占い師(1)

わたしは占いが好きだった。

配信アプリで占い師を生業としている女性…Gさんと知り合った。話が上手かった。テレビで見かける芸能人とも話せたらこんな風に楽しいんだろうなと思っていた。

Gさんはリスナーの相談にも親身に乗っていた。リスナーはわたしも含めてリアルでも悩みを抱えた人ばかりだった。Gさんは「それはこうするべきだね」と解決策を教えてくれる。リスナーはその通りに行動したら、スムーズに進むのだ。みんなGさんに感謝していたしGさんが心の底から大好きだった。まさしくわたしたちにとって救世主だった。

Gさんは定期的に占うイベントを配信で行っていた。投げ銭をしたリスナーに占いを行うシステムだった。タロット占いだ。配信越しにGさんがカードをめくる音が心地よい。料金は30分5000円だ。リスナーみんなが、もう少し料金を上げた方がいいんじゃないかと言っていた。Gさんは良質な占い師なので、みんなに負担のかからないように最安値で占いをしてくれる。

Gさんはアマゾンの欲しいものリストをSNSに公開していた。Gさんは凄腕占い師だが、やはり占い師職業上収入が低いらしかった。Gさんにワイングラスをプレゼントした際は喜んでくれて、それからぐっと親しくなれた気がした。LINEや本名も教えてくれた。

Gさんの配信を聴きにいったら、会いにこないかとリスナーみんないる前で誘われた。

Gさんは東京に住んでいる。わたしは西の方に住んでいるので、新幹線か飛行機で東京へ向かうことになる。リスナーは「いいなあ…」とみんな羨ましそうにコメントしていて、優遇されているような特別感があり気分が良かった。

わたしはひとつ返事で新幹線のチケットを取って東京へGさんに会いにいく予定をたてた。ホテルが取れず、どこに泊まるか悩んでいたときGさんがホテルを手配してくれた。助かったー!とわたしは身にしみて「ありがとう!!」と感謝したら、Gさんは配信越しにフフッと穏やかに笑っていた。



当日。東京駅にわたしはいた。

Gさんに会えるぞ…!

ゆきの新幹線はわくわくで胸がいっぱいで、2時間超えの乗車時間は一瞬で過ぎた。アドレナリンが勝った。

東京駅からGさんのお店の最寄り駅までいく。

本日の予定はGさんのお店で1回6500円の占いをしてもらう。Gさんのお店は雑貨も売っているので、そこで買い物もして…夜ご飯も食べて…Gさんが手配してくれたホテルに宿泊する。次の日はGさんの知り合いのエステサロンでエステを2000円で施術してもらう。

楽しみだ!


Gさんのお店の最寄り駅までは、電車を乗り継いで案外すんなりと向かえた。スマホにGさんからのLINEが入っていた。駅に迎えにいくつもりだったけど、寝坊しちゃったからお店に直接来て欲しいとメッセージが入っていた。

ちょっと残念。Gさんに早く会いたいな。まあGさんは昨日の夜中まで配信をしてくれていたので、寝不足なんだろう。仕方ない。

わたしは送られてきたお店の地図を見ながら、見慣れない東京の街を歩き地図の矢印通り細い路地に入った。

日がまったく入りこまず、建物のコンクリートが少し冷たい印象だ。Gさんに「到着したよ」とLINEを送った。20分後に「開いてるから入ってていいよ、中に店長さんがいるからお話ししたり雑貨見たりしといてね」と返事が来た。



結局Gさんは1時間遅刻して店に到着した。その間にお店の店長さんは小太りのおばあさんで、大きい石のついた指輪を全ての指にはめていた。虚ろな目をしており、「いらっしゃい。Gから話は聞いてるからそこら辺に座ってなよ」と言ったっきり、終始口は閉ざされたっきり背中を向けていたので少し気まずい思いをした。


ガラガラ!と扉が開き、ひょっこりと白い顔が店をのぞく。Gさんはオレンジ髪の三つ編みおさげに、細いフレームのメガネをかけていた。なにより着物を着ていたことに驚いた。スナックのママのような雰囲気を感じてお金がかけられていそうな着こなしに、わたしは目を丸くしていた。Gさんは目を細めて「やまのみつちゃん?」とわたしに尋ねてきた。


「そうだよ」

わたしは応えた。


「遅れてしまってごめんね、さっそく準備すするから待っていてね」




Gさんは持っていた風呂敷を丁寧に解いて、中からタロットを取り出した。


いきなり占いをしてくれるらしい!嬉しい。

わたしは胸が高鳴るのを感じた。



「ああ、間違いのないように教本と資料を参照しながら占うね」


Gさんは風呂敷の底からゆったりとした動きで本を取り出した。

タロット占いのすすめという本だったと思う。街の本屋の占いコーナーで並んでいるんだろうなといった感じだ。本の裏にはバーコードと2400円と本の価格が表示されていた。1回6500円…か…。わたしは若干違和感を感じた。


Gさんは「今日は西から来てくれてありがとう、本当に嬉しいよ」と雑談をまじえてタロットを混ぜだした。 



占いは、タロット占いのすすめを読みながら当たり障りのないものだった。


夜ご飯は焼肉屋さんへいった。Gさんはお肉をせっせと焼いてくれた。配信アプリで本当は嫌いなリスナーの話しをしてくれた。Gさんは配信アプリのリスナーの悪口を脂ぎった目をして話しており、楽しそうだなと思った。そしてGさんはフリーランスの占い師で、先ほどのお店はGさんの知り合いのおばあさんのお店でGさんのお店ではないことも知った。そして実家からの仕送りで生活しているらしい。Gさんは20代後半に見られるが、本当は35歳だということも知った。



Gさんの手配してくれたホテルは、全国に展開しているビジネスホテルだ。Gさんはホテルの入り口まで送ってくれた。わたしがホテルに入ってフロントで受付を済ませても、Gさんは外からこちらを伺っていた。見張られているような感じがした。


ずっと配信のような複雑で技術のあるトークは披露されなかった。なんとなく、Gさんは配信以外は大人しい人なんじゃないかと思った。どんどん気持ちが冷めてゆく。同時に我に返って、Gさんとの関係は異質であり、洗脳のような形で操作されていたのだと思えてきた。

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