第11話
食事をするためにギルドの酒場に向かった俺たちは、ギルドに入った途端に何故か色んな冒険者から声をかけられた。
「お前ら元気になったのか」
「無事でよかったぜ」
「治ったみたいで良かったわね」
背中をバシバシ叩いたりしてくるやつも居て、本当に体を労っているのか謎だった。ヒョウガは軽くキレていた。
「何でこんな絡まれるんだ?」
「まったくだ何なんだコイツら!」
「わりぃわりぃ、オレたちのせいかもっすね」
「あんたたちが寝てる間に三人でクエストをやってただけなんだけどね……」
「なんかいつの間にか二人が重傷で寝てる事が広まってましたよね……」
どうりで歩いてるだけでこんなに絡まれる訳だ。
もみくちゃにされながらも何とか席に辿り着くやいなや料理を注文する。
「とにかく肉だ!肉を寄越せェ!」
「俺も沢山持ってきてくれ!」
「あんたたちねぇ……そんなにいきなり食べたらお腹壊すわよ……」
俺たちの注文に呆れるリナ。だけど三日振りの食事に遠慮なんてしてられない。
「まぁ良いじゃないっすか、腹が減ってはなんとやらっすよ」
「わ、私は魚のやつで……」
「かしこまりましたー!」
注文を受けたウェイトレスさんが厨房に向かう。
各々の注文が終わり待つこと十数分、次々と料理が並べられていく。
並べられた料理をしばらく無言で食べる――。
並べられた料理がきれいさっぱり無くなると、ウェイトレスさんが皿を片付ける。
「はぁー食った食ったー」
テーブルの下で足を組みイスにもたれかかるヒョウガ。
「俺も、もう食えねぇ……」
「あんたたち、本当にあの量食べきるとか……後で知らないわよ」
「うるせェ……食って回復するのが一番早ェんだ。でだ、カイト、テメェを使うってのは具体的にどォするつもりなんだ」
「ん?いったい何の話っすか」
「ハヤテたちは居なかったな、実は諸々の事件の黒幕を見つけることが出来るかもしれないんだ。そいつに会うために俺が生け贄として、ヒョウガと一緒にその場所に行けば良いと思ったんだ」
「あんたはまた無茶をしようとする……。わかってる?死ぬ可能性だってあるのよ」
「それでもだ、黒幕を捕まえて俺みたいな被害者をこれ以上出させたくない」
「そういうことならオレも協力するぜ」
「わ、私も!何が出来るかわかりませんが……」
ハヤテとアリアが賛同する。
「あんたたちまで……」
「リナは来ないんっすか?」
「行かないとは言ってないでしょ!」
「ちょっと待て、話が勝手に進んでいるよォだがこれはオレの戦いだ。テメェらが無理についてくる必要はねェ。それに弱いヤツが居たところで足手まといになるだけだ」
わざと突き放す言い方をするヒョウガ。
「なんだと!そんな言い方をしなくてもいいじゃないっすか!」
「二人とも落ち着け。それにあれだヒョウガ、生け贄は多ければ多い方が良いんじゃないか?俺一人じゃ黒幕に会えない可能性もあるしさ」
「チッ………………」
俺の言ってることが正しいと感じたのか押し黙るヒョウガ。
そんな中、少し遠くから俺たちの事を見つけたのか小走りで近付いてくる子がいた。
「やあキミたち、その様子だと仲直りは出来たのかな?」
「何だこのガキは?」
「カイトたちの知り合い?」
彼女の事を知らない様子の二人。
「この子はリナを助ける時に協力をしてくれたんだ」
彼女の方を向き、あの時は助かったよと言う。
「力になれたみたいで良かったよ」
「協力?こんなガキに何ができんだよ」
彼女の事を見て鼻で笑うヒョウガ。
「ガキガキ酷いなぁ、これでも冒険者なんだよ!」
「疑うのもわかるっすけどこの子の実力は本物っすよ」
「で、そのガキが何の用だ?」
「またガキって……あぁそういえば名乗ってなかったね。ボクはエマ、ちゃんと覚えてよね」
それぞれエマに名乗り返す。
「用って程の事じゃないけど、ここ数日寝てたカイトを見つけたから様子を見に来ただけだよ」
「だったら用は済んだろ、ガキは帰った帰った。オレたちは大事な話してんだ」
エマからメラメラと怒りの炎が燃え上がるのを感じる。
「かっちーん、もう怒った!そこの白髪頭にボクの実力をわからせたげる!」
「白髪じゃねェ!いいぜェ、食後の運動には丁度良いだろうしなァ!」
「お前らなぁどうしてそうなる……」
「こうなったらやらせてあげるしか無いわね」
呆れながらも全員で訓練場に向かうのだった。
「負けただと……こんなガキに……」
戦いは一方的だった。エマがヒョウガの攻撃を見切りまくり、攻撃の隙を突く。これの繰り返しだった。
「どうだ参ったかー、ブイブイ」
エマは両手をVサインにして勝ち誇っている。
「それでヒョウガ、あんたエマちゃんに何か言うことないかしら」
「チッ……」
立ち上がりエマの方を向き、罰が悪そうに頭を掻きながら言う。
「悪かったなガキガキ言って、オマエは強かった。だがなァ、今回負けたのは本調子じゃなかったからだ!そこは勘違いするんじゃねェぞ」
「わかってるよ、キミもカイトと同じくここ数日寝てたんだもんね」
「なあ、こんだけ強いならエマにも協力してもらわないっすか?」
「協力?」
エマは首をかしげて頭に疑問符を浮かべている。
「だからこれはっ!……まァ確かに強ェヤツがいればより確実だろォけど」
「だから何の話何だってばーっ!」
「それは俺が説明するよ。実はな――」
事情を聞いたエマは少し考えてから、
「ボクは構わないけど、それならさ、もっと強い人や多くの人に協力してもらった方が良くない?」
それはもっともな意見だが、
「あまり強い人や人数を用意したら警戒されると思うんだ。だからこれ以上は増やせないと思う」
「なるほどねー、具体的にはどうするつもりなの?」
さっき思いついた事を簡単に話す。
「ヒョウガ以外の数人が捕まってる役をやって取引の場所に向かうくらいしか考えて無かったが……他に良い案あるか?」
「それで良いんじゃないっすか」
「オレも異存はねェ」
「良いと思うよー」
「わ、私もそれで良いと思います」
「ならこれで決まりね」
俺の案であっさり決まってしまった。
「本当にこんなフワッとした作戦で良いのか?こう何か無いのか?」
俺なんかのフワッとした作戦で良いのか不安になりこれまたフワッと尋ねる。
「大まかな作戦としてはそれで良いのよ、あまりしっかり決めても想定外の事が起きた時に対処しづらいし。まあもちろん誰が捕まる役をやるのかとか細かい所は決めるんだけどね」
はいはーい!と質問があるのか手を上げるエマ。
「決行はいつにするの?流石に今日じゃ無いよね、キミたちの体力はまだ回復しきってないんだし」
「決行日か、なら三日後だ。それまでに細かい作戦やら、準備やらを各々するんだな」
それじゃあオレは寝る、と言いそのまま去ろうとするヒョウガを呼び止めるリナ。
「ヒョウガ!ありがとねあたしたちと協力しようとしてくれて」
ヒョウガは背を向けたまま、
「その方が確実だと思ったからだ、精々足引っ張るんじゃねェぞ」
そう言い軽く手を振り訓練場を後にする。
「それじゃあ、あたしたちも解散しましょうか。特にカイトはゆっくり休むこと、準備とか細かい作戦やらは明日また考えればいいんだし」
「それもそうだな、それじゃ俺は自分の宿に戻るよ」
「ボクも今日は疲れたから帰るねー」
そう言いエマも訓練場から出ていく。
「オレはクエストをこなしてくるっすよ、少しでも強くなっておきたいっすからね」
「わ、私も着いて行きますっ!」
「今日もお互い頑張るっすよー」
そう言うとハヤテとアリアはギルドに戻る。
「あいつら頑張ってるんだな」
「まあ、あんたたちの治療費の負担を少しでも減らす為でもあるんだからね」
治療費!そりゃ必要だよな……。
「い……いくらくらいなんだ……?」
「確か金貨2枚と銀貨50枚だったかな」
「………………………………………………マジ?」
「マジよ、今回の件が終わったらしっかりクエストをやることね。幸い支払いはしばらく待ってくれるって云ってるし」
かなりの金額に驚いたがそれでも頑張れば払えない額ではなかった。それにあれだけの傷の治療だ、もしかしたら安いくらいなのだろう。
「俺も頑張らないとな……。それじゃ今度こそ宿に戻るよ」
訓練場を出よう出口に向かおうとすると、リナに服の裾を掴まれる。
「カイト、その……」
「どうした……?」
振り返り言葉を待つが、リナが珍しく言い淀んでいる。
「……あ、ありがとね、助けに来てくれて。そ、それだけっ!それじゃあねっ!」
リナは下を向いたまま礼だけ云うとそのまま足早に訓練場から出ていってしまった。
裾を掴まれ少しドキッとしたが、ただお礼を云いたかっただけだったようだ。
「俺が結局一番最後か……さて帰るか……」
訓練場に一人残された俺は世話になっている宿に一人帰る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます