第16話 エッフェル塔の男たち

「本当はプチラパンを連れてこようと思って奮発したのに」と鉄雄は言った。

 晴は軽く笑って外を見る。エッフェル塔にあるレストランは高級レストランで、フランス行きが決まってから鉄雄はすぐに予約していた。

「ほんと、鉄雄は芽依が好きだね」

「だって、相変わらず子ウサギみたいでつい…可愛がってしまう」

「で…芽依は別れたいって?」

「…そんなわけないじゃん。無理して…言ってるのよ。いろんなこと考えて」

「頭でっかちになってるってこと?」と鼻で笑いながら聞いた。

「…晴。それは晴もじゃない? フランスに来たのって、灯花と距離を置くためでしょ?」

「さあね。もともと仕事で呼ばれてたし…。それに…そろそろみんな一緒ってわけにもいかない」

「晴もそう思うの?」

「灯花のことを思ったらね」

「…なんか責められてる気がする」

「鉄雄は仕方ない。芽依をあのまま放ってはおけない状況だったし、助かったと思うよ」

「芽依のことだって、このままでいいのか、悩んでる」

「じゃ、いい男と再婚してほしいって?」

「まぁ、そうね。でも無理でしょうけどね?」

「無理?」

「私ほど魅力のある男がいるかしらね? あの子、私のこと大好きだし」

「…たまに鉄雄が分からなくなる」と晴はため息をついた。

「そうよね。でも捨てられるまで一緒にいるつもりよ」

「それじゃ、ずっと一緒ってことだ」

「そうなの。だから馬鹿な考えはやめて欲しいわ。モンプチラパンと別れたら、晴と暮らすとでも思ってるのかしら?」 

「そう? 暮らしてみる?」

 初めて晴にそう言われて、鉄雄は驚いた。

「一体、どうしたの?」と鉄雄は真面目に聞くと、晴は笑った。

「それも悪くないと思って」

「灯花がなんか言ったか、した?」

「灯花は…何もしてないけど」

 運ばれてくる料理は前菜からメインに至るまで、シックな見た目で、味はもちろん申し分なかった。

「モンプチラパンだったら、ものすごく喜ぶ顔が見れたのに…」

「…」

「何それ?」

「ものすごく喜んだ顔だけど?」と晴はふくれた。

「晴! 何それ! 面白い」と鉄雄は『ものすごく喜んだ顔』を笑った。

「…で、本当に一緒に暮らしてくれるの?」と真剣に聞く。

 晴の答えは思いがけないものだった。

「…灯花を…くれない?」

「は?」

「選択できる? 一緒に暮らすか、灯花をくれるか」

「灯花は…あげられない」

「芽依と別れる?」

 答えられない鉄雄に晴が言った。

「だから、フランスに来た」

「私たちが別れるってこと?」

「それが…最適解」と晴が言った。

 鉄雄は言葉を無くした。そんな時、携帯に灯花から写真が来た。二人並んで笑顔の写真。

 二人を手放すことができなくなっている自分。でも目の前にいる好きな人。

「横向いて」と言ってカメラのシャッターを切る。

 形のいい横顔を収めて、灯花に送った。大好きな人の一番綺麗な写真を。

 その人を手放さなければいけない。

 携帯を見ると、芽依の写真が届いてる。ずっと側にいてくれた笑顔。今も少しも変わらないあの頃の。

 灯花に「もっと送って」とメッセージを送ったが、それ以降返信はなかった。


 無言が続いている間にデザートが運ばれた。

「…最悪解を選んだらどうなるかしらね?」

 晴がゆっくり鉄雄を見た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る