだよ」
〝テレポーテーション〟
ポテチをつまんで口に運ぶ動きが止まる。
そうか。
わたしはあの日宇宙人によってUFOにさらわれたのかもしれない。
今でもなにがなんだかよくわかっていない。
ただこれは直感だが…わたしはあの日、JR××駅へいってはいけなかった…のではないかと感じている。
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