第7話
翌日、俺たちがクエストに行こうとギルド前の広場から東の通りに向かおうとすると、様子のおかしいヒョウガに会う。
「ヒョウガ、あんたどうしたの……?」
「………………」
何か言っているようだがここからじゃ声が小さくて聞き取れない。
「またいちゃもんすか、お前も懲りないっすね」
「待って、様子がおかしい……」
リナがハヤテを制止する。
「…………戦え……」
「なに……?」
眉をひそめるリナ。
「オレと戦えェエエエエエエエエエエエエエ!!」
ダンッ!と地面を蹴る音、一気にリナに襲い掛かるヒョウガ。
「離れて!!」
リナが俺たちに叫んだ時にはもう既に目の前まで迫っていた。
魔力で作った氷の爪。槍を彷彿とさせる真っ直ぐな突きをリナは右に跳んで避ける。しかし、避けきれず頬に一筋の血、それが地面に落ちる前に凍り付く。
「(昨日より速くなっている!?)」
ヒョウガの勢いが凄まじく、止まる際に地面に靴の跡が出来るほどだった。
「チッまだこの力に慣れねェな……」
再び接近して攻撃を始める。氷の爪や蹴りの格闘によるラッシュ。かろうじて致命傷になる一撃は受けていないが細かいダメージが蓄積していく。
「リナちゃん!」
「リナが押されてるなんていったいどういことっすか!?」
「あいつ昨日までと動きが全然違う!」
昨日の今日でヒョウガに何があったんだ!
「もう我慢出来ないっす、オレも加勢する!」
加勢しようとするハヤテにリナは、
「やめときなさい!それにこれはあたしとこいつの問題なのよ!」
「けどよぉ……」
そう言われて立ち止まり、見守る事しか出来なくなったハヤテ。
そして徐々に追い詰められていくリナ、ついに鋭い蹴り上げが直撃し、地面に叩きつけられる。
「かはっ!」
「「「リナ」」ちゃん!!」
何とか立ち上がるリナ、ゆっくりと近付いていくヒョウガは足に魔力を集中させて技の準備をする。
「これで終わらせる……」
それに応じてリナも刀に魔力を付与する。
空気が緊張していく。緊張が最大に達した瞬間――!
お互い後一歩の距離を詰め――、
「『氷刃脚』!!」
「『緋焔一閃』!!」
交差する刀と蹴り、しかし、拮抗していたのは一瞬だった。刀を弾かれそのまま無防備な腹部に強烈な一撃を貰い、大きく吹き飛ばされる。
地面をしばらく転がされ、ようやく止まってもリナは起き上がっては来なかった。
「う、嘘……」
「リナが負けるなんて……」
リナが敗北したことに茫然としているアリアとハヤテ。
動かなくなったリナの方に向かうヒョウガ。
これ以上やらせるわけにはいかない!リナとヒョウガの間に割ってはいる。
「これ以上どうするつもりだ!」
俺のことを無視してなおも近づくヒョウガ。
目の前で止まると、
「邪魔だ……」
そう言い、直後に脇腹を蹴られ横に飛ばされた。
障害が無くなったヒョウガはリナの元にたどり着き、そのままリナを抱え上げる。
「ま……待て……」
ヒョウガがギロりとこっちを睨み、
「(あァ……そうかコイツが……)」
「?」
「コイツはオレのもんだ……、だが、チャンスくらいはくれてやる。取り返したければ東の森の遺跡跡まで来い……、ただし一人でだ……」
言うだけ言うと街の外に去って行った。
「大丈夫っすか?カイト」
「て、手当てしますね」
そう言って駆け寄ってきたハヤテとアリア。
「ああ……俺は大丈夫だ、ただ……」
ヒョウガの去って行った方を見る。
「あいつ、リナを連れて行って一体どういうつもりなんすか!」
「わからない……けど、取り返したければ俺一人で来いって……」
「そ、そんなの無茶だよ!リナちゃんだって負けちゃったのに!」
それはわかっている……だけど、
「それでも放って置くわけにはいかないだろ。だから俺は行くよ」
「で、でも……」
「無駄っすよ、漢には負けるとわかっていても、戦わないといけない時があるんすよ」
「負けるとは思ってるんだな……」
「そりゃまぁ……って冗談っすよ冗談。勝って欲しいに決まってるじゃないっすかー」
だけど実際勝てるとは思ってはいない。昨日の今日でリナに圧勝して見せた程の力だ、今の俺では勝てないだろう。それでも助けに行かなくては……。
「それじゃあ行ってくるよ」
「ちょっと待ったぁあああ!」
いきなり後ろから大きな声で呼び止められる。
「彼に勝ちたいならボクに三十分くれない?」
そう提案してきたのは小柄な少女だった。
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