第4話
ゴッツたちが行方不明になってから数日が経過した。その間、俺たちはクエストをこなしながら特訓の日々を過ごしていた。
「くそっ魔術を当てるのはやっぱり難しいな……」
「相手の動きを読んで置くように撃つのよ。あんたなら出来るんじゃない?」
「そんなこと言われても相手の動きが早くてっ……」
今相手にしているのはウルフ。すばしっこいのが特長のモンスターだ。
(相手の動きを読む……相手の動きを読む……、あれは……飛び掛かる構え!)
「ここだ!」
空中で見事に命中し倒すことが出来た。
「やれば出来るじゃない。さてあっちの様子はどうかな……」
ハヤテとアリアは連携して倒すように言われていた。ただしハヤテが倒さないように。
「そっちに行ったっすよ!」
「は、はい!」
ハヤテがアリアの方に誘導し、アリアが魔術で倒す形になっている。
「倒さないようにするのも大変っすね」
「あんたは一人で突っ込む癖があるから仲間を頼る練習よ。一人で倒すのが悪いとは言わないけどね」
アリアがよろよろとこちらに歩いてくる。
「魔術沢山使って疲れました……」
「お疲れさま、アリアちゃん。あなたにはモンスターを倒すことで自信を持って欲しくてね。そうすることでどんな相手にも怯まずに動けると思ってね」
「あ、あの時はごめんなさい……。全然動けなくて……」
「いいのよ、あの時はあれで。結果的にみんな無事だったんだし」
「私駄目なんですよね、怖くなると動けなくなっちゃって……。そういうのもあってすぐパーティを追い出されちゃうんです……」
「それ酷くないっすか!かくいうオレも突っ込み過ぎだの、うるさいだので追い出されたなあ……」
「それは全面的にお前が悪いんじゃ……」
「残念ながらどっちもね、冒険者ってのは命がけだからね、いざというときに動けなかったり、協調性が無いと駄目なのよ」
「ただ強いだけじゃ駄目だってことか」
「まあそう言うことね……」
一瞬暗い顔をしていたがすぐにいつもの顔に戻っていた。
「それじゃあ今日はこの辺にしときましょうか」
翌日ギルドに集まって話していると……。
白い髪の目付きの悪い冒険者が絡んできた。
「よお、久しぶりだなリナ。そんな雑魚供とつるんでていいのか?オマエの目的はいいのかよ?」
リナの目的……そういえばリナのことはほとんど知らなかったな……。
「いきなり雑魚とは何なんすかあんた!」
「雑魚に雑魚と言って何が悪い!シルバーでもない雑魚が!」
「ぐぬぬ……」
確かに俺たちはブロンズランクだ、ランクという分かりやすい強さの差を見せられてハヤテも強くでられないでいる。
「やめなさいヒョウガ!ハヤテも落ち着いて」
いつもとは違う怖い目でリナは答える。
「あたしの目的はあんたには関係無いでしょ」
「関係無いだと……」
「それとこいつらは放っておいたら心配だから面倒見てるのよ」
俺たちのことを話している時は表情は少し和らいでいた。
「…………そうかよ、関係無いって言うなら証明してみせろ!オレと戦って雑魚と一緒にいても強いってことをなァ!」
呆れながらもリナは応じる。
「それであんたが納得するなら戦ってあげるわよ」
戦うためにギルドの訓練場まで来たリナたち。準備時間の数分でどこから聞き付けてきたのかギャラリーが集まって来ていた。
「いつの間にかこんなに人が集まってくるとは……」
「もうどっちが勝つかで賭けもやってるみたいっすよ。オレはもちろんリナに賭けたっすけどね!」
「お前も参加してんじゃねーか!」
「当然っすよ……勝つのはリナに決まってるからっすね」
ああ、こいつはこいつでリナを信じてのことなのか……。
「リナちゃん勝てるでしょうか……?」
「勝つに決まってるっすよ。あいつはオレたちよりずっと強いんすから」
リナたちの準備が終わったらしく訓練場の真ん中に歩いていく。
「そろそろ始まるみたいだな」
「チッ……何でこんなに野次馬が集まってんだ」
「まったくね、見世物じゃ無いってのに……。それじゃあ始めましょうか」
こいつヒョウガとは昔パーティを組んだこともあって戦い方は何となくは分かっているけど……。あれからどこまで強くなっているか……。
「雑魚と遊んでいたオマエとは違う所を見せてやる」
あたしは刀を構え、ヒョウガも既に戦闘態勢。空気が一気に張り詰め、最大に達した瞬間……同時に動き出す!
「火球よ我の敵を焼き焦がせ!」
距離を詰めながら詠唱をして発動する。
「『ファイヤーボール』!!」
火球が三つヒョウガに飛んでいく。
「(これは牽制だ、なら……)」
火球を回避しながら詠唱を始めるヒョウガ。
「氷よ牙となりて敵を貫け!」
三つ目の火球を回避したところで発動させる。
「『アイスファング』!!」
地面から牙のような氷があたしに向かうように立て続けに真っ直ぐ生えてくる。その氷の牙を右に跳んで避ける。
「相変わらず右に避ける癖残ってるみたいだなァ!」
避けた先では既に大分接近していたヒョウガが蹴り技を放つ構えをしていた。
「喰らえ!『氷刃脚』!!」
氷の刃を纏った左脚による蹴りを、刀の峰を左手で押さえて刃でかろうじて受け止める。しかし、威力が高く後ろに吹き飛ばされる。
「どうした!オマエの実力はそんなもんか!」
挑発には乗らず再び詠唱を始める。
「火球よ我の敵を焼き焦がせ!」
そのまま走りながら発動させる。
「『ファイヤーボール』!!」
「当たるかよ!」
当たらなくてもいい、避けることに意識を割かせてその隙に距離を詰める。
「そら、お返しだ!」
ヒョウガも『シュート』で応戦してくる。お互いに魔術を避け、ついに間合いに入り刀と蹴りの応酬が始まる。
「悔しいけどすげぇな……リナと互角の勝負をしてやがる」
本当に互角何だろうか?だって、
「リナの方が余裕を持って攻撃を捌いているように見える」
「す、凄い……私には二人とも凄い事しかわからないのに……」
リナが攻撃を完璧に捌くことで、ヒョウガは攻撃が当たらなくて、焦って攻撃が雑になってきているように見える。
「戦況が動くかもな……」
焦っているわね、攻撃が荒くなってきている。相変わらずなのね、焦ると荒くなるのは。その焦りがミスを生み隙になる。
そしてその時が来た。
「クソがっ!喰らいやがれ!『氷刃脚』!!」
胴体を狙った蹴りを後ろに跳んで避け、刀の側面を指でなぞり炎を纏わせる。
「『
あんたは大振りの技を使って隙だらけ。そこに強力な技を叩き込む!
「『緋焔一閃』!!」
隙だらけのヒョウガに肩から腰に斜めに描く炎の一閃。直撃したヒョウガは大きく吹き飛ばされる。
「ぐぁああああああああ!!」
地面を転がるヒョウガ。しばらくしてうつ伏せで止まる。
決着が付き刀を鞘に収める。
「あたしの勝ちね」
「ま、だだ……オレはまだ、負けてねェ……」
ふらふらしながらも立ち上がるヒョウガ。肩で息をしながらなお戦おうとしている。
「そこまで!」
突然響いた制止の声。その声の正体はギルドマスターであるジークのものであった。
ギャラリーの中からヒョウガの方にゆっくりと歩いて行き言った。
「もうやめとけ、それ以上は殺し合いになっちまう」
「オレは……まだ、やれる!」
それでも諦められないのか吠えるヒョウガ。ジークはヒョウガに近付き軽く小突くと、そのまま後ろに倒れこむ。
「これが現実だ。――誰か回復してやれ」
観戦していた数人がヒョウガに近付いて手当てをする。
決着が付き散っていくギャラリーたち、その流れに逆らうようにカイトたちが近付いてくる。
「リナちゃん、怪我は無いですか?」
心配そうに見つめてくるアリアちゃん。
「あたしは大丈夫よ」
「さっすがリナっすね、いい儲けになったすよー」
儲けって……さてはギャラリーが勝手にあたしたちで賭けでもしてたかな。
「お前なあ……とにかく無事で良かったよ」
少しヒョウガの方を見てから。
「あたしたちもそろそろ行きましょうか。あんまりここにいるのもね……」
訓練場の外に出ると後ろから凄い圧が近付いて来た。ジークさんである。
「よおリナ見事な一撃だった。それにまたパーティ組んでいるんだってな」
「ジークさん……、ええまあ……」
ジークさんがカイトたちを順番に見る。何かに納得したのか頷きあたしの頭を片手で乱暴に撫でながら言う。
「ふむ……お前たちもこいつのこと頼んだぞ」
「頭をガシガシすんな!」
「あっはっは!リナが狼狽えるなんて珍しいな」
腹を抱えながら笑うハヤテが言う。
「俺たちになにが出来るかわかりませんが頼まれました」
「わ、私もリナちゃんにはお世話になってるから頑張ってお返しします!」
「それじゃあな、俺は仕事に戻る」
そう言ってジークさんは去っていった。
「やっぱギルドマスター凄かったっすねー」
「当然よあの人マスターになる前は超凄腕の冒険者だったらしいし」
「どおりでめちゃくちゃ強そうに感じたのか」
「でも、優しそうにも見えましたよ?」
「うっそだー、威圧感しか感じ無かったすよ」
あたしたちは談笑しながら今日もクエストを受け、特訓に向かうのだった。
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