第8話

 彼女の提案に乗りやって来たのはギルドの訓練場。ここでいったい何をやるつもりなんだろう。

「それじゃあボクとしっぽ取りゲームをして貰います!」

「しっぽ取り……?」

 魔力でしっぽのような物を作りながら、

「こうやって魔力でしっぽを作って、これをこう着けて……っと」

 作ったしっぽを腰の後ろに着ける。

「このしっぽをキミが取るってだけ。どう?簡単でしょ」

「それだけなのか?」

「そ、これだけ。範囲は……ちょっと離れててー」

 言われた通り少し離れる。

「にしてもあの子何者なんすかね、あいつに勝ちたかったら三十分くれって」

「どうみても私たちより年下ですよね?」

 この街では十六才以上じゃないと冒険者になれなかったはずだが……。

「その辺でいいよー。水をぴゅーっと一周させて、と……よし!こんなもんかな」

 直径十五メートル程度の円のフィールドが出来ていた。

「ここでやるのか」

「時間もないことだしパパっと始めちゃおっか……とその前に簡単なルールがないとね。まずお互い武器や魔術による攻撃は禁止、三分おいかけっこして一分休憩を五セット、一セットでもボクからしっぽを取れたらキミの勝ち。まぁこんなとこかな何か質問ある?」

 かなりシンプルなルールだった。

「これだけでアイツに勝てるようになるのか?」

「勝てるかはキミ次第だけど、やらないとまず相手にすらならないんじゃないかな。さっきの戦い見てたけど彼そこそこ速そうだったし」

 そこそこ!?本当にこの子はいったい……。

「それじゃ今度こそ始めよっか!位置について……よーい、どん!」

 掛け声と共に一セット目が始まる。


 一セット目は追いかける事に精一杯で影すら踏ませてもらえず、あっという間に三分経ってしまう。

 二セット目、一セット目で走り回ったせいで体力が回復しておらずまともに追いかけることすらままならずに時間切れになる。


「辛そうだねもう少し休憩する?」

「はぁ……はぁ……まだ……大丈夫、だ……」


 三セット目、少し呼吸が楽になる。そしてだんだん彼女の動きが見えてくる、次はどっちに移動するかの癖も何となく見えてきた。

 四セット目、追いかけるというより追い込むように動きを変える。そうすることで体力を温存しながら、彼女の動きをよく見られるようにする。ついに時間切れギリギリの所でしっぽに手を掠める事が出来た。


「お~今のは惜しかったね~。これはラスト取られちゃうかも?」

「よく言うぜ……これだけ走ってても息切れしてないのに……」

「あはは~、そんなことないよちゃんとボクだって疲れてるよー」

 いよいよ最後のセット、ここで取らないと負けになるのか……。そういえば負けたら何かあるのか?


 そして五セット目が始まる。

 四セット目と同じように追い込んでいく。ただし、最後だから積極的に仕掛けていく。

 何度も仕掛けるがギリギリの所でするりと避けていく。後ろに目でも付いているのかってくらい避け続ける。

 それにしても彼女の体力はどうなっているんだ。ヒョウガと同等のスピードで走り回っているのに疲れてる素振りも見せない。口ではああ言っていたがやはりまだまだ余裕があるらしい……。

 その事に少し。そう思うと不思議と魔力が溢れてくる。

 そういえばルールでは、お互いに武器や魔術による攻撃は禁止としか言われていなかった!つまり、魔力による身体強化はしても良いはず!

 なら、追い込んで仕掛ける瞬間に強化をすれば、彼女の意表を突けるはず!

「ほらほら~時間がないぞ~」

 時間的にこれがラストチャンス……。追い込んでいき、彼女がどっち逃げるかを予測する。

 ――そして方向転換したところに合わせて、足を魔力で強化する!

「ここだぁああああ!!」

「……!!」

 しっぽを捕らえたと思った瞬間――目の前から彼女ごと消えていた……。


「い、今の見えたっすか?」

「ぜ、全然見えなかった……。気づいた時にはもうあそこにいました……」


「おっととと……、やっちゃったな~」

 後ろから声がしたので振り返ると、彼女はばつが悪そうに頬をポリポリかきながら立っていた。

「いや~最後のは驚いたよ~。うっかり少しだけ本気出しちゃったよ」

「やっぱり全然本気じゃなかったんだな」

「えへへ、バレてたか~。……と、時間切れだね」

「俺の負けか……」

「今のはボクの負けでいいよ、ボクに少しでも本気を出させたってことでさ。それにキミも気づいてるじゃない?」

「なんの話だ……?」

「本当に気づいてないの?キミはボクの動きを目が良いことに」

「俺って目が良かったのか……」

 全く気づいていなかった!なにせ俺がこの目で見ている世界は、これが当たり前だとずっと思っていたからだ。

 いつの間にか近くにきていたアリアとハヤテが話に加わる。

「森で魔族と戦った時も、良く避けられるなと思ってました」

「攻撃全部避けてたっすもんね」

「つまり、ボクの動きを視ることが出来たのなら、彼の動きも視ることが出来るんじゃないかな」

「だからこういうルールだったのか」

「ま、そゆこ……と!」

「ん?大丈夫か?」

 一瞬彼女の体がぐらついた気がしたが、

「な、なんのことかな?ほ、ほらボクの事は良いからさ、助けに行くんでしょ。早く行った行った!」 

 そう言いながら背中を叩かれたらこれ以上気にするのは違うのだろう。それにリナの事も心配だし。

「わ、わかったからそんなに叩くな……いてて」

 笑いながらごめんごめんと言う彼女の顔は元気そうだった。

「それじゃあ今度こそ行ってくるよ」

「ホントに一人で行くんすか?」

「一人じゃなかった時に、今のあいつは何するかわからないだろ」

「た、確かに……そうっすね」

 ハヤテも納得したみたいだった。

「そういえば忘れる所だった」

 彼女の方に振り返り、

「ありがとな、俺たちのために付き合ってくれて」

「別にいいよ、ボクが好きで首を突っ込んだだけだし」

「それじゃあな」

 別れの挨拶をして俺は森へ向かう。



「私たちはどうしましょうか」

「そんなの決まってるじゃないっすか、こっそりついて行くんすよ」

「えぇぇぇ!!ば、バレたらどうするの!?」

「だからこっそりついて行くんじゃないっすか。見失わないうちに行くっすよ」

「うぅぅ……本当に大丈夫かな……」

 ハヤテとアリアもまたカイトの後を着けるように訓練場をあとにする。


 そして残った彼女は訓練場に併設されている診療所に入っていく。

「はぁ……はぁ……、最後ちょっと危なかったけど……何とか……誤魔化せたかな……」

「あなた、その体でまた無茶をしたのね。あれほど無茶な運動はしないよう言っているのに」

 彼女は力なく笑い、

「……でも、見ちゃったからには……放って置けなくてさ……」

「あなたって子は……。とにかくしばらく安静にしてなさい」

「はーい……」

 そうして、診療所のベットで横になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る