第8話 遠距離

 晴さんがあまり家に来なくなった。

 私は私で部活で家にいる時間が少ない。土曜日も練習があるし、日曜日も大会に出たりすると、私はメンバーでなくても先輩の応援に行かなくてはいけない。

「べべ、中学生って忙しいのね」とパパが言う。

「うん。塾も…そろそろ行った方がいいかな」

「そんな…。もっとべべがいなくなるじゃない。勉強、教えてあげるから。わからないとこ、持ってきて」とパパが言った。

 私はパパに勉強を教えてもらうことになった。

「パパ、晴さん、元気?」と数学の教科書を開きながら聞いてみる。

「晴? 今、フランスにいるわよ」

「え? お仕事? いつ帰って来るの?」

「しばらく…向こうだって言ってたけど」

「どうして?」

「向こうのデザイナーに呼ばれて、晴をイメージして作りたいんだって」

「すごい。だって…モデルの仕事が減ったって言ってたのに」

「晴…ね。ずっと呼ばれてたの。それを断って、日本にいたの」

「…パパ? それって…晴さん…帰ってこないってこと?」

「いつかは帰って来るでしょう」

「パパ…。いつかって…」

「べべ、ほら、どこが分からないの?」

「…晴さん」

「べべ? 晴はいなくなったわけじゃないから」

「パパも辛い? 会えなくて辛い?」

「…べべほどじゃないわよ。大人だから」

「パパ、フランス行きたい」

「パパも行きたい」

 思わず二人でしんみりしてしまった。夜食を持ってきたママがびっくりしするぐらい黙って、二人で俯いてた。それで慌ててママが晴さんにビデオ通話した。

「何?」とぶっきらぼうにママの電話に出るから、私もパパも画面に二人して写る。

「あ、灯花!」と晴さんが私を呼んでくれた。

「ちょっと、晴」とパパが不服そうに言う。

「なんで、勝手にフランス行ったの?」と私も勝手なことを言った。

「ごめん。泣き顔の灯花に言い出せなかった」

「泣かないのに。晴さんがフランスに行くくらいで…」

「泣かない?」と晴さんが聞くから、パパの後ろに隠れて「泣かない」って言った。

「晴…元気?」とパパが聞く。

「まぁまぁ。灯花は?」

「灯花? …泣いてる。後ろで」

「…鉄雄は?」

「私? 泣きたい」

「後一年で帰るから」

 私は一年という長さに絶望した。

 落ち込む三人にママは「クリスマス、みんなでフランスに行ってもいいですか?」と言った。

 「プチラパン!」とパパは喜び、私はママに抱きついた。

 画面越しの晴さんは横向いて、手で髪を掬いながら「いいよ」と言った。

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