犬
家族の一員である犬が死んでしまった。ミニチュアダックスフンドの女の子だ。15歳だった。8月の暑い日に旅立っていった。
彼女は動物病院で息を引き取った。肺炎だった。動物病院から連絡を受け、わたしは父と動物病院へ車で向かった。ふたりでぐすりぐすり泣きながら鼻をすすりながら向かった。
彼女の小さな身体が詰められた棺桶を、動物病院で受け取った。重かった。腕と心が軋むようキツい重さだ。
父とわたしは棺桶を自宅に持ち帰った。
リビングに棺桶を置いて、彼女の顔を見るために開ける。いびきが聞こえてきそうなくらい生き生きとしたいつも通りの寝顔だった。彼女の名前を呼んだ。すると棺桶に横たわる彼女からむくりと彼女のシルエットをした陽炎のようなものが起き上がったのを見た。棺桶は高さがあるので、キュートな短い足の陽炎の彼女は一瞬戸惑っていた。棺桶をひっかからずまたげるかわからず不安だったのだろう。しかし彼女はすんなりまたげた。
わたしは夢を見ているような、ぼんやりとした意識で彼女の陽炎を目で追った。のっしのっしと彼女はリビングを出て廊下を真っ直ぐ歩き、いつもいる玄関のヒンヤリした場所でまるまってすやすや眠り出した。父は見えていない様子だ。
わたしは驚くことはなかった。ただ冷静に、一緒に帰宅出来て良かったと思った。
それから数日、彼女の陽炎は玄関でまるまってすやりと眠っていた。さらに暫くすると、わたしや父の顔を見上げくりくりの目で様子を伺っているように見えた。彼女をペット専用の埋葬地で火葬してもらった。それからも彼女の陽炎はぴったりとわたしと父のそばにいた。
あるとき夢を見た。
わたしが彼女を撫でていた。彼女を撫でながら「大好きだよ、ずっと大好きだよ」と言っていた。彼女がわたしに言っていたように思うし、わたしも言っていたと思う。
夢の中で「天国いかなくていいの?」と彼女に聞いたら夢から覚めてしまった。ポロポロ大粒の涙をぶら下げながら起床した。
それから、彼女は天国へ向かったのだろうなと思う。
今でも彼女の気配や匂いを感じる。気まぐれな彼女のことなので天国とお家を行き来してるんだと思う。
その後彼女に関連するグッズを飾った棚を作った。芝の上を走り回る写真やペットカートに乗ってお散歩する写真などたくさん写真を飾り、お花を定期的に供えている。花瓶に入れたお花をくんくん嗅いで気に入って手元に置いてガジガジはむ彼女が毎回目に浮かぶ。きっと向こうには実際にお花が届いているのだ。
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